参加者の質の高い研修会(長文)

先日、市主催の授業力向上研修会の講師を務めました。夏休みに模擬授業を行なったところを実際に授業し、検討会を行うものです。

指導案を見ると、前回からの進歩が見えます。教務主任が指導するとともに、学年の先生方も協力してこの授業をつくってくださったそうです。教務主任は検討会を含めてこの研修に熱心に参加してくださいました。
授業は平行四辺形の面積の1時間目です。いろいろなやり方で平行四辺形の面積を求める場面でした。
授業規律を意識しています。板書を写し終わった時などに子どもたちのよい姿勢をほめます。ほめて規律を徹底させようという姿勢はとてもよいと思います。ただ、ここで意識してほしいのは、子どもに何を求めるかということです。板書を写す時は、早く書けた子どもが待っています。速く作業できる子どもはいつも割りを食っているように思います。だとすれば、遅い子どもに速く書くことをうながすことも大切になります。そのためには、姿勢ではなく早く書けたことをほめることも必要です。そして、遅い子どもには「待っててもらってよかったね」と、待ってくれていた子どもたちには「待っててくれてありがとう」という言葉かけをすることで、作業の速い子どもが遅い子どもに対して負の感情を持たなくなります。
前時までの復習で、三角形の面積の公式どのようにして求めたかを確認します。子どもの挙手が少ない状態で指名することが気になります。実際にはほとんどの子どもが何かしら覚えているはずです。それを、教師が引き出してあげればいいのです。復習なので、挙手に頼らずどんどん指名すればよかったと思います。
教室の前には、三角形の面積を求めた時のやり方が掲示されています。考え方のヒントとなるように考えてのことでしょう。しかし、その掲示を見る場面はあったのですが、具体的にほとんど触れませんでした。この時間は、いろいろなやり方で平行四辺形の面積を求めます。であれば、具体的に今までどのようなことをしたかを復習しておくことが、考える手がかりになります。実際の活動場面では、この掲示を見て参考にしている子どもはほとんどいませんでした。この掲示が今ひとつ活かされていないのが残念でした。
また、三角形の面積の公式を全員に暗唱させた場面では、子どもたちはとても大きな声で言うことができました。ただ、底辺×高さ÷2という言葉だけでなく、「底辺って何?」「高さってどこ?」といった言葉の定義や意味の確認をすることが大切になります。この時間ではどこまで確認する必要があるのかは別として、公式を式だけでなく、そこで使われる用語や公式の意味を確認する習慣をつけてほしいと思います。

この日のめあては、平行四辺形の面積を求めることだと伝えます。平行四辺形の紙を示して、子どもたちから「平行四辺形」という言葉を引き出します。そこですぐにめあてに移るのですが、ここは「平行四辺形だと、どうしてわかるの?」と定義や性質を確認したいところでした。算数に限りませんが、常に子どもたちに根拠を求める姿勢を忘れないようにしてほしいと思います。
子どもたちに、面積の求め方をたくさん考えてほしいと課題を伝えます。平行四辺形を切り抜いて使えるようなお助けカード、考え方を整理するためのワークシートを配ります。ワークシートには、「まず、」「次に、」「最後に、」「式」」「答え」と説明のための話型が書かれています。算数では「まず、」「次に、」「最後に、」といった話型にこだわるより、手順として、順番を意識させることの方が大切に思います。しかし、国語の発表の仕方という視点では、こういう言葉も意味があります。何を大切にしたいかの問題でしょう。
今までに、似たような操作活動をしていたのでしょう。多くの子どもたちは、すぐに作業に移れます。しかし、すぐに手の着かない子どももいたようです。想像ですが、たくさん「考えてほしい」という言葉がわかりにくかったのかもしれません。求め方をたくさん「見つけてほしい」とより具体的にした方がよいかもしれません。
子どもたちの作業中に授業者は机間指導をしながら声をかけていきます。子どもたちをほめる言葉がたくさん聞かれます。しかし、少し声が小さいように思いました。大きな声で、ほめたり、「長方形をつくって求めたんだ」「三角形をつくったんだ」と具体的にどこがよいのか指摘したりするとよいでしょう。そうすることで、手詰まりになっている子どもに手がかりを伝えられます。また、声かけだけでなく、○をつけることも子どもたちのやる気を引き出すのに有効です。
気になったのが、1つやり方を見つけた後、手が止まっている子どもが目立ったことです。「たくさん考えてほしい」ではなく、「いくつ見つけるか」「目標○個」と数を意識させるとよかったかもしれません。できた子どもには「自信を持って」説明できるようにノートの整理「でも」するようにと指示します。「自信を持ってと」はどういうことでしょうか。友だちにわかってもらえるといった、相手を意識した言葉に変えたいところです。また、「でも」という言葉を使うことで、この作業があまり大切でないという印象を持たせます。「友だちに伝わりやすいように、説明の言葉を考えよう」といった言葉にしたいところです。また、たくさん考えようと言っているのですから、「たくさん」をあくまでも活動の中心にしたいところです。

