提案性の高い授業研究

前回の日記の続きです。

授業研究は採用2年目の先生の理科でした。単元は1年生のいろいろな物質です。
カルメ焼きを用意して、食べて見せます。「作りたいですか」と問いかけると子どもたちは「作りたい」と反応します。つかみはOKです。カルメ焼きが「砂糖」と「炭酸水素ナトリウム」からできることを伝えて、自作の作り方のビデオを電子黒板で見せます。子どもたちの姿勢から画面に集中しているのがよくわかります。ビデオを見せ終わって課題を提示します。6種類の粉のラベルが取れてどれがどれかわからなくなった。カルメ焼きの原料である、「砂糖」と「炭酸水素ナトリウム」を見つけるというものです。見つけたグループからカルメ焼きをつくるという、動機づけもあります。ICTをうまく活用しテンポよく進めていきます。

試料をグループに配ります。この指示も的確です。グループの誰が取りにくるかを指定しているのです。子どもたちは、興味を持っているので試料をすぐに覗き込みます。砂糖などは見ただけでもわかりそうですが、どの試料も細かく砕いてあり、外見からは区別できないようにしてありました。ちょっとしたことですが、子どもたちが考えるための仕掛けが施してあります。しかし、この後グループ活動の指示をすることを考えると、先に試料を配ることは、子どもたちが授業者の話に集中しない危険性があります。
授業者は「注目」と声をかけます。子どもたちはすぐに授業者の方に体を向け、しっかりと聞く態勢を取ります。授業規律がしっかりできています。これならば、先に試料を与えても問題ないでしょう。この場面以外にも授業規律がしっかりしていると感じる場面がたくさんありました。印象に残ったのは、授業者の話を聞く姿勢になるのに数人が少し遅れた場面でした。全員が集中するのを待っていた授業者は、最後の数人が集中した時にそっと「ありがとう」と言ってから話し始めました。小さな声ですが、最後に顔を上げた子どもたちには聞こえたはずです。こういうことを積み重ねて、学習規律をつくり上げたのだと思います。

電子黒板を使って、試料は「砂糖」「炭酸水素ナトリウム」「食塩」「デンプン」「石灰石」「ホウ酸」の6種類であることを提示し、一つひとつを子どもたちに確認して、どんな物質だったか思い出させます。しかし、ここでは詳しくは説明しません。課題を解決する過程で復習すればいいからです。「ホウ酸」の説明でゴキブリ団子の話をして、なめる方法は使えないことを伝えます。細かいところまでよく考えています。
ここで、子どもたちに見分ける方法を1つ以上ノートに書くように指示します。子どもたちはすぐに取りかかります。ノートに書かせるのもよい指示です。漠然と「考えて」ではなく、書かせることで、全員参加させやすくなります。また、「1つ以上」と言うことで、できた子どもを遊ばせないことを意識しています。
授業開始から5分ほどでこの活動に入っています。子どもたちが活動するまでに時間がかかる授業が多いのですが、ムダのない導入でした。

2分ほどで、作業を止めます。子どもたちはすぐに授業者を見ます。ここで、「どうせなら早く見つけて、早く食べたいでしょ」と、「より少ない方法で」と条件を足しました。条件をつけることで、ただ答が見つかって終わりではなく、考えを深めることをねらっています。
ここでは、ノートの内容を発表させませんでした。いくつか発表させて、その実験から何がわかるかを明確にし、どのようにすれば見つけることができそうか、課題解決の方向性を確認しておいてもよかったかもしれません。
グループの考えをまとめるプリントの説明を、実物を見せながら行います。配る前に説明するのはよいのですが、実物ではちょっと小さすぎました。わからない人と確認をしましたが、子どもたちからは反応はありません。見ればわかるのかもしれませんが、ちょっと不安な場面でした。ここは、電子黒板にプリントを映して説明したいところです。

グループ活動に入ります。座席が男子同士、女子同士ならんでいるので、話し合いはどうしても2人ずつに分かれてしまいます。また、プリントがグループに1枚なので、プリントを手元に引き寄せて書き込む子どもが主導権を握ります。座席については市松模様にすることを検討してほしいと思います。プリントは1枚ずつ持たせて各自で書かせるか、小型のホワイトボートとペンを何本か用意し、複数が同時に書きこめるようにするといった工夫をしてもよいでしょう。
グループを回りながら、「食べる」と書いてあるグループに、「ホウ酸もあるよ」と声をかけます。「ホウ酸」の説明をしてあるので、全体で取り上げる必要はありません。この対応で問題はないのですが、「食べても大丈夫?」とグループの子どもに声をかけて、かかわりをうながしたいところです。

