活動とねらいのずれた英語の授業(長文)

昨日は中学校で授業アドバイスをしてきました。初任者の英語の授業です。1年生の現在進行形の導入の場面でした。
以前に授業を見た時、指示が徹底できていない、子どもが聞く態勢ができていないのに話を始めるといったことが気になった先生です。今回どのような授業を見せてくれるか、期待と不安が混じった状態でした。

子どもたちの英語での挨拶の様子は、たくさんの先生方が観ているので多少緊張気味でしたが、笑顔も見られました。子どもたちとの関係もよいように思います。この日は1月になって初めての授業です。”What’s the date?” という問いかけに、子どもたちは ”January” を思い出せません。起立しているせいか、調べる子どももいません。わかった子どもを指名して答えさせます。すぐにそうだねと確認して、教師の発音を繰り返させました。こういう1問1答が子どもたちの参加意欲を下げてしまいます。「今なんて言ったか聞けた?」「言ってみて」「どう?」とうように、他の子どもたちにつないでいくことを意識してほしいと思いました。

現在形の表現の確認のために、授業者が学校へ出かけて、授業をし、パソコンを使うことを、現在形を使って英語で話します。この時の子どもたちは、全員集中して授業者を見ています。聞き取りたい、理解したいという気持ちが伝わってきます。話し終えた後に内容を確認します。手を挙げる子どもがいません。1人の子どもが思い切って発表してくれました。しっかりと聞き取れていたのですが、その後すぐに授業者が説明をしました。いくら説明されても聞き取れなかった子どもはわからないままです。もう一度聞かせて本当にそう言っていたのか確認をさせなければ、力はつきません。こういう場合、一部分であれば聞き取れた子どももいますから、聞き取れた内容や単語を発表させればいいのです。キーワードが見つかった後、再度聞き取らせれば大きく変わってきます。授業に参加することで、できるようになるという経験を積ませたいところです。
ここで疑問だったのは、この活動で子どもたちにどんなことを伝え、教えたかったのかということです。子どもたちは、単なるヒアリングだとしか意識していなかったと思います。授業者は、現在形は習慣的・日常的な行動を表現することを教えたかったのだと思いますが、その押さえが明確ではありません。子どもたちにはこのことは伝わっていないのです。

続いて授業者が毎日していることをワークシートの英文から抜き出させます。ワークシートは、Ms. ○○ 〔walk / write English / play soccer / speak Japanese / teach English / use her pen / talk with my sister〕every day. となっています。想像して○をするように指示します。子どもたちはまわりと相談したりしながら取り組みます。この課題はいったい何を目的にしたものかかがわかりません。この中から選ぶこと自体は英語の学習とは何の関係もない活動です。〔 〕の中の英文を理解するのが目的でしょうか。だとすれば、そのことをストレートに問えばいいのです。この作業にかなりの時間を割いていますが、英語の授業としてはムダな時間です。
指名してどこに○をつけたか発表させます。そして、”Ms. ○○” に続けて読ませます。3人称単数現在の ”s” を付け忘れました。このことを指摘して修正させます。次の子どももまた “s” を付け忘れました。結局 “s” をつけたのは1人だけでした。原因はどこにあるのでしょうか。授業者は3人称単数現在の ”s” の復習をするつもりだったのかもしれませんが、指示は「選んで○をつけて」です。課題とねらいがずれているのです。せめて、「英文を選んで完成させて」であれば子どもたちの意識は変わったと思います。子どもたちは求められた、英文を選ぶことに意識がいっていたので、英文を作ることが頭から消えてしまっていたのです。3人称単数現在の ”s” の復習が目的であれば、人物のアイコン、動詞のアイコンなどを用意して、その組み合わせで英文を作って発表させればすむことです。
現在進行形との比較のために現在形の確認をするのであれば、文が表現する状況を伝えることの方が大切です。授業者は ”every day” を使って日常の行動であることを意識させようとしましたが、これは危険なことです。”every day” があるから日常の行動を表わすと考える可能性があるからです。現在進行形は “now” をつけた例文を用意しています。現在形、現在進行形の違いではなく、”every day” “now” の違いに目がいってしまうかもしれません。できるだけ、単純な例文で違いを考えさせることが大切です。

現在形と、現在進行形の違いを考えさせるために、先ほどの ”every day” の例文を、動作しながら “now”をつけた現在進行形にして言います。ここで、子どもたちへの指示は、「違いを見つける」です。子どもたちは、何を問われているのかよくわかりません。比較すべき一方の対象である現在形の表わすものが明確になっていないからです。反応がないので別の例文に変えます。一生懸命理解しようとしているのに、次の文に変わってしまうとますます混乱してしまいます。ここで、指名した子どもは「be動詞+〜ing」と答えました。塾で習っているのでしょう。授業者のねらいと全く違う答えが出てきました。この日初めて現在進行形に触れる子どもは何のことかわかりません。しかし、授業者は仕方がないので、発言を受けて「be動詞+〜ing」の説明を始めてしまいました。せめて、「ingって何?先生はingって言ったっけ」とぼけるくらいはしてほしいと思いました。授業者が説明を始めると先ほど答えた子どもはずっと手遊びをしていました。自分はわかっているからもういいという態度です。このことが、この日の授業を象徴していました。子どもが考える場面はほとんどなく、知識のある子にとっては何も学ぶことのない、知識のない子どもは一方的に教えられるだけの授業になってしまっているのです。