自分の考えをペアで説明し合います。複数見つけた子どもは、説明しやすいもの、伝えたいと思うものでやるように指示します。ペアの活動の目的が不明確です。評価基準が子どもたちにないのです。子どもたちは、自分の説明をしてすぐに交替します。少なくとも、わかったかどうかを伝える。よくわからないことを聞き返す。そういうかかわりが必要なのですが、ほとんど見ることはできませんでした。また、いくつから選んだのであれば、本当はその理由を聞きたいところです。課題や指示と活動が少しずつずれているのです。

全体発表の場面では、子どもたちは友だちの発表をしっかり聞いています。最初に発表した子どもは、対角線で2つの三角形をつくりました。「合同な関係」という言葉を使ってくれました。授業者は「いい言葉を使ってくれた」と評価しました。とてもよい対応です。ここで、「どこがいいのか」ということを子どもたちと確認したかったところです。「合同ってどういうことだっけ?」「同じとどう違う?」「合同だったら何が言える?」こういう問いかけをしたいところです。
2つの三角形が合同なので、底辺×高さ2倍して、2で割るという説明です。式の÷2がわからないと焦点化します。ここで、他の子どもに説明をさせます。その説明を聞きいていて「あっ、逆だった」と最初の発表者が気づきました。ここで、すぐに訂正させます。説明をしてくれていた子どもの発言は途中で終わってしまいました。ここは、「○○さんの説明で、間違いに気づいたね。ありがとう」とちゃんと説明を終わらせてから、訂正させたいところでした。式を訂正して、全体に挙手で確認をして次に移りました。ここは、正しい式を書き直し、もう一度他の子どもに説明させるなど、きちんと確認したいところでした。
子どもの発表は、小さなホワイトボードにノートの内容を写させてから行うのですが、その時間が結構かかります。待っている間にせっかくの集中が切れてしまいます。ここは実物投影機の出番だと思いましたが、あえて実物投影機を使わなかったようです。実物投影機を使うと前の発表が残せないので、ホワイトボードを使ったのです。しかし、小さいために後ろの方の子どもは見にくかったようです。実物投影機で説明をさせたあと、「○○さんの考えもう一度説明できる人?」と問いかけ、その説明に従って、授業者が黒板に再現していけばいいのです。こうすれば、友だちの考えの確認もできます。ムダな時間を削れるので十分に可能なはずです。スクリーンと黒板を使い分ける1つの方法です。

子どもが前に出ての発表では、「みんな見ている?」と発表者を見ることを意識させます。しかし、子どもたちは前に出て発表しない時は教師に向かって話します。それは、授業者が子どもにつなぐことをあまり意識せずに、発表者の言葉を受けてすぐに説明する、その意見が他の子どもにわかったかどうかを具体的に発言させて確認しない、といったことが原因のように思います。基本的に挙手した子どもしか活躍しません。「○○さんの考えがわかった?」と確認したときに、半数ほどしか手が挙がらなければ、自分で説明を付け加えます。そうではなく、まわりと相談させたりすることで、子ども同士のかかわりの中で解決するようにしたいところです。また、ほとんどの子どもがわかったと挙手すれば、次に進みます。こういう時こそ、手が挙がらない子どもに寄り添って、全員参加、全員理解を目指してほしいのです。

