研究授業と検討会で考える

前回の日記の続きです。

授業研究は小学校6年生の国語の授業でした。意見文を書いてスピーチをする単元の第2時です。「平和のとりでを築く」という文をもとに平和について考えるという時間でした。
授業者はちょっと緊張気味でしたが、それでも笑顔をつくろうとしているのがよくわかります。子どもの発言をポジティブに評価しようとする姿勢も見られます。また、日ごろから板書を写す時間を明確にしていることにも気づきました。子どもたちは指示があるまで写すことをしません。集中して話を聞いています。授業規律を意識して学級経営をしていることがよくわかります。

前半は前時の復習に続いて題材となる文の内容の確認です。教科書をペアで音読させます。ペアでの読み方の指示は明確ですが、何を目的としているのかが明確ではありません。ただ交互に読んでいるのです。活動とねらいの関係が不明確なことが気になります。
筆者が原爆ドームの世界遺産登録を不安に思っていた要因を個人作業で本文から3つ抜き出させます。挙手した子どもを指名して、正解であればそれを板書していきます。戦争の悲惨さを伝えるものであること、過去の世界遺産と比べて規模が小さく、歴史が浅いことを抜き出します。後半に時間を使いたかったのでしょう。一問一答に終わっていました。であれば、個人作業をする意味はあまりありません。全体に問いかけながら確認していくので十分でしょう。せっかく作業をしても一問一答で終わるのであれば、「正解探し」をしただけです。このようなことが続くと子どもたちは根拠を持って考えることをしなくなってしまいます。個人で作業をさせるのなら、きちんと根拠を持って子どもが互いに納得して答を見つけていく過程が必要です。
筆者は原爆ドームと他の世界遺産とを具体的には比べていません。そこで授業者はタージマハルやモヘンジョダロの写真をスクリーンに映してその規模や時代を示します。最後に原爆ドームのデータを映して比較しました。他の世界遺産と比べて規模が小さく、歴史が浅いといっても子どもたちにその知識がないからです。ICTを自然に活用してムダな時間を減らそうとしていました。しかし、それでもかなりの時間を使っています。「平和のとりでを築く」という筆者の平和への思いをもとに子どもたちに「平和について考えさせる」のがこの時間の目的です。「戦争の悲惨さを伝えるもの」に対して、「規模や歴史の問題」はこの文章に関してはあまり大きな意味がありません。だから筆者はこのことを詳しく記述していないのです。数点の遺跡とその写真に比較できるように原爆ドームを同じ縮尺で重ねるなどの工夫をすればもっと時間を減らすことができると思います。

筆者は原爆ドームが世界遺産に選ばれたことから、最初の不安の裏返しで世界の人々の平和への思いを確認しています。授業者はその部分を抜き出させますが、きちんと不安との関係は押さえませんでした。この部分は筆者の主張につながる部分なので不安の要因よりはこちらに時間をかけたかったところです。続いて、筆者の主張「原爆ドームは平和のとりで」を抜き出しそれに賛成か反対かを子どもたちに決めさせます。それをもとに話し合いをしようというわけです。
ここで大切なのは「原爆ドームは平和のとりで」とはどういうことか、その考えの根拠となっているのはどのようなことかをしっかり押さえておかなければ、それをもとにして平和について考えることができないことです。1時間で平和について考えるところまで進めるのであれば、できるだけムダを排してこのことに時間を割くべきだったと思います。そのためには、前時に説明文の構成をしっかり意識して本文を読み、どこに筆者の主張があり、どこにその根拠となる事実や具体例があるかを押さえておくことが必要です。日ごろから説明文の読み方をきちんと意識して学習していれば比較的短時間でできることだと思います。メタな知識が必要になるのです。

