とても楽しめたパネルディスカッション

先週末は、研究発表会でパネルディスカッションのコーディネータを務めました。
中学校が中心となり、中学校区の小学校3校と共に協同的な学習に取り組んだ成果の発表会です。研究の概要の説明の後、小学校1校と中学校の授業公開です。私は研究主任と一緒に中学校を回りました。何度も訪問していますが、よい授業、よい場面が見られるようになりました。しかし、それが特定の授業や場面という点でしかなく、線や面にはまだなっていないのが現状です。この発表会に参加された方は子どもたちの姿をどのように見られたでしょうか。パネルディスカッションはそこから始めることにしました。

授業公開の後は、いよいよパネルディスカッションです。パネラーはこの研究を中心になって進めてきた中学校の研究主任と若手3人、各小学校から若手2人の10人です。1時間という限られた時間で、10人の方に十分活躍してもらえるのかちょっと不安もありました。また、中学校の4人はよく知っていますが、小学校の6人はほとんど初対面です。今回の研究にどのような思いを持っているのかもわかりません。しかし、だからこそ私も会場の皆さんと同じく、予測のできない状況を楽しみながら進めたいと思いました。

今回のパネルディスカッションは、単に協同的な学習にどのように取り組んだか、どんな成果があったのかを明らかにするのではなく、「学校」「授業」「子どもたち」がよい方向に変わっていくために必要なことは何かを考え、参加した方々の日々の実践の参考にしてもらうことが目的です。
まず、先生方の自己紹介の前に、授業公開で目にした子どもの姿はよいと思ったかどうかを参加者に挙手で聞きました。「よい」が2/3、「?」が1/3です。この結果も踏まえて、自己紹介とともに子どもたちの姿がどのようになったかをパネラーに語ってもらいました。
小学校の先生方からは、「子どもの発言がつながらない」「まだ、友だちの発言でも先生の方を見ている」といったよくないことも出てきますが、「子どもたちの発言が多様になった」「自分が発言したいばかりの子どもたちだったが、聞き合う姿が見られるようになった」「友だちの方を見て考えるようになった(友だちと一緒に考えようという姿勢)」「わからない子が友だちに聞けるようになった」とよい姿に変わっていることが話されます。
中学校の先生は、「子どもたちが男女関係なくかかわれるようになった」「話を聞く姿勢を見せてくれるようになった」とよい姿も見られるようになったが、まだ点でしかできていないと言われます。できていないこと、課題もありますが、取り組んで1年半で小中学校ともかなりの手ごたえを感じているように思いました。

そこで、皆さん素直に協同的な学習に取り組んだのかどうか、この協同的な学習との出会いの印象を話してもらいました。中学校のある先生は、先進的な学校を視察して、「この学校だからできる、うちの学校では無理だ」と思ったそうです。しかし、「とにかくやっていくうちに手ごたえを感じ出した、いかに自分が子どもを見ていなかったに気づいた」と語ってくれました。また、研究主任は自らの数学の授業を公開し、目指す姿を共有しようとしています。が、同じようにグループにしたらテンションが上がってしまい、「数学だからできた。自分の教科では無理」と思ったという方もいました。
その一方で、「できたらすごい、やってみよう」と素直に受け止めた方もたくさんいます。若いということは、まだこだわるようなスタイルも確立していません。だから、意外とこだわりもなかったということです。
しかし、どなたも子どもの姿に手ごたえを感じることができるまでには、ずいぶん苦労があったようです。「何をやっていいかわからなかった」「よくわからないまま始めたが、指導書の通りに進めることができないので、とにかく自分で考えた」「子どもから言葉がでてこない」「うまくいかないのは子どものせいと思った」「やっぱり無理だと思って元のスタイルに戻したが、とたんに子どもたちが授業中に集中力を失くして倒れる姿が目立ちだした」といった言葉が出てきます。
では、どのようにして、乗り越えてきたのでしょうか。多く出てきたのが、「先輩が教えてくれた」「同僚と学びあった」という言葉です。授業を見に行って学んだということも言われます。その中で、中学校の研究主任が出している研究通信がヒントになったということが出てきました。A4用紙に実践の報告やポイント、研究への想いなどがびっしりと書かれたものを毎週のように出していたのです。なるほど、これがキーかと思い、会場の2階席にいる4校の先生方に、毎週楽しみに読んでいるかを挙手してもらいました。その結果は、半数以上が「そうでもない」という予想に反したものでした。先ほど、ヒントになったと答えた先生も、「そうでもない」というのです。確かに役に立つのだが、情報量が多いため「気軽に読む」とはいかないようです。プレッシャーにもなるようです。通信の意義や内容が否定されたわけではありませんが、情報を伝える難しさを感じました。

このように、苦労をしながらここまで来たのですが、どなたもまだまだ満足できる状態ではありません。若手はまだしも、ベテランの中には正直「しんどい」と感じられる方も多いのではないでしょうか。研究もこの日で一段落です。今後もよりよい協同的な学習を目指して頑張り続けることができるのでしょうか。そこで、「この後も、協同的な学習を続けようと思うのかどうか」、4校の先生方に挙手してもらいました。実は半数ほど手が挙がればよいかと思っていたのですが、ほぼ全員が続けようと思うと手を挙げてくれました。空気を読んで手を挙げた方もいるとは思いますが、それでも、皆さんがこの取り組みに何らかの手ごたえを感じているのだと思います。

パネラーへの最後の質問は、協同的な学習を進めるための「原動力」「何を大切にすればいいのか」です。多かったのが、互いに教え合う、学び合うといった「同僚性」です。今回の研究を進めるにあたって、同僚から学んだことが多かったということです。研究主任の、「自分がいない時でも、先生方が互いに授業を撮影し、ビデオを元に学び合う姿が見られるようになった」という言葉からもそのことがうかがえます。
その次に多かったのが、「教えるプロとしてのプライド」「向上心」といった教師としての資質です。これにも、なるほどと思わされました。先生方の気概が伝わってきます。

最後に、「このパネルディスカッションでの話の中に、学校に持ち帰ってやってみようと思ったこと、参考になったことがあったか」会場に問いかけました。2人を除いて全員手が挙がりました。ほとんどが挙手する時は、要注意です。手が挙がらない人を大切にするのは授業の基本です。そこで、お2人にマイクを向けてもらいました。1人の方は、「学校に戻ってみんなを動かす自信がない」ということでした。どういうことかもう少し聞きたかったのですが、すぐに自分の席に戻られ、機会を逸しました。もう1人の方は予想通りの落ちでした。「退職者なので、持ち帰る学校がない」という訳です。が、その方はそれに続けて感想を述べ始めました。自分の過去の経験と合わせて若い先生方の姿を大いにほめてくださいました。予想外の展開で時間がオーバーしてしまったので、その先生の言葉をまとめとして、パネルディスカッションを終了しました。

パネラーの先生方の飾らない言葉に、会場の先生方もとてもよい反応をしていただけました。特にうけていたのが来賓席の教育長の方々でした。これからの若い先生の言葉が新鮮で、ほほえましいと感じたのかもしれません。一番厳しく突っ込まれた研究主任も楽しかったと言ってくれました。しかし、一番楽しめたのは、コーディネータの私かもしれません。素晴らしいパネラーと参加者、そして研究を支えてきた会場の先生方のおかげで、思うままに進行することができました。
研究主任は校長に、「あと2年は続けましょう」と力強く語っていました。2年とは校長が退職するまでの期間です。そうなることを楽しみにしています。
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