研究発表を控えた学校で考える

先日、来月に研究発表を控えた中学校の授業アドバイスをおこないました。この日は特定の授業ではなく、学校全体の様子を見せていただきました。

まず気になったのは子どもたちが落ち着いていないことです。寝ている子どもも目につきます。授業に集中していないように見えます。話を聞いていないのです。板書を写すことや、作業はするのですが顔がなかなか上がりません。その原因はいくつかありますが、一つは授業規律の徹底ができていないことです。子どもに聞くように指示しても、全員が聞く態勢をとるまで待ちきれずに話し始めてしまいます。友だちの発言を聞くことを意識させていません。授業者は発言者ばかりを見て、子どもたちの聞く様子を見ようとはしていないのです。これ以外にも子どもを見ることができていないと感じる場面が多くありました。子どもたちに音読させている時、授業者は教科書に目を落としながら教室の中を歩きます。自ら死角をつくっています。授業者は何かを指導しようとはしていません。世に言う机間散歩です。
教師自ら集中力を乱す場面にも出会います。子どもが作業をしている時に追加で指示を出したり、説明をしたりします。いったん作業を止めて全員が授業者に注目してからならいいのですが、そのままの状態で話します。子どもが作業に集中したなと感じた時に、追加の説明をした先生がいました。子どもが静かになったので話を聞かせられると思ったのかもしれません。説明が終わったあと、せっかくの集中が切れてしまったのは言うまでもありません。
作業が終わった子どもへの指示もありません。終わった子どもがざわつきます。そこで、次の作業の指示をしても、作業中の子どもは聞きません。今の自分には関係ないからです。作業が終わっても、聞いていなかったのですることがわかりません。すぐに教室はざわついてしまうのです。作業を始める前に、終わったあとの指示をしておく。次の作業の指示は常に黒板の決められた場所に書いておくようにする。こういったことが大切になります。
また、子どもたちは作業の指示がわからなければ気軽に教師に聞きます。教師はそれに答えます。たとえ全体の場であっても、個人的に答えてしまうのです。質問の内容が個人的なものであれば、「あとで」と個人的に対応すればいいのです。全体で取り上げるべきものであれば、「今の質問、みんなに聞かせて」「○○さんがいい質問をしてくれたから、みんなで聞こう」と共有化してから、説明するなり、みんなで考えるなりすればいいのです。既に説明したことを聞いていなかったのであれば、まわりの子に聞くように指示すればいいだけです。子どものつぶやきや発言は、プライベートに対応すべきものかオフィシャルなものとして全体で共有すべきかを判断することが大切です。

もう一つの理由は、授業がわかった子ども、発言したい子どもだけで進んでいることです。基本的に挙手で指名していきます。4人ほどしか手が挙がらないのにすぐに指名する先生もいます。発言した子も、その後は集中力を失くします。「今の意見に納得した」とつなごうとしていても、肝心の意見を言った本人が聞いていないということもありました。子どもが友だちの発言を聞き、意見を重ねることで考えが深まり、友だちの説明に納得して終わるといったことはありません。子どもが意見を言っても、最後は教師が説明します。子どもたちは、自分たちの発言は教師が説明するきっかけ、子どもから意見が出たというアリバイ作りにすぎないということを知っているのです。教師のまとめる板書を写しておけば困りません。友だちの発言は他人事です。聞く価値はないのです。だから発言者も自分の言葉がみんなに伝わったか気にしません。聞く方も発言者の方を見ようとしないのです。

子ども同士の人間関係も気になります。
グループ活動で、机をピッタリつけない子どもが目立ちます。話し合っているように見えても、参加しない子どもがいること気になります。参加できていない子どもが各グループに1人いるような学級もありました。どうやら、授業での人間関係がきちんとできていないようです。活動に子ども同士かかわる必然性が薄いことがその原因の一つです。一人でもできるような課題であればかかわる必要はありません。
活動の目標がはっきりしないこともよくありました。例えば「気づいたことを書いて、友だちと話し合う」といった課題です。気づいたことですから何を言ってもいいわけです。友だちの意見を聞く意味もありません。考えることが具体的に何も求められていません。目標や評価基準が明確でなく、話せばそれで目標達成になってしまうのです。これではグループ活動はリラックスタイムになってしまいます。過去どんな点に着目してきたか。どのようなことに注目すると価値ある気づきができたのか。そのようなことを意識させ、教科の学びにつながる気づきを求める必要があります。「みんなが、これは大切だと納得してくれるようなことを見つけよう」といった目標を活動に対して設定することも必要です。そして、子どもたちの気づきを教科の視点で評価していくことが大切なのです。
英語の授業でのペア活動も気になりました。互いに決められた英文を言い合うだけです。言えばいいのでテンションは上がっていきますが、相手の言葉をきちんと聞く必要がありません。伝え合ってはいません。子ども同士の関係をかえって悪くする活動になっています。
子ども同士の関係で気になる場面がありました。指名されて答えられなくて困っているのに、他の子どもがその子どもを心配している様子がないのです。自分には関係のないことだと、他のことをしているのです。人間関係ができていれば大丈夫かと様子を見ているはずです。まわりの子は助けようとします。そいう姿が見られなかったのです。授業者も「まわりの人、助けてあげて」とかかわり合いをうながすように働きかけをしませんでした。

