少経験者への授業アドバイス(長文)

前回の日記の続き、少経験者の授業アドバイスです。

初任者の数学の授業は3年生の2次関数の授業でした。以前と比べて子どものことを見ることができるようになっていました。子どもを見ることを意識できているのですが、まだ子どもをチェックする目で見ています。友だちの発表を聞いていなかった子どもに、何と言っていたかたずねます。指名された子どもは困ってしまいます。「わかりません。聞いていません」と答えるしかありません。それに対して、ある子どもが「聞いとけよ」と非難しました。授業者がお仕置きのために聞いていない子どもを指名したことがわかったので、それに乗じて攻撃的な言葉を発したのです。言われた子どもは反発せずに「はい」と返事をしましたが、表情はあまりよくありません。
このようなやり取りは、教師と子ども、子ども同士の人間関係を悪くしてしまいます。「聞いとけよ」という強い言葉ではなく、せめて「聞こうよ」という言葉であってほしいと思います。これが正解という対応があるわけではありません。たとえば、素直に「聞いていた?」とたずねて、聞いていなかったと答えれば、「いい意見だったのに、もったいないことをしたね」「○○さん、もう一度聞かせてくれるかな。みんなしっかり聞こう」といった対応が考えられます。再度聞いた後、先ほど聞いていなかった子どもに復唱させて、「今度はしっかり聞けたね」とほめて終われば、否定的な気持ちにさせずに済みます。
「制動距離」とはどういうことか問いかけたのですが、これは知識です。しかも数学の知識ではありません。理科で習っているはずだそうですが、ここで発表させる意味はあまりありません。最終的に、理科としてのきちんとした定義はしません。であれば、数学として必要なことに絞って授業者が押さえればいいのです。2次関数の例として出すのですから、何と何が関係しているかをしっかり押さえる必要があります。制動距離は、制動を始めた時の速度の2乗に比例することを言います。「不思議だね」と授業者は言いますが、ここで使うべき言葉ではないでしょう。「(高校の)理科の時間でその理由がわかるからね」と理科の学習への橋渡しをしておく方がよいと思います。また、数学としては必要な条件ではありませんが、やはり一定の力でブレーキをかけた時という条件は付けておいてほしいと思います。
「比例は今までに何回もやったから、自分で考えてごらん」と指示します。しかし、ここでは2乗に比例するという表現です。スモールステップで、まず比例の復習をして、その上で何と何が比例するかを明確にして、y=ax2の形に表せることを示したいところです。授業者は、この形を2次関数の一般式(一般形の間違い?)と言いました。一般形という表現は中学校では使わないはずです。使うのならばその定義をしっかりとしておく必要があります。また、2次関数の一般形は、y=ax2+bx+cです。用語を雑に使っていることがとても気になりました。
y=ax2となることを言った後、「比例定数は何かわかっていませんね」と続けます。「何がわかれば、制動距離と(制動を始めた時の)速度との関係がわかる?」というように子どもに問いかけたいところです。また、「比例定数」という言葉を使いましたが、2次関数ではx2の係数のことを比例定数とは言いません。この時、x2に比例すると考えれば「比例定数」ということもできるということです。説明もなしに使うことで、子どもたちが混乱する可能性があります。くどいですが、数学では用語や言葉の使い方にこだわる必要があります。

2年目の教師の社会の授業は、江戸時代の三都(江戸、大坂、京都)が繁栄した理由を考えるものでした。教科書にそって教えるのではなく、課題を工夫して子どもに調べたり、考えさせたりすることを大切にしています。先輩の先生からよい影響を受けているようです。
導入時に子どもたちの興味を引こうと工夫をするのですが、無責任に答えられるような質問や直接授業に関係ない話も多く、テンションが上がる子どもが出てきます。一方、そのテンションについていけずに白けている子どもも目立ちます。授業が始まった時点で、子どもたちの様子が分かれているのが気になります。この状況が固定化しているのでしょう。できるだけ、テンションを上げないように注意し、導入は短く終わるようにすべきです。
子どもたちが作業に取り組み始めてから、追加の指示をすることが何度かありました。いつも言うことですが、作業中に指示はしないようにすることが大切です。もし、する必要があるのなら、必ず作業を止めてから、全体にきちんと通るようにしなければなりません。また、一部の子ども作業に入っても手をつけようとしません。授業者は机間指導をしながら、途中で何分も一人の子どもにかかわります。当然その間他の子どもの様子は見ることができません。やらない子どもは、授業者がそばに来ると鉛筆を持ってやるふりをしますが、死角になるとすぐに遊びだします。全体を見て、どのような働きかけをするべきかを考えてほしいと思います。
全体での発表も、子どもの発言を黒板にまとめていくために、発言を聞かずに写す子どもが目立ちます。板書を控えて、子どもたち自身でまとめさせることを考えるとよいと思います。