子どもたちは、炭酸水素ナトリウムの性質をまだ学習していません。当然困るはずです。いくつかのグループの動きが悪くなります。1つのグループが資料集を調べ始めました。この動きを待っていたのでしょう。しばらくして、作業を中断させました。「困っていることない?」と子どもたちに問いかけます。「何が何か、見た目でわからない」ということが出てきました。これに対して授業者は答えません。他の子どもから考えが出るのを待ちます。「炭酸水素ナトリウムはわからないけど、砂糖はわかる」という意見が出ます。それに対して、「砂糖はどれ?」と聞き返します。「F」という答に、子どもたちから「えぇ、違うよ」という声が上がります。それを受けて、「バラバラだね。わからないから実験するんだね」と返します。なかなかうまい対応です。ここでは、理科の実験で大切な、誰がおこなっても同じ結果にならなければいけないという、「再現性」や「客観性」についても、押さえるとよかったもしれません。
「炭酸水素ナトリウムの性質がわからない」という声が上がります。授業者は「どうする、解決策はない?」と子どもたちに聞き返します。授業者は調べていたグループからの声を期待していたようですが、なかなか声が上がりません。「調べていた人がいる。ちょっと探してみよう」と子どもたちに調べることを示しました。ここでは、「炭酸水素ナトリウムの性質はみんなわかっていた?困らなかった?」と、困ったことを全体できちんと共有したいところです。その上で、「どうした?」「そこのグループは何をしていた?」とたずねてもよかったかもしれません。
子どもたちに調べさせて、見つけた結果を発表させます。「これがわかればいけそう」と再びグループに戻しました。
困ったことを聞いて、みんなで考えることを普段からやっているようです。授業者に教えてもらうのではなく、自分たちで考えることが自然にできていることからそう感じました。

資料集を調べることに気づいたので、子どもたちは試料の性質をいろいろと調べます。調べることが主になって、話し合いが止まるグループがでてきます。話し合いも「少ない」ではなく、どんな実験をするかが中心です。
ある班から「有機か無機かわからない」という言葉が出てきました。この言葉を拾って全体で問いかけます。こういう扱いもなかなかです。ここで、「それってどういうこと」と炭酸水素ナトリウムが有機か無機かにこだわった理由を共有しておきたかったところです。

いくつの実験でできるか全体に問いかけます。「3つ」という声が上がります。どんな実験するかを問います。「水に溶かす」という発表に対して「何とかいけそう」と返しますが、ここは、具体的に何がわかるか確認した方がよかったでしょう。「もう1つくらい」と聞きますが、挙手はありません。ある班を指名して、「熱する」を引き出します。この2つで「見通し持てそう」と問いかけ、「もう1回考えてみよう」とグループに戻しました。
ここでは、どんな実験をすれば「砂糖」と「炭酸水素ナトリウム」を見分けられるかの確認を先にきちんとするべきだったと思います。理科としては、どのような実験で何がわかるかを整理することの方が少ない実験で行うことより大切です。どの実験を組み合わせれば少なくてすむかは、理科というよりは論理の問題だからです。

最後に、いくつになったか確認します。もう1枚プリントを渡して、何を実験すればよいかを整理させて時間となりました。実験は次の時間に持ち越し、感想を書かせて終わりました。子どもたちは書くことに慣れているようです。どの子もしっかり書いていましたが、感想というのは少し引っかかります。単に「面白かった」「難しかった」では学びにつながらないからです。しかし、この時間で自分が考えたこと、わかったことを書いている子どもがたくさんいました。指導はされているのでしょう。

時間切れで、この時間での学びが明確にならないまま終わったことは残念でした。子どもたちから出てきた「溶かす」「燃やす」などの簡単な実験だけでも、全体の場で確認してもよかったかもしれません。
とはいえ、前回見せていただいた時と比べてとても進歩しています。授業の基本がとてもしっかりしていました。アドバイスされたことを、素直に日々実践していたことが子どもたちの様子から見て取れます。今後がとても楽しみです。

検討会では、子どもたちのグループ活動の様子を中心に意見が交換されました。各グループにリーダーとなる子どもが1人入るようにしています。確かに意見を言い合うことはできるのですが、一部の子どもが仕切ってしまい、聞き合い深めることにはつながっていないように思います。このことに気づいている先生もいらっしゃるようでした。私からは、わかる子ども、リーダー中心で進むのではなく、わからない子ども、困っている子どもが中心となって、「どうすればいい」「わからないから聞かせて」と言える学級をつくることが大切であることをお話ししました。
学校全体で、「活動することが主となっていて、その目標や評価が不明確であること」や「わかった子ども、発言できる子どもが中心となって授業が進んでいること」をお話しさせていただきました。

前回もですが、他の授業と比べて研究授業の質がとても高いことに驚きます。多くの先生が協力して授業をつくり上げていることがよくわかります。特別な授業ということに賛否両論あるとは思いますが、提案性の高い授業研究を行えることはとても素晴らしいと思います。今回の授業は現在の学校の課題を解決する方法を示唆してくれました。前回の授業研究の結果、今回学校の雰囲気が変わっていたのと同様に、次回の訪問でもきっと学校全体によい変化が見られると思います。今からとても楽しみです。
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