次のステップに挑戦すべき時が来た授業

昨日の日記の続きです。

授業研究は5年生の算数、単元は「同じものに目をつけて」で、TTでの授業です。
授業規律はとてもよい状態です。指示に対して子どもたちはとても素早く行動します。授業者はきちんと全員ができているかを確認しています。しかし、子どもたちを特にほめることはしません。その代り笑顔で子どもたちと目を合わせます。既に授業規律を教室に浸透させる段階は終わっているということです。笑顔で目を合わせる、うなずくだけで大丈夫な状態になっています。

この日授業のめあて、「同じものに目をつけて考えよう」を示し、問題文を読んで把握させます。かごとりんご7個の代金とかごとりんご5個の代金から、それぞれの値段を求める問題ですが、わかっているもの、求めるものを子どもたちに確認します。説明は最小限にして、何人も指名して全員がしっかり把握できるようにしています。
線分図を書くことを指示します。かごとりんご7個の線分図をT2が板書した後、かごとりんご5個の線分図をノートに書くように指示します。この時、線分図を書くポイント、「端をそろえる」「1個分の長さを同じにする」をはっきりと伝えました。
ここまでの展開は、教科書通りにきちんと流れています。事前に何度も模擬授業をやったそうです。その際に、教師の話す言葉もしっかり検討したことがわかります。ムダな言葉がほとんどなく、最小限で済ませているからです。これは何度も検討しないとなかなかできることではありません。教科書を教える授業の流れとしては、素晴らしいものになっていました。まだ3年目ですが、ここまでできていることは称賛に値します。もう次のステップを目指してもいい段階に来ていると思いました。
具体的には、まずめあてですが、「同じものに目をつける」というのは、算数の視点、考え方です。これを最初に提示するのではなく、子どもたちからその視点を引き出すのです。引き出した時点でその算数的な価値づけを行い、めあてを提示して適用題に移るのです。線分図も書くことをこちらから指示するのではなく、「このような問題を考える時に、今までどんなことをやった?」と過去の経験から、線分図やテープ図を使うことを子どもたちから出させるようにします。もちろん書く時のポイントも子どもたちから出させます。
子どもたちから言葉を引き出す力はついてきていると思います。教師の指示で子どもが活動するのではなく、子ども自身で考えて活動できるようにレベルアップを目指してほしいと思います。

子どもたちは線分図にすぐに取りかかります。T1、T2共にすかさず机間指導に入りました。ちょっと早すぎます。手がつかないと予測される子どものところに行くのならわかるのですが、そうでなければ、まず全体の様子を確認する必要があります。子どもたちが課題を把握しているか、見通しが持てなくて動けない子はいないかを確認して、その状況によって、作業を止めさせて再度説明をするのか、手のついていない子どものところへまず行くのかといった判断をするのです。机間指導では、ちょっと教えすぎの感があります。できているところまでを部分肯定し、簡潔な言葉で指示やヒントを与え、時間をかけないようにするべきです。どのような言葉かけをすればよいかは事前に検討されていたように見えましたが、端的な言葉で言えるようにはなっていませんでした。また、まわりの子どもに聞いてもいいよ」と一言添えてもよかったかもしれません。この学級の子どもたちであれば、互いに聞き合うことは問題なくできるでしょう。

線分図を見ながら、めあてに注目させて、同じもの違うものを確認します。ここは、先ほども述べたように、子どもたちから考えを出させたい場面です。「2つのものがあった時に、どうする?」「比べる」「比べるって、どんなことを見つけるの?」「同じもの」「違うもの」といったやり取りを子どもとして、「じゃあ、この線分図ではどこが同じで、どこが違う?」と問いかけ、同じもの、違うものは何を表わしているのかを子どもから引き出すのです。
授業は、違うものがりんご2個分の値段になっていることを押さえて、自力解決に移りました。その後、ペアで自分の考えを図や線分図を使って説明し合います。どのペアも体を相手の方に向け、指で自分の線分図を指しながら説明をしていました。互いにしっかり聞き合えているようです。相手の考えを聞いて納得すれば、自分の考えに付け加えてもよいとしていることも、影響しているのでしょう。

全体の発表では、意図的に指名をしています。子どもをつなぎながら全体に共有する時間を取ります。発表に対してしっかり受容し、ありがとうといった言葉も忘れません。子どもたちは、全員しっかりと発言者の方に体を向けますが、線分図を使う説明なので、どうしてもそちらが気になります。子どもの視線は黒板の線分図と発言者とで奪い合いになります。自分から線分図を使っていいか授業者に確認して、前で説明する子どもがいました。最初からこうした方がよかったかもしれません。視線の奪い合いという意味では、T2の板書のタイミングも問題になります。これについても、相当に打ち合わせをしていたようです。そのせいでT2にプレッシャーがかかったのでしょうか、異常に緊張していました。子どもの発言が終わってから書くようにしていたのですが、発言中に書き始めてしまうことがありました。視線を奪い合うことになるのですが、すぐに発言者の方に視線が戻りました。子どもたちは話を聞いているので、板書を見る必要がなかったのでしょう。子どもたちが育っていることを感じました。
子どもたちの発言をつないでいると、言葉が足されていくことがあります。こういった場合には、そのことを指摘して評価してほしいと思います。これに限らず、子どもの発言を受容するのですが、算数的な評価がありません。発言のどこがよかった、考え方のどこに価値があるかを評価するのです。子どもたち自身で評価できることが理想ですが、最初のうちは授業者が行ってもよいでしょう。また、ある程度発言が集約された時点で、全体でその価値を話し合ってもよいでしょう。今は、先生や友だちにしっかり聞いてもらえることが評価であり、そのことが自己有用感につながっています。これを、算数的な価値の評価によるものに変えていくことが次の課題でしょう。

基本が押さえられ、できていることがたくさんある授業だからこそ、次のステップへの課題が明確になってきたと思います。授業規律がしっかり確立し、子どもたちが集中して取り組んでくれるようになると、授業は楽しくなります。これでよしとするのか、もう一歩進んで子どもたちに力をつける授業に挑戦していくのか、授業者の心根が問われる時が来たようです。この学校には年齢の近い仲間が何人かいます。今回の授業に際しても、授業づくりを一緒に行っています。彼らにも同様に問われていることです。互いに学びあいながら次のステップを目指してくれることを信じています。

検討会はいつものように、グループによるものです。どのグループも授業規律のよさや同じ説明を子どもが何度もすることのよさを取り上げていました。先生方は、子どもたち一人ひとりをよく観察しています。ペア活動で、途中で苦しくなったペアがいたことも報告されました。全体でのペアの動きのよさに注目すると同時にこういった個をしっかり見ることができていることに感心しました。また、特定の子どもが何度も指名されたことも指摘されました。下位の子どもです。こういった子どもが答えられそうな場面で積極的に活躍させようとした結果です。よく気づいたと思います。
検討を通じて、授業のよい点や課題などがより明確になり、深まっていきます。よい授業だからこそ、よかったことだけでなく、深いところでの疑問や課題が浮かび上がってくるような検討会になっていました。検討会の質も上がってきていると感じました。

毎回どのような授業に出会えるか楽しみな学校になってきました。秋には私が授業をしますと、報告に来てくれた若手もいます。今回の授業を一緒につくった仲間の一人です。今回の授業の課題を共有して、その回答を見せてくれることと思います。毎回よい刺激と学びをいただけることに感謝です。
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