学校が変わる兆しを感じる

先日、小学校の現職教育に参加してきました。授業研究の前に、4人の若手の授業を見せていただきました。

2年生の担任の初任者は、授業規律を意識していることがよくわかりました。しかし、できていない子どもを注意するだけなので、どうしてもすぐに緩んでしまいます。モグラたたき状態になってしまうのです。授業者の子どもを注意する声が目立ちます。子どもたちが指示に従わないと次第に声が大きくなってしまいますが、これは逆効果です。子どもたちを認める言葉、よい行動をほめる姿勢を大切にしてほしいと思います。
活動に対する目標や評価の基準が示されません。そのため、子どもたちはただやっているだけです。集中力が続きません。面白いのは、授業者の声かけや指示とは関係なく、個別に集中力が戻っている子どもがいることです。授業者が教室の状態をコントロールできていないのです。
発表も指名された子どもだけが発言するだけで、他の子どもは聞いていません。発言に関連して意見を聞かれることもありません。自分たちに出番がないことをよく知っているのです。挙手が少ないのは、発言が評価されないからです。発表する意欲がわかないのです。
このような状態では子どもとの人間関係が心配なのですが、授業者を見る子どもたちの表情は悪くありません。授業者との関係が悪いのではなく、授業が面白くないのです。聞いてみると、授業者は休み時間などは積極的に子どもたちと遊んでいるということです。こういうことがよい影響を与えているのでしょう。
ちょっと表情が乏しい方なのですが、こういう方が意識して表情をつくるようになれば格段に授業は変わります。表情をコントロールすることができるようになるからです。まずは、笑顔をつくって、子どもたちをポジティブに評価することから始めてもらうようお願いしました。

6年生の社会の授業は、子どもたちの表情がとても素晴らしいことが印象的でした。子どもたちに笑顔がとても多いのです。もちろん授業者も笑顔がいっぱいです。前時の復習の場面では、ほぼ全員の手が挙がります。手の挙がっていない子どもも自分で教科書やノートを調べています。参加する意欲がとても高いのです。ただ、自主的に調べていることを評価しなかったのが残念でした。次の問いでは、先ほどより少し挙手が少ないので、「ちらっと見てもいいよ」と指示します。教師は子どもの行動を自分でコントロールしたがるのですが、先ほどの場面でほめておけば教師が言わなくても自分で調べるようになります。教師の指示で動くのではなく、自分で考えて動けるようにしてほしいと思います。
授業者は、時々子どもをチェックする目で見ることがあります。その時は笑顔も消えます。笑顔で子どもを認めることができる方ですから、もっとその点を活かせるとよいと思います。
社会科の授業に関して、どのようにして進めたらいいのか迷っているようです。知識中心から脱却するために、まず教科書を読み込むようにお願いしました。資料はその単元のねらいにつながるものが用意されています。なぜこの資料や写真が載っているのか考えることで、教科書の意図が見えてきます。教科書の資料をもとに考えることで、ねらいにつながる活動や発問をつくることができます。このことをいくつかの例をもとに話しました。

3年生の初任者の授業は道徳でした。とにかく厳しい表情なのが印象的でした。授業開始からかなり時間が経っているのですが、まだ読み物の内容把握です。子どもたちは教師の目が離れると集中力を失くし勝手なことをする傾向があります。教師がチェックする目線で子どもたちを見ているということです。後から聞いたところ、教師の見ていないところでちゃんとしていないことについてお説教をした直後だったということです。なるほど、厳しい表情だった理由がよくわかります。しかし、説教をしてもなかなか子どもたちの行動はよい方向に変わりません。また、その時のことが尾を引いて教師の表情が変わらないのもあまりよいことではありません。教師が気持ちを切りかえないと、子どもも切りかえることはできません。子どもをしゅんとさせたら、笑顔を見せてやってほしいと思います。子どもをほめることでよい行動を増やすことを意識するようにお願いしました。

4年生の授業は国語でした。授業者は固有名詞で子どもをほめることができます。子どもの発言をポジティブに評価しています。しかし、発言していない子は発表を聞いていません。子どもたちは発言に対する教師の評価で正解がどうかを判断するので聞く必要がありません。授業者も発言者だけを見ていて、発言が終わると説明してしまいます。参加していない子どもを参加させることを意識することが必要です。
グループにするとテンションが上がります。話し合いではなく聞き合いを意識することが大切です。特に、根拠がはっきりしないことをグループで話し合いにすると考えずにしゃべることができるので、どうしてもテンションが上がります。
主な登場人物を聞くのですが、「主な」の根拠が説明されません。「この3人だね」と結論を共有しますが、根拠が共有されていません。国語は読書ではありません。論理的な教科です、つねに根拠を問うことを意識してほしいと思います。