子どもの説明に対して、「5×6はどこ?」といった問い返しをします。式と図を結びつけて考えさせるとてもよい対応です。ただ、授業者は式が図形のどこと関係しているかをいつも問うわけではありません。「この式の5は図のどこにある?」というように、子どもたちに式と図の関係を意識させる指導をいつも心がけることが大切です。

子どもたちから出てきた説明を評価する場面ありませんでした。子どもたちは、いくつものやり方を見つけましたが、それがいったいどういう意味があるのかは、きちんと算数・数学的に評価しませんでした。「すぐに面積が計算できるから、三角形をつくったんだ」「計算の簡単な長方形をつくろうとしたんだ」といった評価が必要です。子どもたちからこういう言葉を出させたければ、「なんで三角形をつくろうと思ったの」「長方形を見つけようとしたのはどういうこと」といった問い返しも必要です。算数の授業で何を大切にしなければならないかをもっと意識してほしいと思いました。

最後に子どもたちに感想を書かせます。「いいなと思った説明」を書くように指示していましたが、感想という言葉では、ただ「○○がよかった」ということしか書かない可能性があります。どこがどのようにいいかを明確にすることが大切です。何がわかった、何ができるようになったという、この時間で獲得したことを意識するような言葉にしたいところです。
2名の子どもに発表させます。「前回習ったことを使って・・・」という発表に対して、「前回習ったことって何?」を聞き返すことはしませんでした。「前回習ったこと」は授業者にとっては明確でも、子どもたちが共通の物をイメージしているとは限りません。また、「簡単な長方形にして・・・」という発表にしては、「式が簡単でわかりやすい」とまとめましたが、式について子どもは一言もしゃべってはいません。子どもの言葉をしっかりと聞き返し、子どもたちに深めさせるということを忘れないでほしいと思います。教師が勝手に解釈して説明すれば、子どもは「結局、先生はこのことが言いたかったんだ」と思います。自分たちの発表は先生が言いたいことを言うためのきっかけでしかないと思うようになります。

いろいろと指摘はしましたが、前回の模擬授業と比べると大きな進歩です。指摘する内容のレベルがずいぶん上がりました。

授業検討会では、参加者の質の高さに驚きました。グループでの検討は手慣れたものです。よかったこと、改善点を焦点化しながらどんどん深めていきます。今回私が指摘しようと思ったことのほとんどが、参加者の発表に含まれていました。
そこで、一つひとつの指摘を確認しながら、ポイントを再整理していきました。中でも、「平行四辺形の面積を求めることを通じて、どのような算数・数学的なものの見方・考え方を学ばせるのか」ということをきちんと整理して授業にのぞむこと。特に「公式等の学んだ結果、知識」、「どのようにして解いたかという、方法、考え方」を利用するという2つのアプローチを意識して授業を組み立てるとよいことを伝えました。また、ホワイトボードが小さくて見にくかったことについては、実物投影機と黒板をどのように活かすかという視点で整理しました。変化するものはスクリーンに、固定する、残しておきたいものは黒板という原則も伝えました。
前回私が授業者に伝えた「友だちの考えを代わりに説明させる」という手法を使った場面を取り上げて、前回の学びを活かしていたことを評価したグループもありました。このことに気づけるということは、彼らが他者への指摘を自分のこととして意識しているということです。ここにも参加者の質の高さが感じられました。

毎年参加者を入れ替えながら続いている研修です。年々参加者の質が上がっていることが、この市全体のレベルが上がっていることの証です。私にとってもとてもよい刺激になっています。この市のレベルの向上に私が少しでもお役に立っているのならこんなうれしいことはありません。来年も続けて講師をさせていただけるそうです。いまからとても楽しみです。
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