体育の授業で、子どもに考えさせる方法を考える

先日、中学校の授業研究に参加させていただきました。1年生の体育、柔道の時間です。

授業者は2年目の先生です。授業開始5分以上前に子どもたちが急ぎ足で武道場に向かう姿を見ることができました。どの子も明るい表情です。授業に前向きであることが感じられました。
準備運動は子どもたちだけでストレッチを行います。係の号令に合わせて次々にこなしていきます。決していい加減というわけではないのですが、きちんと体を伸ばしていないように見えました。その間、授業者は準備をしています。子どもたちによるストレッチが終わったあと、授業者が前に立ち、追加でストレッチをします。今度は、どの子どももしっかりと体を伸ばしていました。教師の目があるかないかの影響があるようです。
説明を聞くために集合する時の子どもの動きがスムーズです。テンションを高くして、勢いよく集まるというのではなく、落ち着いているが素早い動きです。子どもたちの状態のよさを感じます。

この日の主課題は「けさ固めに素早く入るにはどうすればいいかを考え、実践しよう」です。「考える」という課題を与える時に注意してほしいことは、具体的にどのようにすることが「考える」ことになるのかを、イメージしておくことです。「以前はどのようにして考えたか」といった経験を思い出す。「どんなことをやってみようと思うか」と見通しを立てる。課題に取り組む前にこのような場面を設けないと、なかなか手がつかないものです。
最初は今までの復習でした。3つあるけさ固めのポイントを問いかけます。何人かの子どもが発言します。体でポイントを示す子どももいます。全く反応をしない子どももいます。授業者は、子どもの言葉を受けて自分で説明しました。時間のこともあるので何とも言えないのですが、まわりの子どもと確認させたりする場面があってもよかったかもしれません。というのは、この後、4人グループで2人が「受け」と「取り」で攻防を行い、残りの2人がアドバイスをして確認する場面があったのですが、アドバイスができているグループがほとんどいなかったからです。攻防を始める前の組んだ状態で再度確認させる、グループに分かれる前に代表にやらせて、ポイントとアドバイスの確認をするといった活動を検討してもよかったかもしれません。また、アドバイスする側も1人は「取り」、もう1人は「受け」を中心にと役割を明確にすることで、責任を持ってアドバイスするようになると思います。
授業者は、「受け」に対してかけられないようにしっかり逃げることを指示していましたが、逃げる方のポイントは確認しませんでした。「素早く入る」を考えるためのヒントとなることも意図していたと思うのですが、そうであれば逃げる側のポイントも大切になるはずです。逃げられないようにすることが技に入るためのポイントにつながるからです。
授業者はグループの間を回り指導をします。直接指導するのではなく、アドバイスする側の子どもに、「どこがおかしいか」を確認します。子ども同士のかかわりを大切にしようというよい姿勢だと思います。
子どもたちのテンションが上がり気味になってきました。攻防に熱が入って、「確認」の意味が薄れてしまったのでしょう。「確認」するとは、この場合どういうことであるか、もう少し具体的にしておきたかったところです。

グループでの活動終了後、「崩し」と「体さばき」の確認をします。ここでも、けさ固めのポイントの確認と同じく、授業者が説明して手本を見せました。続いて、この日の主課題に入ります。授業者は、「けさ固めに素早く入るにはどうすればいいかを考える」やり方については、グループに任せると伝えました。ここで、今回の活動の目的がわからなくなってきました。課題は「考え」「実践する」です。考えるアプローチを学ぶことなのか、考えることそのものなのか、素早い入り方を見つけることなのか、その方法を実践することなのか。どこにあるのでしょうか。ゴールとそこに至る過程が一緒になっているのです。子どもは何をすればいいのかよくわかりません。とりあえず、組手からけさ固めに入ろうと実践します。互いに一生懸命にやるので、なかなかけさ固めに入れません。とにかく組手を行うだけなので次第にテンションが上がってきました。ここで、授業者はいったん活動を止めました。よい判断です。
子どもたちにやり方を考えさせたいと思いながらも、結局、「『受け』と『取り』に分かれ、崩した状態からけさ固めに入る形を考えるといい」とやり方を指示することになりました。ここは、子どもたちに、どんなやり方をしたか発表させ、その言葉をつなぎながら子どもたちに考えさせたいところです。そうでなければ、これまでの活動の意味がありません。
再び活動を始めましたが、それでも子どもたちは崩して覆いかぶさるだけで、なかなかうまくけさ固めに入れません。崩した状態と、けさ固めに状態で何が違うかを比べてみなければ、どのように動けばよいかわかりません。まずそのことを子どもたち気づかせる場面が必要だったと思います。全体で、崩した状態をまず見せる。続いてけさ固めの形を見せ、どうやってこの状態に持っていくか考えるといった指示がほしかったところです。
もう一度止めて、うまくできているペアに実演させます。ここでは、授業者が解説をしないで、子どもたちにどこがいいのかを考えさせます。子どもに発言させるのですが、単発です。気づいた子どもの発言を受け止めるのですが、それを「今言ってくれたこと、どういうことかわかった」とつなげることはしません。結局一部の子どもと授業者だけで進んでいきました。最後はポイントを教師が説明して終わりました。「考える」ことを目指しながら、「考える」場面はほとんどありませんでした。子どもたちはまじめに活動しましたが、ただそれだけです。活動に対する評価も曖昧です。振り返りを書くにも、何を評価すればいいのかがわからなくなっていました。

「考えさせる」ためには、考える方法、手段が明確になる必要があります。今の段階では、子どもたちはその方法を持っていませんでした。まず、その方法を教えるところから出発すれば、子どもたちの動きはずいぶん変わっていたと思います。子どもたちが一生懸命活動する授業は今でも実現できています。一段階上の「考える」体育に挑戦してくれたことはとても評価できます。是非再挑戦してほしいと思います。

授業検討会は、授業者の反省をもとに、どういう指示や支援をすればよかったのかを中心に行われました。司会者は、子どもたちの発した言葉や活動も参考にするようにと、さりげなく教師主導ではなく、子どもの視点を意識してほしいことを伝えます。議論をよい方向にもっていこうとする姿勢は素晴らしいと思いました。中学校では、他教科の活動はよくわからないと議論に積極的に参加しない方も見られるのですが、この学校では自分たちに経験や知識のない柔道だからこそ、子どもの視点に立って、どなたも真剣に参加してくれました。子どものどんな言葉や動きを取り上げ共有すればよかったのかはあまり出てこず、教師の指示や支援をどうするかが主体の話し合いになりました。子どもたちがあまり考えていなかったので、取り上げるべきものが見つからず、考えさせるための教師の働きかけが必要だと思われたのでしょう。私の方からは、考えるための視点や、方法を共有する場面が必要であったことをお伝えしました。
司会者は、意見に対して反応した方を積極的に指名するなど、考えをつなぐことを意識されていました。よりよい検討会にしようという思いが強く感じられました。

今年度の授業研究はあと1回です。今回の授業を受けて、次回の授業者はどのような提案をしてくれるでしょうか。教師集団の学びが連続していくことを願っています。
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