中学校で授業アドバイス

昨日は中学校で授業アドバイスを行いました。

この日は1年生の数学と英語、および少経験者の授業を観察しました。

1年生の英語はリスニングの場面でした。授業の大きな流れはどの授業者でも共通です。英語科は自分の授業のやり方にこだわることが多いのですが、この学年はよいチームワークを見せてくれます。
CDからの英語を聞いて教科書のメモ欄にチェックをします。留学生の簡単な自己紹介です。どこから来たのか、どこに住んでいるのか、どんなことが好きで、いつ練習しているのかといった内容です。
リスニングで問題になるのが答え合わせの場面です。解答を確認し合っても間違った子どもは、「ああ、自分は聞き取れなかった」と思うだけで、聞き取れるようにはなりません。聞き取れなかったことや、違って聞こえた個所も、こう言っているのかもしれないと思いながらもう一度聞き直すと、意外と聞き取れるものです。そこで、
ペアで答を確認して、相手の答を書き込む。その上でもう一度聞き直して、答を書き直す。聞き取れていた子どもにその英文を言わせて、それから聞き直させてもいいでしょう。子どもが聞き取れない文は速度を落として授業者が言い直す。
このようにして、わからなかった子どもも含めて、自分が聞き取れたという達成感を全員に味あわせてほしいのです。
また、英文をノートに書く場面で学級間に差がありました。英文をほぼ全員が一気に書く学級と、1文字1文字写している子どもが何人もいる学級があるのです。一気に書ける学級の授業者に聞いたところ、全員がその文を暗唱できるようにしているからではないかということでした。なるほど、と納得です。「できるだけ見ないで写す」といった目標や「見る回数」という評価指標を与えることも子どもが積極的に取り組むためには必要です。教師がすべてを評価することはできないので、自己評価できるようにすることを大切にしてほしいと思います。
会話文のペアでの練習も、決まった文を言うのではなく、返答を変えることで対応を変えるようなものにすることを意識してほしいと思います。ペアで活動しているのに、相手の言葉を聞かなくても困らないというのは、子ども同士の関係づくりやコミュニケーションの点でも問題があると思います。

1年生の算数は、見た場面も違いましたがそれぞれのやり方で授業が進んでいました。
ベテランの授業は、比例の導入場面でした。子どもの言葉を「素晴らしい」と柔らかい表情で評価します。授業者はうまく子ども惹きつけています。
実際に線香を燃やして見せて、「ともなって」という言葉を使って2つの量の関係を記述させます。式で表わされる静的な関係ではなく、関数という動的な関係を意識させようとしています。さすがベテランです。この「ともなって」という用語を子どもに定着させるのに2時間使ったということです。
この後、途中の展開を見ていないので的を外しているかもしれませんが、比例の定義のy=axの部分が板書されてはいたのですが、せっかくこだわっていた「ともなって」と、この定義の関係についての記述はありませんでした。また線香を燃やすという課題は定義域と値域を考えることや連続量を意識したものです。このあたりの押さえも見ることができませんでした。ちょっと残念です。
この後の演習の場面ですが、できた人には次の作業の指示もされています。さすがです。子どもたちに○つけをするのですが、できた子どもが手を挙げて教師の○つけを待っています。最初のうちはまだいいのですが、何人も手が挙がると大変です。TTでやっているのですが追いつきません。子どもは先生に○をもらいたいのでテンションを上げて待っています。その間、当然次の問題には取り組みません。ムダな時間が流れます。このやり方は、○をもらえない子ども、わからない子どもを見落とします。志水廣先生が提唱する「○つけ法」のように、全員を順番に○つけする。できていない子どもには、できているところまでを部分肯定して○をつけ、簡単に指示をする。必ず全員に○をつけるといったことを意識してほしいと思います。
問題演習の場面では、こうするといいという指示が目立ちました。特にT2は子どもへの指示説明が多すぎるように感じました。授業者は、学年が上がるにつれて次第に子ども自身できるようにしようとしているそうです。子ども自身という言葉の中には子どもが「一人で」という意識も感じます。基本、教師対子どもの関係で授業をつくっています。一方、子ども同士のかかわりを大切にして学ぶことをすると、できない子どもは他者とのかかわりを通してできる喜びを知ります。できる子どもは他者を教えることでさらに深く理解し、他者の役に立つことで自己有用感も味わえます。非常に力のある先生ですので、この子ども対子どもの関係をうまく使って授業をつくるようにすれば、大きく進化すると思いました。

