教科の内容に踏み込めた授業研究

昨日の日記の続きです。

授業研究は、4年生の算数、小数×整数の計算でした。授業者はこの学校で2年目の初任者です。
子どもたちはとても落ち着いています。授業規律もしっかり確立しています。教師の問いかけにうなずくなど、とてもよく反応してくれました。
まず、2リットルのペットボトル4本で何リットルになるかを立式します。テープ図を使いながら2×4を確認します。続いて0.2リットルのパックが4つで何リットルになるかの立式です。0.2×4をテープ図で確認しました。ここで注意をしたいのが、テープ図で押さえるべきことです。「2リットルが、4つ分」「0.2リットルが、4つ分」と指で示しながら何のいくつ分かを確認し、かけ算の式になることを全員が理解することが大切です。
ここで、「小数×整数の計算の仕方を考える」とめあてを示します。その前に「2×4」と「0.2×4」を比較しておくとよかったでしょう。「どこが違う?」と確認し、2と0.2を比較させて、「整数」「小数」という言葉を子どもから出させます。「2×4は計算できるね。じゃあ、0.2×4はどうかな?」とめあてに結びつけるのです。

子どもたちに「0.2×4の計算の仕方」を考えさせます。かなりの数の子どもが、「0.2の“0.”をとって2×4=8。“0.”をつけて0.8」と考えています。いつも不思議に思うのですが、子どもたちは自然にこういう考えに行き着くのでしょうか。0.8を先験的に見つけて、後から納得できる手順を考えているのでしょうか。それとも誰かがこのような考え方を教えたのでしょうか。ともあれ、この考えでも正解が出てくるので、いかにして覆すかがポイントです。
“0.”を取るという考えの子どもを発表させるのですが、「“0.”をとって2」という言葉を受けて、0.1が2個と教師が誘導します。線分図を使って確認しながら、「0.1が8個で0.8」と説明しました。同じように考えた子どもは、自分の考え方が否定されたとは感じません。ここは、「“0.”をとった“2”は何が2個なの?」というように、子どもから「0.1のいくつ分」を引き出すようにする必要があります。「じゃあ8は、何が8個?」と問いかけて、0.8を確認します。次の0.3×4を計算する前に、「0.5は何が5個?」「0.6は?」と子どもたちに次々確認し、じゃあ「0.3は?」と何人も指名しておくとよかったところです。

先ほどの押さえが甘かったため、授業者のすぐ前の子どもが「0.3×4=0.12」としていました。0.3×4=1.2を指名して答えさせた後、「ほかの答になった人いる」と問いかけます。先ほどの子どもは顔に緊張が走ります。葛藤しているようでしたが、手を挙げることはできませんでした。後から確認したところ、授業者はちゃんと気づいていたそうです。無理に指名して追いつめることはしなかったのです。この子どもは後から授業者に、本当は違う答だったと伝えたそうです。授業者と子どもとの関係のよさがわかる話です。

1.2の説明を子どもにさせます。授業者は「0.1が10で1。0.2を足して1.2」という説明に対して、「正しく言ってくれた」と評価します。ここは、子どもたちに確認したいところです。また、「0.1が12」という言葉も足す必要があったように思います。
続いて、「〔0.3〕は0.1が〔3個〕だから、〔0.3×4〕は0.1が〔3×4〕で〔1.2〕になる」という話型を示します。話型を否定するわけではありませんが、意味をわかった上での伝え方にすぎません。話型を覚えるのではなく、まず、自分の言葉で言うことが大切です。できるだけたくさんの子どもに指名して、説明させることが必要です。何人も言わせることで、子どもたちの言葉が洗練されていきます。「0.3は0.1が3個で、それの4つ分だから、3×4で12になって、0.1が12個あるから、1.2」といった言葉を引き出すのです。足りない言葉は、「・・・、3×4を計算して1.2」「3×4はいくつ?」「12」「12は何が12?」「0.1が12」「0.1が12で?」「1.2」「じゃあ、もう一度言ってくれる」というように教師が問いかけて引き出すのです。話型が登場するのはその後です。

