次への一歩が見えてきた研究発表会

先週、授業アドバイスをさせていただいている中学校の研究発表会に参加しました。

発表会前に3年生による合唱を2曲聞かせていただきました。子どもたちの歌声も素晴らしかったのですが、何より子どもたちの一生懸命な姿が印象に残りました。来客に対して自分たちの歌声でもてなしたい。そのような気持ちが伝わってくるように感じました。3年生は先生や友だちとの人間関係が特によいと感じていましたが、日ごろ見せてくれるよい姿が本物だと感じさせるものでした。

研究内容の発表は成果を強調するというよりも、子どもたちにどうなってほしいと願っていたのかという自分たちの研究への思いと今後何を大切にしたいと考えているかという次への展望を中心としたものでした。研究の成果をアピールしてそれで研究は終わり。数年経つと何も残っていないという学校も珍しくありません。研究の先をしっかり見つめ、歩み続けようという姿勢をとてもうれしく思いました。
目指す姿の中に「ありがとう」という言葉がキーワードとして出てきました。教師と子ども、子ども同士の人間関係を大切に考えていることが伝わってきます。このことが基本となって、はじめて子どもたちの学力が形成されていくものだと思います。

1時間の公開授業がありました。多くの学級の授業が公開されていましたので、駆け足での参観となりましたが、どの学年でも、どの学級でも、子どもたちの柔らかい表情、笑顔を見ることができました。多くのお客様がいらっしゃる場です。子どもたちにかたい表情、まじめな顔をさせることはプレッシャーをかければ簡単にできます。しかし、柔らかい表情や笑顔は日ごろの人間関係がなければこのような場では見ることができません。少し心配していた2年生もよい表情をたくさん見ることができ、うれしく思いました。1月前に訪問した後も、子どもたちとの人間関係の構築にエネルギーをかけ続けたのだと思います。
とはいえ、すべての子どもがしっかりと授業に参加できていたわけではありません。よい姿がたくさん見られるからこそ、そうでない子どもも目立ちます。この学校が生徒指導上の困難を抱えていることを何人かの知り合いの先生方から指摘されました。その通りです。だからこそ、この学校が授業において教師と子ども、子ども同士のかかわり合いを大切にしていこうとしているのです。まだまだ道半ばですが、先生方がこのことを意識し続けていけば、このことは何年かのちにきっと笑い話になっていることと思います。

子どもたちが積極的に授業に参加してくれるようになってきたので、課題や活動内容の質が問われるようになってきました。この課題で子どもたちにどのような力を身につけさせようとしているのだろうか。この活動で子どもたちに本当に力がつくのだろうか。このことが気になるのです。人間関係づくりと並行して教科の研究をもっと深めていくことが必要になってきていると思います。気の置けない先生からは、授業内容に関して厳しい指摘をたくさんいただきました。学校全体として取り組むことはもちろんなのですが、教科としてどのように授業をつくっていけばいいのかを教科部会でもっと論議していく必要があるでしょう。
そんな中でうれしい場面もいくつかありました。中でも、若手の英語の授業でとてもよい子どもの姿を見ることができました。電話応対のペアでのやりとりをもう1組のペアが身を乗り出して真剣に聞いているのです。どのグループも同じように素晴らしい集中でした。言葉につまったら助けてあげる。どこがよかったのかを評価する。そういう役割をしっかり与えられていることがわかります。付け焼刃ではなく、しっかりと実践していることがわかる場面でした。
このような工夫を教科や学校全体で共有していくことで、次のステップへの道筋がきっと見えてくることでしょう。課題と共に次につながる明るいものが見えてきたように思います。

記念講演は、名城大学教職センター准教授の曽山和彦先生の「学びを支える人間関係づくり」でした。
現代の子どもの特徴として、「ソーシャルスキル」と「自尊感情」がないことを挙げられました。子どもたちの社会性が弱まっていることが、「相手を消す(いじめ)」か「自分が消える(不登校)」につながるという指摘はとても納得できるものです。自尊感情の低下は自分自身のみならず他者の受け入れも困難にしている。このことも、いじめや不登校につながっているというのもその通りだと思います。問題は、どうやって解決するかということです。
曽山先生はそのことについて具体的に示されました。

学級を子どもの居場所にするためには、まずは安心・安全な学級づくり。つまり、学級に規律があること。そして、所属意識を持つことや受容されることにより愛情や自尊感情を持たせることだと主張されます。つまり人間関係づくりです。この人間関係は教師と子ども、子ども同士、よく言われる縦糸と横糸で「関係を紡ぐ」ことです。特に子どもとの関係づくりでは、愛されていることを伝えることが大切になります。伝わる言葉の「番付」として具体的な方法を紹介されました。

東の横綱「いいところ探し」
子どものよいところを探して、貯めておく。「ほめる」「勇気づける」「認める」。そしてちょっとしたことでも「ありがとう」の言葉をかける。Iメッセージの大切さを何度も説明されました。

西の横綱「対決Iメッセージ」
望ましくない行動を相手の行動をいけない(YOUメッセージ)と注意するのではなく、自分が困っている(Iメッセージ)ことを伝えることで相手の行動を変える。
相手の行動を具体的な事実として伝える⇒その結果どのような影響が出ているかを伝える⇒私が困っていることを伝える。このような流れです。例えば、授業中におしゃべりしている子どもがいれば、「あなたがおしゃべりしていると」⇒「話がしにくくて」⇒「困るんだ」と伝えるということです。この方法は、私も意識して使ったことがないのでとても参考になりました。

東の大関「リフレーミング」
同じことでも見方を変えることで違って見えます。短所を長所に置き換えるのです。「優柔不断」を「思慮深い」「慎重」というように置き換えるわけです。日ごろからそういう見方を意識していないとできないことですね。

西の大関「例外探し」
どんなものにも例外があります。上手くやれていること(例外)はきっとあるはずです。日ごろ言葉づかいが悪い子どもでも、よい言葉を使うことがあります。その理由を見つけることで、子どもと接するヒントが見つかるということです。

子ども同士の関係づくりには、「ソーシャルスキル・トレーニング(Social Skill Training)」と「構成的グループ・エンカウンター(Structured Group Encounter)」を紹介されました。
ソーシャルスキル・トレーニング、教えることになじむ「行動の教育」です。説明して、やって見せて、やらせて、評価する。話の仕方や、聞き方を具体的に教えるのです。
一方の構成的グループ・エンカウンターは教えることになじまない「感情の教育」です。互いに相手の気持ちや考えを聞き合うことで、気づきをうながします。
この「教える」「気づく」に境目があることを指摘されます。10歳前後だということです。この10歳前後は、子どもの自意識が育ってくる時だと私は認識していました。「みんないいね」と「みんな」でほめても自分のことだと思ってくれなくなる、ペアよりもグループの方がなじみやすくなる、そういう時期です。根っこは同じなのかもしれませんが、新たな視点をいただけたように思います。曽山先生は、「YOUメッセージ」と「Iメッセージ」の有効性の境目も同じようにこのころだと言われました。たしかに「みんな」も「YOU」につながります。これもおおいに参考になりました。

学びを支えるには人間関係づくりが大切だという曽山先生のお話は、私の日ごろの思いを代弁してくださっているように感じました。私も意を強くして、このことを伝えていきたいと思います。そして、人間関係ができているからこそ教材研究がより大切になることも合わせて伝えたいと思います。

研究発表後すぐに、今後も授業アドバイスをお願いしたいという、ありがたい依頼がありました。研究会が終わっても歩みを緩めない姿勢をとてもうれしく思います。これからこの学校がどのように進化していくかとても楽しみです。
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