授業研究で授業の構成のあり方を考える(長文)

一昨日は中学校の現職教育に参加してきました。午前中は2時間、校内のほぼ全学級の様子を観察しました。

全体に感じたのは、子どもたちの様子が授業によってかなり異なっているということです。同じ学級でも、よい集中を見せ、素早い行動をとる授業とそうでない授業の差が大きくなっているのです。気になるのが、子どもたちを見ない先生が目立ったことです。黒板に向かって説明したり、教科書から目が離れないまま授業を進めたりしているのです。一方、昨年度よくアドバイスを求めてくださった方は、子どもを受容することやほめて授業規律をつくることを意識しています。子どもとの人間関係もうまくつくれている方が多いように思います。子どもたちにとってこの差は大きいものです。そのため、授業による子どもたちの態度に顕著な違いが出てくるのです。学校がよくなっていくときによく起こる現象です。子どもたちにとって安心して参加できる授業、学びのある授業がもう少し増えてくれば、授業による差は減ってきます。あと一息だと思います。
また、子どもたちとよい関係をつくれている先生でも、挙手をする子ども、積極的に発言する子どもだけで授業が進んでいることがよくあります。全員参加を意識してほしいと思いました。

小テストが配られてもなかなか集中しない、小テストが終わって次の行動に移る時にざわつきがなかなか収まらないといった学級がありました。他の授業ではどうなのかとても気になり、次の時間の最後にもう一度見に行きました。英語の授業でしたが、確かにテンションは高めです。グループでの活動は笑顔が多く声が大きいのです。しかし、よく聞いているとちゃんと授業に関係のあることを話しています。熱心に活動しているのです。グループ活動を終えて元に戻る時は、素早い行動をとります。ざわついても、授業者がちょっと声をかけて子どもたちに視線を送ればすぐに静かになります。授業が終わる直前で集中力が落ちやすい時でも、ちゃんと授業規律が維持できていました。気になる学級でしたが、問題になるほどではありません。笑顔で、明確な指示と目指すものを伝えればよい姿を見せてくれるのです。授業者は上手に学習規律をつくっていました。この授業者には、子どもたちのテンションをもう少し落とすために、話すことだけでなく聞くことを意識した活動を増やすことをアドバイスさせていただきました。

1年生の家庭科の授業はどの子どももとても集中して作業をしていました。布の端を折って縫っているのですが、定規を使って何度も測りながら丁寧に作業をしています。黒板を見ると子どもたちの集中の理由がよくわかりました。この課題の評価基準がA、B、Cと3段階に分けて子どもたちによくわかる形で書かれているのです。指定された幅できちんと縫えているかが基準なので、何度も測っていたのです。折り目をしっかりつけるのにアイロンを使いますが、子どもたちは静かに順番を待っています。自分がきちんとやりたいので、友だちの作業を待っていることができるようです。目標や評価基準が明確でないまま活動している授業では、だらだらと作業をすることがよくあります。子どもが自己評価できるような評価基準を示すことでしっかりと集中できるのです。
子どもたちは、集中していましたが個人での作業に終始していました。子ども同士がかかわるような場面をつくることも意識してほしいと思いました。途中でいったん止めて、上手い子どもにどんなことに注意をしたかを発表させる。グループで互いにアドバイスし合う時間をつくるといったことをお願いさせていだきました。