0.5×4の計算の仕方をペアで説明させます。聞く側の役割が明確でないため、ちゃんと向き合って説明できないペアが目立ちます。どうしても言いっぱなしになります。また、自信を持てていないのでしょうか、声もあまりはっきりしません。「よくわからなかったら聞き直す」「よかったらOKサインを出す」というような役割を与えたいところです。
先ほど0.12と間違えた子どもも今度はちゃんと計算できていたようです。

今度は0.03×4の計算の仕方を考えます。ここでよくも悪くも先ほどの話型で0.1を固定していたことが効いてきます。話型に頼って考えると困ってしまいます。授業者は、困らせることで、「0.01」を意識させたかったのでしょうか、子どもたちが何人も首をかしげます。よく反応してくれます。「0.1ではダメ」という言葉を子どもから引き出しました。そこで、先ほどの話型の0.1の上に0.01の紙を貼って計算の仕方を考えさせます。しかし、ここで子どもたちを困らせる必要があったのでしょうか。話型で言えば、本来空欄になるべきは0.1だったはずです。「0.3は何が3?」をしっかり押さえておけば、ここでは、「0.03は何が3?」と聞き返せばよかっただけです。
先ほど、0.12と間違えた子どもは、しばらくじっと考えていました。おそらく、0.1で考えればいいと納得していたことが、覆ったので混乱したのでしょう。しかし、しばらくして突然手が動き出しました。0.01の意味がわかったようです。この後の全体追求の場でも、積極的に挙手して発言してくれました。
ペアで0.03×4の説明をしましたが、今度は先ほどのペア活動の時よりも、声がよく出ていました。2回目ということもあるのでしょうが、「0.5」「0.03」と値を変えて繰り返したことで、納得できたのだと思います。ただ、相手の方を見ずに、黒板の話型を頼っている子どもも目に付きました。これをどう評価するかです。「困ったら、黒板を見ていい」としてもよいのですが、「困ったらペアの人、助けてあげて」という方法もあります。

最後の振り返りの発表で、授業者は「簡単な九九で解けた」という発言を「0.1がいくつかで考えたら、整数の計算になった」と言い換えてしまいました。時間がなかったことはわかりますが、子どもの言葉を勝手に言い換えてはいけません。「簡単な九九ってどういうこと」「どうやったら簡単な九九になるの」「簡単ってどういうこと」というような言葉を返して、子どもから引き出すようにしたいところでした。

授業検討会は、グループを活用した「3+1」授業検討法で行いました。この検討法で行うのも3回目です。先生方に浸透してきたようです。付箋紙のメモをもとにどの先生も積極的に参加します。授業検討を前向きなものにとらえてくれていることがよくわかります。学級の雰囲気、授業規律のよさ、授業者の表情など、授業の基本となることの視点は学校でしっかりと共有されていることがよくわかります。評価がぶれません。どのグループも授業者のよいとろころをたくさん見つけくれました。算数に関する課題や議論に多くの時間が割かれます。最初にテープ図、続いて線分図を教科書が利用しているが、どう活かすのかといった疑問や話型についての話題がでてきました。テープ図は量を意識して立式をするために、線分図はより抽象化して、0.2×4という数の計算として考えることを意識していることを説明しました。線分図はやがて数直線へとより抽象化されていきます。話型とも関連して、数字が表すのはどのような数か、何がいくつなのかを共通して問うようにしてほしいことを伝えました。「30の3は何が3なの?」「0.2の2は何が2なの」「2/3の2は何が2?」と言ったことを常に問うのです。

授業者には、ここでは基本となる量のいくつ分かに注目させることがポイントなので、最初に小数の復習をしておけばよかったことを伝えました。小数を線分図(数直線)で表わす復習を、「0.2」「0.3」「0.03」といったこの時間で使ういくつかの数で行う。「0.2は何が2?」「0.12は?」といったことを問う。「0.2+0.3はどうやって計算した?」と小数の足し算の計算の仕方を確認する。すべてをやる必要も多くの時間を割く必要もありませんが、最初にこのようなことを復習しておけば、より自然に計算の仕方に気づくことができたはずです。

この学校での授業研究は、教科のことを中心にして話ができるようになってきました。学校として子どもとのかかわり方といった基本が共有され、実践され、安定してきたからです。次回の訪問も今からとても楽しみです。
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