算数の授業研究で1年生の教材の深さを感じる(長文)

昨日の日記の続きです。

授業研究は1年生の大きさ比べでした。授業者は今年度他地区から異動して来られた担任です。地区が異なると雰囲気も違います。授業規律の考え方が違ったりするので戸惑うことも多かったと思います。そんな中での授業研究ですが、今までのやり方にこだわらず、この学校のやり方を取り入れようとしていました。ある程度経験を積むとなかなか自分のやり方を変えることは難しいのですが、立派な姿勢だと思います。

前時の復習からのスタートです。
端をそろえて、直接比較する。テープに長さを移して、それを比較する。前時にやった長さの比べ方を子どもたちに確認します。子どもたちはとても落ち着いています。安心して見ていられる授業です。子どもは発表の後に「どうですか」をつけます。この学校に来た当初は、ハンドサインを使っていたようですが、形式的なものになりやすいのでこの学校では使わなくなっています。そのことを受け入れてやめられたようです。「どうですか」は、そのころのなごりのようです。授業者は子どもの発言の後、すぐにしゃべります。たとえハンドサインをやめたのであっても、「どうですか」に対して子どもたちの反応を少し見てあげる余裕がほしいと思います。うなずくなどの反応をしている子どももいるのです。ハンドサインを出さないかわりに外化することを求め、うなずくなどの反応をした子どもに「どう、それでいい?納得した?」と確認する。一問一答で終わるのではなく、挙手に頼らず指名して数人に答えさせる。こういう工夫がほしいところです。この授業者だけの問題ではありませんが、数人しか手を挙げないのにすぐに指名してしまう傾向があります。手を挙げない子どもをどう参加させるか意識してほしいと思います。ヒントとなる言葉を挙手した子どもに言わせる。まわりと確認させる。全員参加を目指してほしいと思います。

「○○さんの意見につけ足しですが、・・・」という話型も耳にします。このこと自体は悪いことではないのですが、聞いていて何がつけ足されたのかはっきりしないことがありました。同じように思った子どももいると思います。まだ1年生なので、「・・・がつけ足されたね」と教師が確認したり、「何がつけ足されたかわかった?」と子どもたちに問い返したりすることも必要です。時には「つけ足したのはどこ?」と発言者に確認してもいいでしょう。

これもこの授業者だけのことではありませんが、一人の子どもがつぶやいたことを拾って、そのまま全体に話す場面がありました。まずプライベートな発言をオフィシャルなものすることが必要です。「○○さん、今言ったこともう一度みんなに聞かせてくれる」「○○さんがいいことを言ってくれたから、みんな聞こうね」と全体に対して発言し直させるのです。まだ1年生ですので、全体に対してうまく言えない時は、「○○さんが・・・と言ってくれたんだけれど」と授業者が代わりに説明してもいいと思います。この時、できるだけ本人の言葉をそのまま使って、必ず「○○さん、これであっている?」と確認をするようにしてください。自分の言葉を教師が都合のよいように変えていると感じてしまうと、子どもが発言しなくなっていくからです。

机の縦と横はどちら長いかを身近なものを単位として比べることがこの日の課題です。実物投影機を上手に使って、課題をディスプレイに映します。縦と横に色違いのテープを貼ってわかりやすくしています。ここで、どちらが長いか子どもたちに問いかけます。もちろん子どもたちはほぼ全員、横に手を挙げます。間違えた子どもはおそらく縦と横が混乱しているのではないかと思います。ここで、任意単位を使う必然性が大切なのですが、見れば大体わかってしまいます。比べる必然性に乏しいのです。実物投影機で真上から映していますが、斜めから映して、縦と横が比べにくいように見せるといった工夫も必要です。
テープが貼ってありましたが、前時の学習が子どもたちに定着していれば、テープで比べるのが自然な発想だと思います。そのことを子どもたちから出させたうえで、任意単位の必然性を与えたいところです。ジャストアイデアですが、「斜めから撮った写真を送ったら、どちらが長いかわからない。どうやって伝えよう」といったものです。

