教科力が問われる段階にきた授業

昨日の日記の続きです。

数学の授業研究は、1年生の比例・反比例の応用でした。
子どもたちと授業者の関係はとてもよいことがわかります。授業者は笑顔を絶やしません。どの子ども真剣に話を聞いています。この日の課題は、大量の紙を数えるにはどうすればいいかです。子どもからは1枚当たりの重さを測るといったアイデアがでるのですが、授業者はそれを取り上げることはしません。実際に紙と秤を持ってきているので、その子どもに測らせたいところです。そうすることで、ある程度の量を測る必然性が出てきます。比例定数と1枚当たりの重さの関係も見えてきます。比例定数が比の値だと気がつきますし、y=axという式との関連も明確になるのです。

30枚で130gなので、2760枚は比で解けるという考えが出てきます。しかし、黒板に書きとめるだけでそれ以上は取り上げません。予定した進め方にこだわってしまいました。自ら「表にしてみようか」と表を書きます。子どもからアイデアが出てくるのを待つことができませんでした。その上で、いくつか紙の重さを測って表を埋めます。表から比例という言葉を出させようとするのですが、数学的にはあまり正しいアプローチではありません。いくつか表に値を埋めただけでは、比例の関係が常に成り立つことは言えません。最初に子どもから出た1枚当たりの重さが常に一定であること、つまり比の値が一定であることがポイントなのです。

また、子どもから出てきた比で解くことを活かしてもちゃんと比例の関係につなげることができます。そもそも関数を利用して問題を解くよさがなければ、比でなく関数を使う意味がありません。2760枚は求められる。では、3000枚は、3200枚はといろいろな場合を考えると、毎回解くのは大変です。そこで、関数を使う必然性が出てくるのです。ここで、毎回解かずに済ますにはどうすればいいのかという視点で、関数ではなく比で解くことを発展させるのです。「じゃあどうすればいい?」「いろいろ変わるのは何?枚数?」「それならばx枚の時何グラムになるか考えればいいね」とすれば関数の考え方が自然に出てきます。重さをygと置けば、比の式30:x=130:yから、比例の関係y=(13/3)xがでてきます。関数の考え方の復習と、比と比例の関係を同時に扱うことができます。

日ごろから、数学的なものの見方・考え方を意識して授業をしていくことが大切です。関係を見つけるのに表を使う、図を描く、グラフにしてみる、特別な値を試してみる。いつも成り立つか、他の場合にも使えるかと考える。こういう視点を常に問うことが大切です。今回でいえば、比の考えを拡張していくことで、ちゃんと比例にたどり着けるのです。

子どもが数名しか挙手しない時にすぐに指名してしまいます。発表に対して他の子どもたちに理解できたかどうかを確認するのはよいのですが、挙手の確認だけで終わってしまいます。手が挙がらない子どもがいるのですから、その子どもを納得させることが必要です。まわりと確認する。何人かを指名して確認する。こういう活動が必要です。わかった子どもだけで進むのではなく、わからない子どもがわかるようになるにはどうすればよいかを考えてほしいと思います。全員参加を常に意識することが大切です。
また、指名した子どもの説明に対して、「どう、納得した」と確認したときに、一部の子どもが大きな声で「いいです」と応えます。このテンションの高さが少し気になりました。再度説明を求められることがないので、無責任に「いいです」と言っている可能性があるのです。挙手や声だけでなく、具体的な説明を求めることが必要でしょう。

今回の授業で気になったことは、子どもから一番引き出したいことを教師がしゃべってしまう場面が多かったことです。表を使うこともそうです。枚数と重さをそれぞれxとyとするということも授業者から出しました。xに数を「入れる」とyの値がわかるということは子どもから出てきますが、「代入」という言葉はでてきません。子どもに、「数学の言葉で言うとどうなる」というように、数学の用語を意識させることが大切です。授業者は「代入する」と言い変えましたが、そのことを用語としてはきちんと押さえませんでした。

基本となる子どもとの関係はしっかりつくることができています。数学の教師としてはここからが勝負です。数学として何が大切なのかをしっかりと考えて授業を組み立てるのです。問題の解き方を教えることはそれほど重要ではありません。数学的な知識や、ものの見方・考え方が身についた結果、問題が解けるようになる。問題を解くことを通じてそのような力をつける。そのためにどのような授業を組み立てればいいかを考えるのです。
比例の学習であれば、関数の考え方を2年生3年生でどのように広げていくのかを考える。2つの変量の関係を文字で表すことは連立方程式につながっていくことを意識して、何を押さえる必要があるのかを考える。そうすることで単元を通じて大切にしなければいけないポイントや常に問いかけるべきことが見えてくるはずです。「x(一方)が決まるとy(他方)が決まる」「いつも成り立つ関係?」「xに入るのはどんな値?(変域)」「関係は式に表せる?」「式からどんなことがわかる」「グラフから何がわかる?」「表から何がわかる?」「グラフのどこに注目する」「表のどこに注目する?」・・・。

数学科で検討会を行いました。授業規律といった基本的なことはできているので、安心して教科についての検討ができます。ベテランから教材の持つ意味や、数学として何を大切にするべきかという視点での意見が出てきます。授業者はよい気づきができたことと思います。若い先生が多い学校です。1時間の授業という点についての議論だけでなく、教科部会として関数はどのようなことを大切にして授業を組み立てるのか、1年生で押さえておくことは何かといったより広い視点話し合うことができるとよいと思いました。なかなかまとまった時間を確保することは難しいかもしれませんが、ベテランと若手が日常的に授業について会話できるようになってほしいと思います。

若手が立派に育ってきました。教科力が問われる段階に到達したと思います。ここからは、地道な教材研究の積み重ねで力をつけていくしかありません。それなりに授業ができるようになっていますので、手を抜いても何とかなります。しかし、その時点で成長は止まるのです。歩みを止めずに、ゆっくりでいいので前に進み続けてほしいと思います。
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30