授業以外での人間関係も気になりました。休み時間に子どもたちが教室をでて廊下にたむろするのです。特別教室への移動かと間違うほどです。歩くのにじゃまになるくらいでした。教室の友だちとかかわろうとしない、他の学級の友だちとかかわろうとしている子どもが多いのです。学級の中で人間関係がうまく形成されていないように思われます。行事が終わったこの時期でこのような状態はちょっと想像できません。いろいろ聞いてみると、どうやら行事が縦割りでおこなわれていることと関係がありそうに思えます。3年生が2年生と1年生を指導するので、学級内で葛藤やぶつかり合いが起きにくくなります。学級でのかかわり合いが弱いので、人間関係が形成されにくくなっているのです。縦割りを止めろということではありません。縦割りには縦割りのよさがあります。それを補完する活動が必要なのです。
その一つが係活動です。係がしてくれたことを学級全体で「ありがとう」と感謝し合うのです。互いに「ありがとう」と認め合うことで人間関係をつくっていくのです。(係活動の指導参照)

いろいろと問題点を挙げましたが、うまくいっていないことばかりではありません。授業によっては、子どもたちはとてもよい表情を見せてくれますし、しっかりかかわり合ってもいます。授業者によって見せる姿が変わっているのです。このことは、学校がよい方向に変わっていく途中によく見られることです。しっかり受容して互いに認め合えるような授業を経験すると、今まであまり差がなくて気にならなかった授業がつまらなく感じてしまうのです。そのため、落ち着かなくなったり集中力を失くしたりしやすくなるのです。
今一度、学校全体で目指す子どもの姿を明確にし、そのために何をすればいいのか、全体で何に取り組めばいいのかを共有することをしてほしいと思います。

授業後、何人かの先生とお話しすることができました。
ワークシートに書かれた指示に従って作業するだけの活動が目立ちます。毎回指示をするのではなく、今までの経験で指示がなくても作業ができるように育てることが大切です。例えば、白地図に川や山脈、産物や工業地帯などを書き込む作業があります。最初の内は何を書き込むかの指示が必要ですが、いくつかの地域を経験すれば、授業者が指示をしないでも自分で何を調べて書き込めばいいのかわかるはずです。ワークシートには白地図だけ用意しておけば、あとは子どもたち自身で作業ができるように育てるのです。

調べたことを書き込むだけのことに、時間をかけて答え合わせをしている授業もありました。調べるのであれば、全体で答え合わせをする必要はありません。どこで調べたかをグループで共有しながら作業をすれば、特に答え合わせは必要ないはずです。それに対して、子ども同士の答が違ったらどうすればいいのかと質問されました。それはとても喜ばしいことです。全体で考えを深めるよい機会だからです。
考えが一致しなかたグループに、どんなことを話し合ったか発表してもらいます。それぞれの考えを学級全体で共有し、子どもたちで結論を出させればよいのです。グループの中で答が異なった問いだけに絞れば、充分にその時間は取ることができるはずです。
このようなことを話させていただきました。

「研究指定を受けると学校が荒れる」という都市伝説があります。学校がよくなっていく過程で、その変化への対応に時間差ができ、子どもも教師も状態が安定せずに揺れてしまうことがよくあります。そのような状態が起こることを言っているのかもしれません。その揺れをいい形で収束させれば学校は間違いなくよくなっていきます。大切なことはその揺れに動揺することなく、前へ向かって進み続けることなのです。研究発表はゴールではありません。研究発表時に完成している必要はありません。単なる通過点でしかないことをしっかり心に刻んでおいてほしいと思います。
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