授業者は教科書の絵を使ってどうやっているのかを問います。手を広げた長さや鉛筆でいくつ分あるかを調べていることを、実際にやってつたえます。おそらく、この時間で初めて「いくつ分」という言い方が出てくるのですが、授業者は特に説明することなく使いました。「いくつ分」はかけ算につながるとても大切な用語です。用語としてきちんと意識して使うことが大切です。
手を広げた長さといった、毎回「同じ」長さになりにくいものは、基準にしづらいことも押さえておくとよいでしょう。「同じ」ものと「いくつ分」ということを一組として意識させたいところです。
授業者は子どもたちに基準となるものを選んで比べさせます。比べた後、ペアで自分の比べ方を伝えさせますが、友だちに言うだけではペアで活動する意味がありません。聞き手に役割が必要です。相手の言った比べ方を聞いて自分もやってみて確認して、同じ結果になったかを伝え合う。発表も自分のではなく友だちのやり方を説明させる。ペアで活動するならこのような工夫が必要になります。

実物投影機を使って、子どもに発表させます。こういう使い方はとてもうまいと思います。子どもは消しゴムなどを使って測ってくれます。消しゴムのように小さなものはやりにくいのですが、1回ごとに印をつけていき、印と印の間が消しゴム1個分の長さになることを確認し、「同じ」長さであることを強調するとよいでしょう。「消しゴム」が「何個分」と「何の」「いくつ分」という組み合わせを意識させたいからです。また、「同じ」というキーワードを強調することと印をつけることで、この後のマス目を数える問題につなげていくことができます。

ここで気になる言葉づかいがありました。長さはピッタリ何個分にはなりません。そこで授業者は、4つ「半」といった言い方をするのです。確かに日常ではそのような言葉づかいをしますが、「半」という言葉を使うといろいろな意味で混乱します。「半」は算数用語として時刻で使われます。この時の「半」は「半分」のことです。ここでは、「半分」ではありません。非常にあいまいな言葉なのです。例えば、4つ分と「余り」があるというように、算数用語の「余り」を使うといった方法があります。このとき押さえておかなければいけないのは、「余り」は1つ分よりも小さいことです。「4つ分と余りがあるね。余りは1つ分よりも?」「小さい」「そうだね。だから4つ分よりも大きく、5つ分よりも小さいね」というようなやり取りをしてほしいと思います。気づいた方もあると思いますが、この長さ比べが割り算の導入へつながる活動にもなっているのです。

子どもたちに次々と発表させますが、ここではただ発表するのではなく、「○○さんの消しゴム、△個分」という言葉で確認をしていくことが大切です。同じ消しゴムで比べても、大きさが違えば、いくつ分は変わります。「同じ」ものを基準にしなければならないことを意識させるためにも、「○○さんの」という言葉をつけておきたいところです。

授業者は大切なことを黒板にまとめて写させます。突然大切なことが出てきました。子どもたちは何が大切かを意識していたわけではありません。指示されたことをこなしていただけです。算数として考える部分は、教師から突然降って来て与えられているのです。活動と算数・数学的な価値、大切なことが結びついていません。
子どもたちの発表の時に、意図的に「同じ」「いくつ分」「いくつ分あるかを比べる」といった大切な言葉を強調しておいた上で、比べる時に何が大切かを子どもたちに問いたいところです。子どもたちの言葉をつなぎながら、大切なことを子どもの言葉を使ってまとめるのです。

作業を終わった子どもに姿勢を正させます。この時、「○○さん早い、1番」、「△△さん、2番」「3番」・・・とできた子どもに順位をつけていました。素早い行動をうながすのは大切ですが、順位とはなじみません。3番と4番に差があるわけでもありません。最後まで順位がつけられるわけでもないので、「早いね」だけでよいように思います。