子どもたちの意見は1人を除いて賛成ばかりでした。その状況で自分の考えをグループで話させます。しかし、話すことの目的や意味を明確にはしていません。考えが変わった人と聞きますが、ほとんどが賛成では変わりようがありません。授業者は子どもたちを揺さぶろうと自分は反対だと言います。反対の子どもを孤立させないためだったのかもしれません。しかし、そもそも賛成か反対かで意見を言い合う必然性が子どもたちにないのです。
コの字型にして全体で意見を発表します。コの字型といっても真ん中は空いていません。教師が中に入ることはできません。教師がコの字の中を移動することで子どもたちの視線を発表者に誘導したり、発表者のそばに行って発言を引き出したりといったことができません。この形がうまく機能するためには子どもが発表したりや聞いたりする姿勢ができていることが前提です。最初に指名された子どもが立ち上がると子どもたちの視線が集中します。しかし、着席したまま発言させたので多くの子どもの視線の行き場がなくなってしまいました。子ども同士の距離が近いので、友だちの体が視線を遮るのです。それでも、友だちの意見を聞こうとする姿勢は崩れません。しっかり聞こうとしています。聞く姿勢ができつつあります。
授業者は、最初の子どもの発表をしっかり考えながら言葉を発していたと評価し、子どもたちに拍手を要求しました。具体的に評価していることはよいことです。続いて他の子どもの挙手を待って指名します。今度は具体的に評価せずに拍手を求めました。次の子どもの発言の後は拍手を求めませんでした。何人かの子どもは拍手の準備をしていましたが、拍手を求められないので少し戸惑った表情をしていました。拍手することの是非は置いておいて、形式的に拍手するのなら全員にすべきでしょう。そうでないのなら、評価の基準を明確にすべきだと思います。
都合6回ほどの発言の間に2人の子どもが2回ずつ発言しました。一部の子どもたちだけで進んでいます。最初は集中していた子どもたちも次第に集中力を失くしていきました。一人ひとりの発言をきちんと全体で共有してつないでいかないので、何を話しているのかわからなくなっているのです。挙手はしないが友だちの発言に反応する子どももいます。「うなずいていたね。どういうことか聞かせてくれる」とそういう子どもにつなぐことが大切です。また、今自分たちがどこに向かっているのか子どもたちがわかっていないことも、このような状況をつくっている原因の1つです。
子どもたちの活動場面はいくつもあったのですが、その活動の目的や目標が明確でなかったことが問題でした。最終的に子どものどんな姿が見たいのか、そのためにどのような活動や知識が必要かをしっかり考えて授業を構成していなかったのです。

検討会はグループを活用した「3+1授業検討法」で行われました。教務主任が市内の他の学校で行なわれていたのを見て取り入れたようです。簡単に説明して始めたのですが、参加者にはゴールがよく見えなかったようです。よいところを3つ、改善点を1つと言っても、1人ずつ「3+1」で話すのか、1つずつ話し合って最後に「3+1」にまとめるのかよくわかっていなかったようです。司会者がよいところをどんどん話してくださいと言っても、なかなか活性化しません。ほとんどのグループが改善点や疑問点を中心に話し合っていました。ネガティブを話していると雰囲気は暗くなります。改善点を話しても自分の授業は改善されません。このような状況はあまり建設的ではないのです。よいところを互いに聞き合うことで、自然に自分もやってみようとする気持ちになっていくものです。他者の授業から学ぶ雰囲気を育てることが大切です。そういう雰囲気をつくるための検討法なのですが、見ただけ、聞いただけでは理解できないことがよくわかりました。授業検討法を伝えることの難しさも改めて感じました。

検討会終了後、この日一緒に授業を参観した若手の先生方とお話をしました。とても素直な先生方ばかりです。私の指摘を皆さん前向きに聞いてくれました。また、質問もいくつかいただきました。

子どもの学力差が大きく、課題や作業をこなすスピード差が大きくて困っている。早くできる子には読書をしてもいいとまで言っているということです。できない子どもに教えてもらうように働きかけることをするように話しましたが、なかなか自分から声をかけられないようです(作業スピードの差をどう埋めるか参照)。日ごろから子ども同士の関係をつくることを心がけるようにお願いしました。また、全員ができるのを無理に待つ必要がないこともお話ししました(時間を与えることの意味参照)。全体で「わかった」から始めずに、「わからない」「困った」から始めて、彼らがわかる、できるようになること目標とする方法もあるのです(「わからないところ」から始める参照)。

子どもたち(特に女子)からの相談が少ないことから、子どもとの関係が上手くいっていないのではないかと悩んでいる方もいました。同じ学年の他の担任と比較していそう感じているようです。担任が学級全員の相談相手になれるわけではありません。昔の担任や他の学級の担任でも相談できる相手がいれば問題ありません。情報交換をしっかりすればいいだけです。ただ、気をつけるべきことがあるとすれば、子どもでも保護者でも相手の言っていることは、たとえネガティブなことでもまず受け止め共感することです(悩み事の相談参照)。質問者はこの点に思い当たることがあったようです。このことを意識してくれれば、子どもたちとの関係もよりよい方向へ変わっていくことと思います。

今年度予定していた4回の授業アドバイスが終わりました。若手を中心に授業がよい方向に変わってきていますが、勝負はまだまだこれからです。今年度どれだけ先生方が意識して授業改善に取り組んでいくかで、来年度のスタートが大きく変わります。このことを教務主任も意識しています。どのように変化していくかとても楽しみです。来年度訪問する機会を持てることを期待しています。
私も4回の訪問でたくさんのことを学べました。ありがとうございました。
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