授業検討で考える(その1)

昨日は愛される学校づくり研究会に参加してきました。今回は夏休み中ということもあり、終日の会です。2月のフォーラムに向けていよいよ本格的に始動しました。

午前中は、フォーラム前半の「校務の情報化」についての打ち合わせでした。昨年好評だったものをバージョンアップしようというものです。グループごとに真剣に内容を検討し、方向性を発表してくれました。どのグループもとても意欲的です。会員の私がどのようなものになるか早く見たいと思うような内容です。期待していただきたいと思います。

午後は、フォーラム後半の「授業検討法」について、本番と同じく3つの模擬授業で授業検討を行いました。
1つ目は、中学校国語の授業を「3シーン授業検討法」を使って検討しました。授業者は私にとって国語の授業の基準となる先生です。20分と短い時間の中でどのような授業を見せてくださるのか楽しみです。
授業は「こそあど言葉」を考えるものでした。「こそあど言葉」の例、「これ、それ、あれ、どれ」など、だれでも答えられそうな問いを導入にもってきます。何人も指名して、その発言をしっかり受容します。うまく答えられなかった子ども役にも、何人か指名したのちまた指名して挽回の機会を与えます。子どもの活躍の機会をつくり、授業の課題に取り組もうという気持ちを高めます。「こそあど言葉」のなぞについて考えるという課題を提示したところで、小(大?)道具を取り出しました。人気アイドルの等身大のパネルです。実際の子どもたちであればテンションが上がるところです。授業者の恋人という設定です。「誰か知っている?」と問いかけたところ、「○○チン」という答が返ってきます。「ニックネームだね」と返し、名前が出たところで、「ピンポン!」と正解であることを宣言して本題に入りました。子どもの発言に対しては、「正解」という言葉を授業者は使いません。常に「なるほど」と受容しています。ここで「ピンポン!」といったのは、この話はこれでおしまいとそのことに関する思考を停止させたのです。こういった小道具を使って子どものテンションを上げることは簡単ですが、ともするとその状態を引きずって本題に子どもが集中しないことがあります。「ピンポン!」の一言で区切りをつけたのは見事でした。

等身大のパネルは単に子どもの興味を引くためだけではありません。「これ」「あれ」「それ」の違いを考えるために意味のある道具でした。パネルのアイドルと肩を組み、「○○チン、これ」と話しかけます。この「これ」はどの場所を指すか子どもに問いかけます。「こ」と書いた紙を黒板上で動かし、このあたりと思うところで挙手させます。子どもたちが参加しやすい方法です。同様に、「あれ」でもおこないます。こうして、「こ」が近く「あ」が遠くを表わすことを確認します。ここからが本題です。「それ」はどこを指すかを問いかけます。ところが子ども役から、後ろの方を指すというちょっとおかしな意見が出てきました。ここで授業者は否定しません。「なるほど」とまずは受容します。「『○○チン、それ』と言ったら」とパネルを後ろ向けて、「ここを見るんだ」と返します。子ども役は、「それ」は距離を考えないという言葉を足します。授業者としては距離で押さえたいのですが、このままだとおかしな方向に話が進みます。そこで、この考えをなるほど思う人を挙手させます。半分ほど手が挙がりました。では、手を挙げなかった人は距離で考えるということです。手を挙げた人はちょっと休んでもらって、手を挙げなかった人だけで「それ」はどこを指すかを同じようにやってみます。「こ」と「あ」の間に落ち着きました。想定外の意見を否定することなく、本来の流れに戻しました。これも、見事な対応です。

教科書を使って、「こ」が「近称」、「あ」が「遠称」そして「そ」が「中称」であることを確認します。教科書を使って、いったん自分たちの考えを納得させておいて、ここから子どもたちを揺さぶります。
恋人の「○○チン」と別れたと言って、パネルを先ほどの「あ」の位置にもっていきます。パネルの肩にハンカチを置いて、ハンカチを取ってもらうときにどういうかを考えます。「○○チン、これ取って」「あれ取って」「それ取って」と言い比べると、この場合は「それ取って」がふさわしいことがわかります。自分だけでなく、相手との距離も関係あることを気づかせようというわけです。この状況は、先ほどの「こ」と「あ」の間が「そ」という考えではうまく説明できません。「あ」の距離でも「そ」を使うのです。ここで「教科書違うじゃん」と揺さぶりました。さきほど、教科書を使って納得させた後ですから、効果は絶大です。子ども役は演ずることを忘れて真剣に考えていることがわかります。
ここで考えを聞いていきます。「そのもの自身を指す」といった言葉が出てきました。これはちょっとずれた意見です。しかし、授業者は否定しません。しっかりと受容した上で、自分が評価せずに子どもにわかったかどうかを問いかけ、子ども役から「まだ、よくわからない」という言葉を引き出します。先ほどの言葉を否定しないことで、「もの」に対して「場所を指す」という考えが出てきました。ずれた答を受容することで、別の考えが引き出せたのです。「場所」という言葉が出てきて、もう一息で結論がでそうというところで時間が来てしまいまた。おそらく、このまま続けていけば、どういう「場所」かを考えることで、「相手」に近いという言葉を引き出せたと思います。
子どもから言葉を引き出し、それをどう活かし、つなげるのかを大切にしていることがよくわかる授業でした。子どもの言葉を活かす授業をしようとすると、子どもの数が重要になることもわかります。今回子ども役の数が少なかったため発言の絶対量が少なく、ねらいにつながる言葉を引き出すのに苦労しました。少人数での授業がよいように言われますが、必ずしも良いことばかりではないということです。

検討会は「心が動いた」場面を参加者に挙手してもらうことで、検討するシーンを選ぶことから始めます。今回は検討時間も20分と短いので2シーンに絞りました。コーディネータは、参加者の意見を拾いながら焦点化し、深めていきます。距離という視点で進めていたのに「それ」は距離とは関係ないという意見が出た場面が話題になりました。すかさず、授業者にその時の心の動きを訊ねます。想定外の意見にどうしようかと頭はフル回転だったことを語ってくれます。ゆっくりと「なるほど」ということで時間を稼ぐ。笑顔をつくっている時は苦しい時。といった言葉を出てきます。こういう言葉を引き出すこともコーディネータの役目です。あっという間に20分は過ぎました。

ここで、フォーラムでの進め方が話題となりました。今回は授業検討法を紹介して、参加者に自校でもやってみようと思っていただくことが目的の一つです。授業検討をやって見せるだけでそのよさが伝わるのか、価値づけの時間が必要なのではないかという意見です。コーディネータはそのよさが伝わることを意識して進めますが、価値づけの時間を特には設けません。授業検討の見せ方を含め、3つの授業検討場面をどう構成するのか、あらためて課題であることがわかりました。次回以降の研究会で検討していくことになりました。

残り2つの授業検討については、明日の日記で。
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