初任者の国語の授業は、最後の晩餐についての説明文でした。毎回おこなう漢字の学習の場面では、全体をよく見ています。しかし、この日の課題に入っていくと、余裕がないため子どもを見ることができません。顔を上げていない子どもがいるにも関わらず、話しはじめます。指示の確認をして、「OK?」と聞きますが、反応がありません。仕方がないので、そのまま続けます。一つひとつの場面で、徹底すべきことができていないことが気になります。作業を開始すると、席を立ってカーテンを閉める子どもがいます。よくない行動は修正する必要がありますが、そのままになってしまいます。
最後の晩餐の修復前と後の違いを対比して抜き出すように指示しましたが、なぜそのことが必要となるのかが示されません。子どもたちは授業者の指示に従って作業をするだけです。
説明文は事例をもとにその根拠を挙げ、筆者の主張する結論が導かれます。それぞれの段落がどの位置づけにあり、互いにどのような関係にあるのかという文章構成を理解することが大切です。教材の文章を例として、説明文の構成に着目して筆者の主張を正しく理解する方法を学ぶことが説明文の単元の大きな目標です。今回の授業であれば、まずこの段落がどのような位置づけかを明確にさ、その構成上の役割を意識した時、何に着目すべきかを考えさせることが大切です。その上で、この段落では修復前と後を対比して述べていることから、このことが筆者の主張を理解する鍵となりそうだと気づかせるのです。その結果、対比して整理する必然性が生まれてくるのです。
授業を組み立てる時に、説明文であれば説明文の、物語であれば物語の共通した考え方を意識することが大切です。それを「この前やった説明文では、説明文を読むときにどんなことが大切だとわかった?」と積み上げていくのです。そのためには、まずは授業者自身の中に国語として説明文は、物語は何を学ばせるのかが明確になっている必要があります。授業者には、このことを意識するようお願いしました。

新任の理科の講師の授業は、進化についてでした。ガラパゴス諸島の生物の分化について話すのですが、教科書の写真を見ながらなので、子どもたちの顔が上がりません。こういう場面では、ICTを積極的に活用してほしいと思いました。ICTの環境的には厳しい学校ですが、移動式の電子黒板もあるので、ぜひ活用してほしいと思います。
子どもの発言を素晴らしいと評価するのですが、その後自分でしゃべってしまいます。子どもから見れば、素晴らしいとは、教師がその発言をきっかけに自分の言いたいことを説明できるような発言ということになってしまいます。これでは、子どもたちは教師の求める答探しを始めてしまいます。
授業者は、「同じ種類」のものが島ごとに独自の進化を遂げると話をしますが、そもそも「同じ種類」とは理科の用語としてどう定義されているのかあいまいです。それぞれの島の生物は、互いに異なった種類なのか、同じ種類で形態が違うのかどちらなのでしょうか。説明を聞いていてよくわからなくなりました。教科書を見てだらだら説明されても、子どもにとってよくわかりません。子どもにもっと活動させることを考える必要があります。子どもが受け身になって集中力が落ちていきます。教科書の写真を見る必要がない場面でも、顔が上がらなかったのが印象的でした。

初任者の体育の授業は1年生のソフトボールでした。
最初に気になったのが2人の見学者の態度です。道具の移動をさせられた後、活動場所から少し離れたところに座ってずっと2人でしゃべっていました。新しいことの説明の時にもそこから離れません。次回参加する時に困ってしまいます。見学者も授業に参加させることを考えることが大切です。
まずいつも通りペアでキャッチボールをするように指示をします。ペアの一方がボールを取りに行き、グランドのそれぞれの活動場所へ移動します。子どもが素早く移動しません。ボールを上に投げるといった、余計なことしている子どもが目立ちます。
キャッチボールを始めても、いつも通りとはどうすることなのかがわかりません。子どもたちの様子がバラバラなのです。ボールを放す位置が頭の上だったり体の横だったりして、一人ひとり違います。グラブを構える位置も一定しません。また、声も出ません。「ナイス」という言葉は一度しか聞き取れませんでした。
授業者はちゃんと指導してきたというのですが、子どもたちからはそれが何かは伝わってきません。途中でボールの投げ方、グラブの使い方を指示しますが、グランドに広がっている子どもたちにはよく聞こえません。このようなことが続くと授業者の指示はますます聞かなくなってしまいます。まずは、いったん集合させてから再度指示からやり直す必要があります。
「いつも通り」と言って指示するのであれば、「どのようなことに注意をすればよかった?」と子どもたちに確認しておくことが必要です。ペアでの活動なのですから、互いにチェックポイントを意識して、それができているかどうか会話しながら活動する。しゃべりながらが危険であれば、評価し合う時間をつくる。そういう工夫が必要です。活動の目標と子どもたち自身でできる評価を常に意識することが大切です。
子どもたちを集合させて、この日初めてする活動の説明を始めます。遠目にも一部の子どもの頭が揺れるのが見て取れる状態で説明を始めます。バットを使う活動ですが、授業者が一人で延々と説明をします。子どもは受け身の状態が続き集中力がなくなっていくのが、頭の揺れでわかります。
一番驚いたのが、ベースの位置でした。グループごとに何か所かに分かれてプレーするのですがホームベースがすぐ隣り合っています。ノックをするバッター同士はそばに立っているのですが、向きが違うので互いに見えません。もしバットがすっぽ抜けたらよけることができません。ベースの位置はずらすのが基本ですが、このことを知らないのかと不安になりました。授業者に確認したところ知ってはいたようです。知っているのならきちんとしなければいけません。
この日の授業は事故が起こらなかったのが僥倖に思えるものでした。

この日見た授業は、ほとんどが若手でした。わずかな年数の差でも大きな違いがあります。短い期間でも確実に進歩していることがわかります。これからますます若い教師が増えてくると思います。彼らが確実に成長し続けるためには、互いの授業を見合い学び合う環境が必要です。今以上にその環境が充実されていくことを願っています。
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