授業者の今後に期待する

先日、国語研究会の研究授業を参観させていただきました。小学校6年生の国語の授業です。教材は「ものの見方を広げよう 『鳥獣戯画』を読む」です。

授業者は6年目の先生です。授業者が話し始める前には子どもたちの表情はよく、授業に参加する意欲も高く感じられました。ところが、話し始めると、顔が下がってしまいます。授業規律が形骸化しています。姿勢のよさをほめることはするのですが、教師が求める瞬間にできれば、それでいいのです。よい姿勢をとらせることは、集中して聞いてほしいからです。しかし、その実質を求めていないのです。また、子どもが全員顔を上げていなくても話し始めてしまいます。授業規律を徹底することができていません。
復習場面で子どもが半分しか挙手しないのに、指名します。発表に対して、賛成のハンドサインがほとんどの子どもから上がりますが、指名して確認はしません。一問一答で、形式的に進んでいきます。
一斉に音読する場面も子どもを見ていません。声は大きいのですが、口を開いていない子どももいます。なんとなく子どもが元気に活動しているように見えますが、その中身がどうなのかとても気になります。

この日の課題は、なぜ「鳥獣戯画」は人類の宝にふさわしいのかその理由を2つの段落から見つけることです。理由と思われるところに線を引かせます。グループでまとめるのですが、まとめの用紙を司会者が持っています。子どもたちは自分の引いたところを「・・・じゃないの」と言うだけで、根拠を聞き合うことはしません。司会者が集約するだけです。友だちの発表に対して話し合う場面はありませんでした。子どもの動きが止まると、全体を止めずに追加の指示をします。後出しの指示ですから、当然通りません。

どこに線を引いたかをグループごとに全体で発表します。根拠のない発表に時間をかけすぎます。発表が終わると拍手をさせます。形式的で意味のない拍手です。何を評価したのかわかりません。しかも、次の同じような発表の場面では拍手はありません。恣意的です。根幹をなすものがない、行き当たりばったりの授業に見えます。
ほとんどすべての文と言えるほどたくさん出てきた理由を、グループで段落ごとに1つに絞るように指示します。その理由も言えるように話し合いなさいと言いながら、1分の時間です。何も考えずに集約するのに5分以上使い、いよいよ考える場面でたったの1分です。考えが深まるわけがありません。授業者は実質を求めていないのです。形式的に「考えさせた」と言い訳ができればいいのです。ところが、子どもたちはこの1分間も持て余します。根拠を持って話し合うということを日ごろしていないのがよくわかります

発表はまず1つ目の段落について結論だけ聞きます。他のグループと同じであれば、「同じです」と言って終わりです。再度確認しません。他のグループより広い範囲を理由としたグループがありました。授業者は勝手に「ここだね」と他のグループと同じところに集約してしまいます。その違いを聞くことをしないのです。最終的に授業者が根拠とは言えない根拠で答を示します。この教材をしっかり読みこんでいないのがよくわかります。子どもたちに理由を言えるようにしてねと言っておきながら、聞きません。先ほどの1分間を持て余した理由がわかった気がします。教師が考えることを真に求めていないからです。
結局、子どもの考えを共有して深める場面はありませんでした。2段落目では、1つに絞るように言っておきながら、授業者は明確な根拠もなく理由を2つあげて終わりました。指導案には大事なキーワードやセンテンスを板書すると書いてありましたがどこにもありません。それどころか、結論に至る過程も根拠も一切ありません。指導案をつくる段階でキーワードは何かを本当に考えていたのか疑問です。これでは国語力がつくことは期待できません。

最後に筆者が「人類の宝」と評価していることに対して自分の考えをまとめさせます。しかし、話型で穴を埋めることばかりしているのでしょう。自分の意見と筆者の意見を対比して書けている子はほとんどいません。最後の発表の場面では、まだ書けていない子が友だちの発表を聞かずに、ワークシートを埋めています。しかし、授業者はきちんとやめさせることができませんでした。ここでも徹底ができていません。形ばかりで、実質のない授業でした。1時間の授業の中で子どもが考える場面がどこにあったのかわかりません。まさに、活動あって学びなしの典型でした。

しかし、この先生を責めることはできません。今年異動して来た校長の話では、やる気のある熱心な方だということです。分掌の仕事なども前向きに取り組んでいるようです。問題は、おそらくこの先生が授業に関してこれまで指導を受けて来ていないということです。校長もこの先生の授業をじっくり見たことがないようです。これではいけないということで、指導することを考えていただけたようです。原点に戻り、授業規律とは何か、子どもたちにつける学力とは何かをしっかり考えて毎日授業に取り組めば、きっとすぐに力をつけてくれることと思います。校長は来年の2月をめどに再挑戦させたいとおっしゃいました。授業者の成長を期待したいと思います。
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