ここは、「違いを言葉で説明する」ことよりも、状況に応じて現在形と現在進行形を使い分けられることをねらうべきだったでしょう。例えば、”I eat bread. Do you eat bread?” “I eat nattou. Do you eat nattou?” のようなやり取りをする。続いて、”I am eating bread. Are you eating bread?” “I eat rice. I am not eating rice.” などとして、違いを理解させる。”speak Japanese” “speak English” “speak French” などでもよいでしょう。そして、実際に動作をして、その状況を子どもたちに英語で表現させる練習をたくさんするのです。コントラストがわかりやすい動詞を使って、英語で表現することを通じて理解させる工夫をしてほしいと思います。

続いて、現在進行形の練習をするためにゲームを行います。横の見出しに”Stand” “Read the book”などの動詞句、縦の見出しに ”I” “You” などの主語が書かれた表がワークシートに書かれています。その表の欄にマークをつけます。マークは3種類ありそれぞれつけることのできる数と点数が決まっています。見出しの主語と動詞句を使って現在進行形を作って、ペアで交互に言い合います。もし、その組み合わせの欄にマークが書いてあれば得点になるというものです。
授業者はゲームの説明をしますが、子どもたちはワークシート見ていて顔が上がりません。説明終了後グループの形になるですが、説明を理解できていない子どもが目立ちました。実物投影機が使える環境にないのでちょっとつらいのですが、表の一部だけでも板書するか、拡大コピーを貼るかして、子どもたちが顔を上げる状態にする必要があります。また、活動の指示は、実際にやって見せるのが一番効果的です。余計な説明をせずに、見せるだけで子どもたちはしっかりと集中します。ちょっとしてことですが、こういうことが大切です。
ゲーム終了後、得点を聞きます。ここで気をつけなければいけないことは、英語の力と得点に何の相関関係もないということです。たまたま選んだところと文の組み合わせが一致したかどうかだけで得点は決まります。評価とねらいがずれています。こういう活動は学習が定着しません。やるだけ時間のムダなのです。このことは、次の場面で顕著になります。

授業者は、今度は書く練習をしようとねらいを示してから次の課題に移りました。授業者の動作を英文にして書くというものです。授業者は教室内を行ったり来たりします。しかし、子どもは何を書けばいいのかよくわからない表情です。授業者は ”walk” のつもりなのですが、子どもは理解できません。なぜなら、”be walking” を示す動作が恣意的だからです。初めて学習する場面では、表現と動作はできるだけ1対1である必要があります。ある時は横に移動する、ある時は行ったり来たりすれば、違った表現をするのかと思います。実際に ”walk” “walk around” などと区別する場面もあるからです。また、書くことがねらいならば、英文は100%作れる状態にしておかなければ、手の着かない子どもがどこでつまずいているかわからなくなります。
書く練習と言いながら、発表は口頭です。スペルを確認はするのですが、このずれが気になります。ここで、発表した子どもは、be動詞を落としました。先ほどのゲームを使った練習では定着していなかったことがわかります。修正した後、次の発表者もまたbe動詞を落としました。このことがこの授業の問題点を浮き彫りにしています。常に活動とねらいがずれてしまっているのです。
先ほどのゲームでは、子どもたちの意識は主語と動詞句の組み合わせに目がいきます。それで点数が決まるからです。表には主語と動詞句が英文で書かれています。最初の課題と同じく、英文で書かれているのでそのまま使うことを考えてしまいます。ワークシートの表を見ながらしゃべるのですから、書かれた英文をもとにしゃべります。動詞を現在分詞にしても、書かれていないbe動詞は落ちてしまうのです。こういうことを避けるためにも、アイコンを使うことを勧めます。アイコンであれば、そのアイコンが示す状況を英文で表現しようという意識が働きます。このことが大切なのです。
ゲームでのもう1つの問題は、ペアで言い合うだけなので、修正機能が働かないことです。子どもは、主語とどの動詞句を選んだかにしか意識は向きませんから、正しい表現でなくてもスルーしてしまいます。英語としての正しい評価がない活動だったのです。グループやペアでの活動はこのことに注意をする必要があります。各人にバディをつけて、間違いをチェックしたり、わからない時に助けたりする役割を与えるとよいでしょう。終わればどこがよかった評価する。こういう役割が必要なのです。活動の前に、チェックポイントを板書などで明確にして、バディに意識させます。当然自分がやるときにはそのことを意識できるようになります。

書くことに関して、”write” は “writing” 末尾の “e” をとって ”ing” をつけることを ”Ms.○○ is writing English.” で説明します。このことは、最初に ”ing” の例文を板書した時に押さえておく必要があるでしょう。”ing” の登場と説明が離れすぎているのです。

授業後の検討会で、授業者は「授業規律ができていない。(コーラスリーディングで)口を開いていない子がいた。何度も同じ間違いを子どもがするのであれば、自分が10分ほど説明して練習に時間をかけた方がよかった」と反省しました。私は、この言葉を聞いて安心しました。自分の授業の問題点をしっかりと理解できているのです。子どもたちに考えさせようとしていたから、自分が説明した方がよかったという言葉が出てくるのです。進歩するために大切なのは、自分の現状を正しく把握することです。次のステップはその問題を解決するためにどうすればいいかを考えることです。この授業者が苦しんでいるのは、その具体策を見つけることができていないからです。だから、「自分が説明すればよかった」という言葉が出てくるのです。できるだけ具体的にアドバイスはしましたが、日常的に相談する相手が必要です。歳の近い先生が何人かいますので、自分から声をかけてほしいと思います。子どもたちとの関係は決して悪くはありません。今はまだ先が見えなくて苦しいかもしれませんが、前向きな気持ちで授業に取り組めばきっと大きく成長できると思います。また授業を見る機会を楽しみにしたいと思います。
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28