先生方の前向きなエネルギーを感じた一日

私立の中学校高等学校で教科主任の先生を中心に情報交換をしてきました。

中学校に関しては、子どもたちに他者とかかわりながら学ぶ力が育ってきているように感じました。体を寄せあって笑顔でかかわり合ったり、授業者の解説中心で受け身の授業でも、友だちが答を板書している隙間の時間に、友だちとかかわろうとしたりする姿を見ることができます。新学習指導要領では、子ども同士のかかわり合いを重視していますので、子どもたちのこの力を活かすことを意識して授業をつくってほしいと思います。
また、若い先生を中心に、嫌われたくないという意識からか、子どもたちに迎合しているように感じられる場面があります。授業でのルールや規律を子どもたちに強く求めることができてないのです。子どもたちが授業者によって態度を変えている要因の一つです。先生が子どもたちに教室のルールを徹底できることが大切です。そのためには、まず先生も子どもどちらもこれは絶対守るべきだと納得できるような共通ルールを設けることから始めます。「友だちの発言は反応しながらしっかり聞く」「わからないことは友だちに聞く」「聞かれないのに教えない」「聞かれたらわかるまで、一緒に考える」といった互いに気持ちよく学び合うための基本をルールとして守らせるように働きかけるとよいでしょう。こういったルールを徹底することが安心安全な教室をつくることになり、子どもたちとの信頼関係をつくることにつながります。

中学校の美術に関して、選択制でないので学習意欲に差があることが課題として指摘されました。授業中にiPadで遊んでしまう子どももいるようです。そのため、高校ではデジタルでの制作を増やしているのを、あえて紙での制作にシフトしているようです。子どもたちが授業中にタブレットで遊んでしまうことは一教科の問題ではありません。ICT機器とのつき合い方も学校での大切な学びです。学校全体で子どもたちと共に考え続けることが大切だと思います。

高等学校では新学習指導要領が始まった1年生に関する話題が中心となりました。
国語では新学習指導要領になって子どもたちの活動が増え、授業を楽しいと感じる子どもたちが増えているようです。その反面、授業での学習が定期試験の点数に結びつかず、従来の評価とのギャップを感じている子どもも多くいるようです。教科で求める力は何かという価値観をどう子どもたちに伝えるかが課題です。
これ以外にも、新学習指導要領に関連した評価、特に評定に関しては多くの先生から意見をお聞きしました。
子どもたちは消費者的に評定をとらえがちです。推薦入試等では、大学から一定の評定が求められます。そのことを意識している子どもたちは、評定の考え方や基準の急激な変更に困惑し、定期試験の点数が評価・評定に直結していないことに納得感がないようです。過渡期ということもあり、評価方法の統一を図っても運用に関してはどうしても教科や教師間での差が出てきていしまいます。ここまで行ってきた評価の状況を教科ごとにまとめる作業が必要でしょう。これを全体で共有し、少しずつ全員が納得できるものに近づけていってほしいと思います。先生同士の意思疎通を図るために、評価・評定を職員室で日常的に話題にする雰囲気が醸成されることを願います。それと同時に、子どもたちと保護者に評価・評定のあり方、その意味を納得してもらえるよう、ていねいに説明し続けることも忘れないでほしいと思います。

新学習指導要領を意識してグループ活動を増やした結果、今まで意識しなかった課題に気づかれている先生も多くいらっしゃいました。グループ活動では「わからないことをわからないと友だちに聞けること」が大切になりますが、なかなか言えない子どもが多く、わかる子ども、できる子ども中心で話し合いが進んでしまうことが多いようです。実際のグループ活動は、子どもたちの個性や学級・学年経営などとも深くかかわりますので、同じように授業を進めてもその様子は学級で大きく異なります。学校・学年全体で共通の土台となるわからないことや間違えることが恥ずかしくないという安心な教室の雰囲気をつくることを意識することが大切です。また、よい雰囲気になったからといって、グループ活動が上手くいくというわけではありません。話し合いの進め方を学ぶことが必要です。話し合うことで考えが深まるような進め方を先生が全体の場でやって見せることで、子どもたちに気づかせる必要があります。いきなり答や意見を聞くのではなく、まず困っていること、わからないことを聞くことから話し合いを始めるようにします。子どもから困っていることが出てくれば、そのことをまず高く評価します。その上で、先生が教えるのではなく、どうやったら解決できるかを子どもたちに問いかけ、プロセスを共有します。こういった経験をさせた上で、グループ活動に取り組ませ、そこであったよいかかわりをほめ、価値付けしていくことを重ねることで、次第にグループ活動が成立していくようになると思います。あせらず、ていねいに子どもたちを育ててほしいと思います。
課題に対する基礎的な知識がないため、グループ活動に参加できない子どもがいることも課題としてあげられました。そういった子どもたちのためにだけ復習をする時間を取れればよいのですが、なかなか難しいのが現実です。授業で必要となる基礎知識を短い動画や簡単な資料の形でまとめて、クラウド上にアップしておいて、いつでも見られるようにしておくのが解決方法の一つです。最初はわからなければこれを見てごらんと授業者が指示をすることから始めればよいと思います。わかる経験を積んでいけば、自分から必要な情報にアクセスしようとする主体性も育っていくと思います。
これらの課題は、先生方が積極的に新学習指導要領に取り組んでいるからこそ気づいたものです。他の先生方と情報交換しながら、一歩一歩前に進んでいただけたらと思います。

情報は新学習指導要領で大きく変わった教科の一つです。特に重要視されるようになったプログラミングについての課題がいろいろ見つかっているようです。
一つはICT環境の構築です。例えばCSS(Webページの文字の色や大きさ、背景、配置といったスタイルを設定する言語)の演習では、作ったCSSファイルをリアルタイムに実行するためには、パソコン教室のPCと個人のiPadでファイルをOneDrive経由で共有するという方法を取らざるを得ないようです。その設定が面倒なことと、時間割の関係でPC教室が使えない時の対応に困っているようです。
また、タイピングの苦手な子どもは、プログラミングの内容を理解する以前に、プログラムの入力だけで力が尽きてしまい、うまく動作しなかった時に修正する気力を失くしてしまうようです。プログラミングの理解のために、まず簡単なプログラムを配布して実行させ、パラメータを変更することで何が起こるかを経験させることから始めるとよいと思います。テンプレートを準備してタイピングの負荷を減らすことも有効です。サンプルプログラムをいくつか要して、コピー&ペーストでプログラミングさせてもよいでしょう。こうすることで少しの負担でプログラミングの面白さに触れやすくなると思います。
担当の先生は、身の回りで目にする実用的なプログラム作成を経験させたいと考えられています。プログラミングの基礎を押さえた後、商品をカメラで写すだけで精算できるレジシステムのようなAIプログラミングに挑戦させることを計画されています。Python であれば、APIがしっかりしていていろいろなAIライブラリを比較的簡単に呼び出すことができますので、高校生でも十分に作成可能だと思います。とはいえ、このレベルのものを作成しようとすれば子どもたちの能力差がかなり影響すると思います。チーム制にして、画面のデザイン面を担当する、動作テストで力を発揮するというように、個々の能力に合わせた作業分担をするとよいと思います。こうすることによって実際のアプリケーション作成の現場のチームのありようの理解にもつながります。
将来的には子どもたちの作品をクラウド上に保存しておいて、ライブラリとして後輩たちが使えるようにできると素敵だと思います。

この日お聞きした先生方の課題の多くが新学習指導要領に関するものでした。これは、新学習指導要領に積極的に対応しようとしているからこそのことです。先生方の前向きなエネルギーをたくさん感じることができた一日でした。
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