練習問題に入ります。マス目に鉛筆が置いてあります。鉛筆の端はずらしてあります。ここで授業者は、「この問題意地悪だね」と言います。時間があまりなかったせいか、授業者は端がそろっていないことを説明し、自分でどんどん進めていきます。ここは、今まで学習した3つの比べ方を子どもたちに言わせて、「端をそろえる」のは絵を切ればできるね、テープがあれば比べられるねとそれぞれのやり方を評価させたうえで、今日やったやり方は使えるかを問いたいところです。ポイントは「同じ」ものが「いくつ分」ですから、「鉛筆や消しゴムのように測るのに使えそうなもの」を子どもたちから引き出すのです。マス目が「同じ」だから使えそうだと子どもに言わせたいのです。この言葉が出たら「やれそう?」と確認して「どちらが長いか調べて説明してね」と発問するのです。

授業者は、「マス目を数えればいい」と結論を出して、マス目を数えるように指示を出します。これでは、単なる作業になってしまいます。○つけをするのですが、その途中に「できた人は、説明を考えよう」と追加で指示を出します。○を待っている子どもは、じっと待ったままです。授業者は最後に「まだ○をもらっていない人」と確認をしました。よい対応ですが、○をもらっていないのに手を挙げていない子どももいたようです。○つけはもらいたいと思うような声かけがポイントです。「いいね」「ばっちり」と大げさなくらいほめ言葉をかけることで○をもらいたいという意欲が高まります。このことを意識してほしいと思います。
○つけが終わった時点で、追加で指示されたことができている子どもがどれだけいるか不安です。授業者は作業を止めて、子どもたちにマスの数ではなく説明を求めます。これはアンフェアです。時間の関係もあったのかもしれませんが、ここを問うのであれば、最初から「説明すること」を課題にすべきです。「ノートに鉛筆の長さがマスのいくつ分か書いて、どちらが説明できるようにしてね。マスの数を○つけするからね」といった指示をすべきでしょう。

最後に、「よく頑張ったね」と子どもたちをほめていましたが、何を頑張ったのでしょう。このことを明確にして算数の活動としての価値づけをしてかないと力は着きません。子どもは指示された作業をこなせば頑張ったことになると思ってしまいます。教師の指示に従う子どもをつくるにはよいのですが、学年が進むにつれて、子どもは教師の指示に従わなくなります。低学年の内は教師がほめてくれれば頑張れますが、自我が発達してくるとともに、自分にこんな力がついたという達成感を与えなければ、頑張れなくなっていくのです。このことも意識してほしいと思います。

いろいろと書きましたが、基本的なことができているので教科のことがこれだけ指摘できるのです。私は小学校の算数については直接教えた経験がないので、授業を見せていだくことで子どもたちの姿から学ぶよりほかありません。そういう意味で、今回の授業から私自身が一番勉強させていただきました。感謝です。

授業検討会はグループを活用した「3+1授業検討法」で行われました。この学校では2回目ですが、とてもよい雰囲気で進みました。若手の先生が積極的にグループの考えをまとめていたのが印象的でした。この学校の授業検討スタイルとして定着しそうです。取りまとめの教務主任も的確に意見をまとめていました。教務主任の中に目指す授業の方向性がはっきりしていると感じました。
先生方に、「教師と子どもの関係」について、「どのようなかかわり方をすべきか」という視点が育ってきていることが発表から伝わってきます。「子ども同士」という視点がこれからもっと出てくることで、より進歩していくと思います。その前提として、「全員参加」ということを常に意識してほしいことをお話ししました。また、学校全体として子どもたちの学習を支える基本的なことがずいぶんできるようになってきました。昨日の日記でも触れましたが、教材研究の重要度が増しています。教科の視点を深めていくことも次の課題だと思いました。

この日も終日よい学びをさせていただきました。次回の研究授業の授業者が、授業中に私のそばに立って解説を熱心に聞いてくれました。授業研究を自分が伸びるチャンスと、とても前向きにとらえていることが伝わってきます。次回の訪問も今からとても楽しみです。
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