「授業で活かすICTセミナー」で大いに学ぶ(その3)

昨日の日記の続きです。

3つ目の模擬授業はフューチャースクールの指定を受けていた松阪市立三雲中学校の楠本誠先生のiPadを活用した理科の授業でした。野菜は植物のどの部分かという課題の授業でした。
花、茎、葉、根などの名称が空欄になっている植物の模式図を見せて、その名前を指名して言わせます。授業の導入のよくある復習場面です。答えるとすぐに正解が表示されます。テンポよく進んでいきます。こういうスピード感はICTを活用するよさです。しかし、この進め方は全員がほぼ100%の状態であることが前提です。今回は20分という短い時間でまとめようとしたのでこのような進め方になったのだと思いますが、原則一問一答は避けるべきだと思います。最低3人ほど指名して、全員が同じ答であれば「○○でいい?反対の人はいない」と言って答を表示すればいいのです。こうすることで、知識が曖昧な子どももしっかり復習できます。また、次々指名すればテンポは決して悪くなりません。

最初の課題は、トマトは「花」「茎」「葉」「根」のどの部分かです。グループに2台のiPadが用意されています。この2台というのもどのように使い分けるか興味のあるところでした。各グループに枝についたトマトが配られます。ICT機器ばかりに頼らず実物を見せるというのは理科として大事にしたい姿勢です。iPadの1台は先ほどの植物の模式図、もう1台はワークシートが転送されました。ワークシートには理由を書く欄があります。根拠を持って考えることを意識させようとしています。子ども役に与えられたのは、これだけです。インターネットで調べれば答はすぐにわかります。しかし、それでは学習になりません。情報を制限された中、与えられた情報を元に考えさせようというわけです。ここで、気になったのは、子どもたちがどのような結論を出そうが、それが正しいことをどうやって確認するかです。教師が「正解は○○だよ」と言っては話にならないからです。また、ここではトマトは眺めるだけでした。観察して結論を出すのであれば、観察の手段を与えるか方法を考えさせるべきです。具体的には、「このトマトをどうやったら、答が見つかると思う」と投げかけたり、「トマトは切ってもいいよ。ただし食べたらだめだよ」と手段を与えたりするのです。もちろん、トマトの中には種があることは多くの子どもが知っています。しかし、その知識を使うのであれば、実物を与える意味はありません。また、トマトを切ってみることで、子房の断面と同じような構造をしていることに気づけると思います。理科は実験や観察を大切にする教科です。それは、教師に指示されたからおこなうものではありません。問題を解決する手段、仮説を確認する方法として、どのような実験・観察をすればいいのかを考え、その結果から気づきわかったことから、また次の実験・観察を考えるのです。
また、ワークシートがグループに1台のiPadで書かれるというのが気になりました。意見をまとめる時に、どうしてもiPadを持って仕切る子どもが出やすいからです。一人1台の環境でなくても、紙を使えば個人の考えを書くことができます。考えをまとめる時に、その考えに納得できない子どももいると思います。そんな時、自分の考えにこだわることも大切です。手元に自分の考えを書いたものを持っておくことは大切なのです。

発表は、iPadのワークシートを画面転送して進めました。それぞれの理由が話されます。問題はどのようにして、その確認をするかです。授業者は用意しておいた、トマトの花に実がついて大きくなっていく何枚かの写真を見せることで説明しました。ICTが「教師が説得する」ための道具になっています。これは、ある意味後出しじゃんけんです。この情報は教師だけが持っているからです。せめて、子ども役の根拠が正しものかどうかを、この情報を元に子どもたちが確認する場面がほしいところです。茎と花のつなぎ目を拡大することで、トマトのへたの部分が「がく」であることや、子房の部分の変化を拡大してトマトの「実」を食べていることを確認するといったことを子ども主体でおこなってほしいのです。ICTを「子どもが納得する」ための道具にしてほしいと思います。

続いて、タマネギはどの部分かを課題にします。今回も実物を配りますが、切ったりはさせませんでした。子ども役の頼りは模式図だけです。これは教師が子どもをミスディレクションするための方法のように思いました。タマネギには根があります。模式図では根は茎から生えています。数少ない材料から、「茎」と答えることは想像に難くありません。案の定、子ども役は「茎」と答えました。正解は「葉」でした。タマネギを切ってその切り口を見せてその説明をしました。やはりここは、子ども役にタマネギを切らせて、その情報を元に考えさせたいところでした。その上で、根拠となる部分を写真で拡大するなどしたまとめをiPad上でつくらせて、全員で共有したいところです。
ただ、理科で気をつけなければいけないのは安直に写真に頼りすぎないことです。たとえば顕微鏡で観察したものを写真に撮るという活動はまずありえません。人は意識したものしか見ません。観察で気づかなかったものはスケッチに描かれません。だからこそ、自分の手で描くことで、何を気づけたかが明確になるのです。また、植物図鑑では写真よりも手書きの絵を重視します。それは、その植物の各部分の特徴を端的に表すことができるからです。植物には個体差があります。写真ではたまたまその個体の特性が写しだされることもあります。そして、写真はどうしてもピントの合う場所が限られます。小さい植物などは花を接写すれば葉や茎などは、まずぼけてしまいます。記録に写真を使うべきところと手書きであるべきところを意識する必要があります。

この授業のツッコミ役は、この後講演する玉置先生でした。たった一言、「紙でもこの授業はできるのではありませんか?」とこの授業の急所を突きました。授業者は、ワークシートを共有できるよさや保存ができるよさを話しましたが、この授業に限って言えばその必然性はありません。玉置先生はそのことを追及はせずに、グループに1台のiPadを使うよさやフューチャースクールでのICT活用へと話題を移しました。この授業ではうまく現れなかった授業者のよさを引き出そうとする姿勢は見習わなくてはいけません。
話を聞いていて、授業者がICT活用に真剣に取り組み、工夫していることがよく伝わりました。

3つの模擬授業を見せていただき、私の講評の方向性が決まりました。授業者がねらっていることを実現するために、それぞれの授業はどういうことを意識するといいのか、具体的にどこをどのように変えればいいのかを話すことにしました。
玉置先生の講演の間に構想を練ろうと思いましたが、そうはいきません。講演に集中してしまったからです。

この続きは、明日の日記で。
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