授業研究は1年生の社会科の気候と人々の暮らしでした。子どもたちはとてもよく集中して授業に参加していました。よく反応もします。授業者は緊張していたのか、表情に余裕がありませんが、それでも、子どもたちはとてもよい表情で真剣に課題に取り組んでいます。子どもたちと授業者との関係がよいことがよくわかりました。
授業は気候帯の種類の復習から始まります。ここでは気候帯の名前だけで、その定義や特徴は押さえませんでした。そのため、「寒帯」「冷帯」「熱帯」「乾燥帯」といった言葉の持つイメージが先行します。
いろいろな地域の家とその生活用品の写真を用意して子どもたちに気候帯を予想させ、その理由を書かせます。ここで「予想」という言葉が気になりました。答のあるものです。「予想」では、明確な根拠をもって答えようとしない可能性があります。しかも、写真は8枚もあります。1枚にかける時間はどうしても短くなり、根拠は曖昧になりそうです。
写真を配る時「ありがとう」という声が上がります。この学級では「ありがとう」という言葉を大切にしているようです。とてもよいことです。しかし、全員ではありません。ありがとうと言っている子どもを評価して広げたいところです。
個人で考えますが、まわりと相談してもよいと告げます。自然に相談している子どもたちがたくさんいます。授業者は○つけをしながら、「こういう発想いいね」と声かけをしています。「教科書を見ていいですか?」という問いかけがありました。「もちろんいいよ」と教科書を見ていいことを伝えると、それを聞いて子どもたちが一斉に動きました。行き詰っていたのでしょう。それまで教科書や資料を根拠として考えなかったのは、「予想」という言葉に引きずられていた可能性がありました。
個人での作業を止めて、1枚ずつ子どもたちに答と理由を聞いていきます。たくさんの子どもたちが理由を含めて書いているのに挙手はわずかです。授業者は挙手した子どもを指名します。その後、同じ答、理由の人と聞き返します。子どもたちをつなごうとする姿勢を感じました。後から手を挙げた子どもも友だちの答を聞いた後なので、ある程度自信を持って答えることができるはずです。何人か指名したいところでしたが、授業者は時間のことを意識していたのかあまり指名しませんでした。
冷帯か寒帯かの根拠で意見が分かれた時に、樹木が生えているかどうかを根拠とした意見が出てきました。とてもよい視点ですが、授業者はこのことをあまり丁寧には扱いませんでした。もっと強調しておく必要があったと思います。そもそも気候帯を定義するときにポイントとなるものの1つが植生です。この課題に取り組む前に押さえておかなければならないことでした。
熱帯では、子どもの多くは半そでを着ているといったことを理由として答えていました。しかし、日本でも夏は半そでを着ます。先ほどの植生といった根拠と比べると曖昧です。また、高山気候では理由の決め手がありませんでした。授業者はとっておきのヒントとして、用意しておいたポンチョを取り出します。ポンチョを教科書で探させ、写真の場所がアンデスと気づかせます。このヒントは答を知るためのヒントであって、考えるためのヒントではありません。授業者は意図的に衣服という生活に密着したものに注目させたかったようです。続いて、気候に合わせた人々の生活の工夫をグループで話し合わせました。
子どもたちはグループごとに1枚の写真を選んで考えますが、どの写真を選ぶか相談しても判断の材料が明確ありません。また、各グループが別々の写真で考えると共通の話とならずに考えをつなぐのが難しくなります。全体で一度簡単に意見を出した後で、特に考えさせたいものに絞ってグループにすればよかったと思います。資料とした写真が家と生活用品なので、どうしても衣服といった身の回りのことにしか考えがおよびません。せいぜい乾燥地帯で羊を飼うといったことしか出てきません。しかし、これはそういう特徴があると知っているだけで、なぜ羊なのかが気候と関連づけて考えられていません。子どもたちは活動していたのですが、社会科としての学びはあまりない授業となってしまいました。

授業者は子どもとの関係づくりや基礎的な授業技術はかなり意識できていました。そのためグループでの授業検討では、課題に対して子どもたちの意見や発表の根拠が弱かったことについての話に多くの時間が割かれました。全体での話し合いも、課題をどうすればよかった、どこに時間を割けばよかったのかといった教材研究に関するも意見が多く出ました。このことは決して悪いことではないのですが、この教材に関することなので一般化しにくいものでした。そこで、通常は教科の教材に関する話はあまりしないのですが、今回はこの授業を例に、授業の進め方や課題のあり方についてまずお話をしました。
根拠を持って考えさせるためには、根拠となる知識や情報をまず子どもたちがしっかりと持っていなければいけません。この授業であれば気候帯は気温や雨量、植生をもとにして分けられていることを最初に全体で共有することが必要でした。次に、教科としてこの単元の目標が何かをはっきりとさせ、そのことを意識して課題を設定することが必要です。この授業では、ここがずれてしまっていたのです。地理では気候や地形といった地理的な条件の中で人々がどのように暮らし、社会的な生活を営むか、どのような工夫をしているのかといったことを学習します。そこには、日常の生活だけでなく、農業や工業といった生産的な活動や経済的な活動も含まれます。この単元では、日常の生活だけでなく、気候とかかわりの深い人々の暮らしを考えることが求められます。教科書はその点が非常によく考えられています。寒帯では、イヌイットがスノーモービル使っている写真と犬ぞりを使っている写真を並べ、生活が変化していることや今でも犬ぞりを使っていることでその環境への適応や工夫を考えるようになっています。乾燥帯ではキャラバン?の写真を載せることで生産活動が難しい環境の中で、貿易という経済活動を行うことになったことを気づかせるようになっています。気候帯ごとに、別々の視点を学べるようになっているのです。
この授業では、興味を持たせやすい家庭生活を扱ったのですが、そこから脱して早くより広い視点を持たせる必要があったのです。前半の気候帯を予想する活動はできるだけ短くし、「羊を飼う」といったことから「どうしてなの」と再度グループに戻して考えさせたり、気候帯がわかった後、用意した写真にとらわれず自分で資料を探して工夫を見つけたりといった活動にする必要があったと思います。

この他に、この授業だけでなく全体として共通のこととして、挙手しない子どもたちを参加させることを意識してほしいこと、答や結果を伝えるだけでなく子どもがわかる瞬間、できるようになる場面を授業に組み込むことを意識してほしいことなどをお話しして終わりました。

検討会終了後も、たくさんの先生方とお話することができました。皆さん前向きに私の話を聞いてくれます。とても楽しく充実した時間でした。
この学校は研究発表を10月に控えていますが、それにかかわらず継続的に授業改善に取り組んでいきたいと校長は語っておられました。今後も取り組みを続けていくことで、今広がりつつある新しい授業スタイルが学校全体に定着すると思います。研究発表前にもう一度訪問する予定です。学校がどのように変わっているかとても楽しみです。
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