授業研究は、6年生の算数の文字と式でした。
授業者はちょっと緊張気味です。声はしっかり出るのですが、間や抑揚がありませんでした。
ディスプレイにパワーポイントで「1本x円の鉛筆3本と、70円の消しゴムを1個買います。代金をy円として、xとyの関係を式に表しましょう」という問題を表示して復習します。すぐに手が挙がった子どもは4人です。その1人を授業者は指名します。正解を答えるとさっき手が挙がらなかった子どものほとんどが「いいです」と答えます。この場面をおかしいと思う感覚が求められます。すぐに、ディスプレイに答を表示します。子どもに考える時間を与えなくてもできるようになっているのならいいのですが、本当に全員できていたのかちょっと不安です。次の問題は、「1本xの鉛筆と、70の消しゴムがあります。x×5+70×2=yは何を表わしているのでしょうか」です。円を落としているのはわざとなのかとも思いましたがそうではありません。答は「1本x円の鉛筆5本と、70円の消しゴムを2個の代金」です。先ほどの復習を活かして本時の課題につなげようというのですが、yが消えてしまっています。これでは、混乱させるだけです。教科書が関係の式をつくっていたのをいったんリセットして、「=」のない式にした意味が分かっていません。
本時の課題は、クッキーと紅茶、箱の値段から、与えられた式の意味を考えるものですが、授業者は、「○が○個の代金」と答えの話型を示します。これでは、この活動をする意味がありません。式を見ながら説明する言葉をいろいろと考えることがこの課題の目標です。不十分な説明が出てくるからこそ、どういう言葉を使えばいいのかを考えることができるのです。しかし、中には与えられた話型を使わない子どもも出てきます。本来はその子どもたちを活躍させればいいのですが、話型を指示したこともあり、机間指導で修正させていました。多様性を捨てれば指導は楽ですが、子どもたちの思考ほとんど深まりません。話型を使うことには慎重であるべきです。
答の確認場面で「どうしてそうなったのか、説明してあげて」と指示しました。説明してあげるというのは上から目線の言葉です。説明する側が上になってしまいます。「なるほどと思ってもらえるように説明してね」というように、聞く側が主体となるような言葉を使ってほしいと思います。また、子どもの表現が少しくらい違っていても「同じ」と括ってしまいます。その違いをきちんと気づいて、「ちょっと違うね。それってどういうことかな」というように取り上げてほしいと思います。
考え方を説明させますが、評価をせずに、「他の言い方はありませんか?」と聞きます。授業者の求める説明が出た後は、「言いたい人いますか?」と聞きます。子どもたちは、教師の求めるものが何だったかを嫌でも意識することになります。また、求める答を引き出すために、「×(かける)は、先生は何て言ったかな」と子どもに問い返します。つまり、先生の言い方を覚えてその通りに言えと言っているのです。子どもに考えなくていいと言っているのと同じです。最後に答を印刷した紙を黒板に貼ります。予め準備された先生の答を書けと言っているのです。それなら、最初からそれを出せと子どたちが思ってしまいます。
本時の主課題は、グループで1つ式をつくり、それを他のグループがどういう意味か考えるというものです。グループで式をつくると言っても、意見が分かれた時に相談して決めるための根拠がありません。当然ですが、じゃんけんをするグループも出てきます。子どもたちのテンションが上がります。問題を紙に書いて黒板に貼った後、それぞれのグループで考えますが、子どもたちは一切かかわろうとしません。かかわる必然性もありません。グループを使う意味がありませんでした。
答を発表しますが、正解かどうかの判断は授業者がします。これでは、子どもたちが問題をつくる意味がありません。子どもたちは指示されていることをやらされている感しか持ちません。

授業検討会の場で、授業者は子どもたち申し訳ないという言葉を言いました。この発言が出てくれば大丈夫です。これから修正していけばいいのです。
授業検討は、グループを活用した「3+1授業検討法」で行われました。教務主任は初めての試みなので上手くいくかどうかとても心配していました。しかし、先生方は私が指摘するまでもなく、しっかりと授業について大切なことを話し合っていました。全体の場で発表される課題は絞られていますので、授業者も受け入れやすかったと思います。教科書では次の問題で、1つの式が複数の意味を持つことを取り上げています。その問題をあえて取り上げずに最初の課題と同じような問題をグループでやらせたことや、グループ活動をする意味について指摘されました。
私からは、子どもたちの思考を広げたり深めたりする活動の重要性やグループ活動が成り立つための条件についてお話ししました。

この市では授業研究や授業改善にこれまであまり積極的に取り組んではいませんでした。この学校でも授業改善をしようとし始めたばかりです。焦る必要はありません。この日の授業検討会の様子を見て、先生方が授業をよくしたい、よくなりたいと思っていることがよくわかります。そうであれば、こうした授業研究を積み重ねていけば必ず改善につながります。
検討会終了後、この日授業を見た先生方とお話ししました、どなたもとても前向きでした。今まで授業についてみんなで考える風土がなかっただけです。この空気が変わっていく兆しを感じました。互いに学び合えばきっと授業は大きく変わっていくと思います。これからの変化が楽しみです。
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