5年目の先生の授業は、問題演習の場面でした。終始笑顔でわからない子どもたちが参加できるようにすることを意識した授業です。6%はいくらになるかを確認する場面で、1列全部の子どもに6/100を言わせます。子どもたちは一生懸命答えます。こんな簡単なことを何度も言わせるのは一見ムダに見えるのですが、6%が6/100であるということは大切なことです。くりかえすことで全員に定着させたいのです。力のない子どもでも答えられるので、意欲がわきます。そのあと、子どもたちの表情がよくなったことがとても印象的でした。
説明の場面で板書を写していることどもに、「メモは後でいいよ」と優しく言います。問いを勘違いして答えた子どもが、勘違いしていた部分を自分で説明して修正したあと、「みんなそれなら納得」とまわりとつなげます。子どもに寄り添おうとする姿勢が感じられます。
寝ている子どもを何とか参加させようと優しく起こしますが、その子どもに対するまわりの子どもたちの反応が冷たいのが気になります。多くの子どもがかかわり合って授業が進むのですが、わからないできない子どもが、友だちとかかわり合えず孤立を深めていっています。この学級だけでなく1年生全体でそのような場面が目につきました。
濃度の問題の解き方を上手に教えるのですが、これは濃度の問題にしか通用しない解き方でもあります。このままでは塾と変わりません。
量に着目する。方程式が利用できるのは、等しい関係のものがある時。等しい関係の物が見つかれば方程式が使える可能性がある。等し関係が見つかれば、それを知りたいもの、未知数を使って表わすことができるか。できれば、方程式が完成して、それを解いてみればいい。
このような数学的なものの見方・考え方とリンクさせながらこの問題の解き方を整理すると、他の問題にも通用する考えに広がっていくことをアドバイスしました。

3年目の先生の授業は、比例の定義前の具体例の表から、比例につながる性質を見つける場面でした。授業者は子どもの言葉を活かして授業をしようとしています。子どもに問いかけながら授業を進めています。とてもよい姿勢です。表を見て気づいたことを何でもいいから言うように指示します。この「何でもいい」は曲者です。何でもいいというのは自由に発言できて子どもが意見を言いやすそうですが、実はなかなか言いにくいのです。何でもいいからといって、「表が上下2段」などということを言えば外すことは間違いありません。数学の時間なのだから数学的でなければいけないはずと考えます。かえって漠然として答えにくいのです。子どもたちは表を初めて利用したわけではありません。小学校から何度も利用しています。今までどのような視点で見てきたかを整理しておくことが大切です。縦に見る、横に見るといった言葉を引き出すだけでもよいでしょう。逆に気づいたことから視点を整理することも大切です。増分(差分)に注目する。ある数を基準にして、何倍かした値で対応するものを見る。次々に何倍かする。縦の対応の関係を見る。視点を整理して、次に表を使う時に活かせる形にするのです。過去に学習したこと、これから学習すること。現時点の教材を両者の橋渡しにすることが大切です。
子どもたちは気づいたことを発言してくれますが、中にはわかりにくい説明もあります。授業者は一生懸命その言葉を理解しようとします。発言に対して「今の、わかりましたか」と子どもたちに問いかけます。子どもの発言を活かそうという気持ちが伝わります。友だちの発言をわかった人に確認をしますが、それだけではわからなかった子どもは活躍できません。わからなかった子どもに、どこがわからないか、どこで困っているかを聞くことが必要です。子どもの説明がわかりにくい時は、授業者が言い変えることもあります。子どもは自分の言った言葉と違う言葉に置き換えられると、怪訝な顔をします。子どもは、授業者は自分の言いたいことを言うきっかけに、自分の発言を利用していると感じます。子どもの発言を大切にして活かそうとしても、わかった、できた子の発言と先生の説明だけで授業が進んでいきます。発言に参加できる子どもは何度も活躍できますが、そうでない子は蚊帳の外です。わかる、できる子どもはどんどん活発に参加しますが、そうでない子どもは孤立感を深めます。
このことは1年生の他の教科の授業でも起こっています。子どもの発言を大切にするのですが、挙手した子どもの発言だけで進んでいくので、かえって他の子どもが授業から離れていくのです。
わからない子どもの困ったところをみんなで共有し、解決していく。わからなくても授業に参加すれば、発言の機会がある、わかるようになる、活躍できる。そういう授業にすることを意識してほしいと思います。とはいえ、この3年目の先生が、子どもたちに笑顔で接し、子どもの発言をうながし、受け止められるようになったのは大きな進歩です。これからますます成長してくれることを期待します。

少経験者の授業については、次回の日記で。
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