中堅・ベテランが動き出す(長文)

年明けに、私立の中学校高等学校で、研究授業を控えた先生方と懇談しました。今回は中堅・ベテラン中心です。

生物の担当の先生は、大学と連携したプロジェクト型の授業に挑戦されていました。校内でテントウムシの種類と数を調査し、他の機関の調査データと合わせて生物の多様性について考えるというものです。実際に調査した結果を比較すると同じ市内の他の場所と比べてテントウムシの種類が少ないことがわかります。先生の結論としては、学内に多様なテントウムシがいないのではなく、子どもたちがテントウムシを見つけることができていないため、種類が少なかったということです。このことに子どもたちに気づかせることが今回の授業のねらいです。
プロジェクトを主催する大学の先生に全体の報告を聞いたあと、学内のテントウムシの種類が少ないことについて考えさせる予定ですが、自分の考えを持って当日の授業に臨んでもらうために、事前にオンラインでアンケートをとることにします。こちらであまり誘導せずに授業者が求めるような答に気づかせるには、問いかけや活動の工夫が必要になります。結論よりも、結論に至る過程を子どもたちと共有して明確にしていくことが重要です。「何を知りたい?」「どんな情報が欲しい?」といった問いかけをもとに、推論の過程を全体で共有できるとよいと思います。
学級によって学習に向かうメンタリティが違うことについて相談を受けました。「努力すれば何とかなる」と思う子が多い学級と、「先が見えなくて不安」という子どもが多い学級があるようです。多くの場合、先が見えないことが不安につながっています。進学のことが不安なのであれば、学級で分担して大学を調べ、「どんな人に向いている、勧める?」という視点でまとめて共有するとよいでしょう。偏差値による大学のランキングをもとに進学や進路を考えるのではなく、自分が何をやりたいか、自分の性格にあうかといった視点で考えさせるのです。その上で、そこに向かって何をすればよいのかをできるだけ具体的に計画させます。単に勉強する、偏差値をいくつあげるというようなものではなく、何をどうする、毎日をどう過ごすといった細かいレベルに落としていくのです。このようなことをお話させていただきました。

中堅の理科の先生からは、子どもたちに考えさせる時間がなかなか持てないことについて相談を受けました。実験などでは説明や準備に時間がかかり、考察などの考える時間が取れないようです。ICTを上手く使うことで時間が短縮できるのではないかと提案しました。予備実験をする時に同時にその様子を撮影し、実験のポイントや方法がわかるような動画を作成してクラウド上にアップしておくのです。事前に見ておくように指示し、授業では説明をできるだけ省略します。見ていない子どもは困りますが、その場で見ることもできますし、グループの友だちに教わることもできるので、大きな混乱はないでしょう。そういう経験をすれば、次回からはちゃんと見るようになると思います。また、実験の動画を途中で止めて、結果を予想させるという展開も考えられます。こうすることで無駄な時間を減らして考えるための時間を確保することができます。
この他にも、子どもたちから疑問を引き出すためにどうするかにも悩まれていました。先生から指示された通りに実験をして、予定調和の結果を共有しても疑問を持ってはくれません。例えば電球を使う実験であれば、抵抗の異なる電球を混ぜて実験結果が異なるようにして、「おかしい!」「失敗?」「どういうこと?」と子どもたちが疑問を持つような仕掛けをするとよいでしょう。
子どもたちは、活動中にいろいろと言葉を発してくれるのですが、指名するとなかなかうまく話せないということも話題になりました。「○○さんが何を考えたかわかる?」と近くにいる子どもやグループの仲間につなげるとよいでしょう。

一つの学年を複数の先生で担当している理科の先生からは、自分が主となって考えたカリキュラムの意図が他の先生に上手く伝わらないことを悩んでおられました。こうしてくださいと活動内容を細かく指示して伝えれば形をなぞることはできますが、ねらいが伝わっていないと子どもたちの反応にうまく対応できず、本来のねらいが達成できなくて困っているのです。
まずは、単元や内容を地学分野、観察といった大きな塊でとらえ、そこで理科として目指すもの、子どもたちつけたい力は何かを共有することに時間をかける必要があると思います。それらを達成するためのステップを意識して、活動の内容をより具体的にしていきます。目先の授業をどうするかではなく、子どもたちを育てていく大きな流れをしっかりと共有し、その上で細かいところは、それぞれの先生に任せるようにするとよいと思います。
また、小テストの位置づけをどうするかでも悩んでおられました。知識を個別に教えることから、課題解決を通じて知識を獲得していく形に授業を変えていこうとしています。そうなると今までの小テストでの知識の確認は、意味がなくなるのではないかということです。小テストを、課題解決の過程で身につけてほしい知識が実際に身についているのかを知るためのものという位置づけとすればよいと思います。形成的評価を意識し、達成度が低ければ、次の課題解決の活動は知識を獲得する要素を増すといった判断材料にするのです。
どの悩みも、より高いレベルの学びを目指しているからこそだと思いました。

美術の先生は、フィギアをつくる授業に挑戦されるそうです。子どもたちに少しでも楽しく授業に参加してほしいと考えられている方です。一連の活動について、できるだけ子ども同士で小刻みに評価しあう場面をつくることをお願いしました。個を大切にして、互いにポジティブに評価しあうことが、作品づくりに向かうエネルギーを高めてくれると思います。

中堅の数学の先生は、問題演習をタブレット上で行うことにより、子どもたちの考えやつまずきがリアルタイムで見られるので、それを板書や解説に活かしているとのことでした。子どもが問題に取り組んでいる様子をリアルタイムに見ることができるのは、ICTのよさです。今までの授業を一歩進化させています。次は、教師がコントロールする授業から、子ども同士で考えや疑問を共有するようなものに、もう一歩進めることができるとよいと思います。
答を発表させるのではなく解く過程を大切にするようアドバイスをされるが、簡単な計算問題などはどうすればよいのかと質問されました。簡単なものであれば、計算の過程や解説をするのではなく、子ども同士で答を確認させるか、解答を用意しておいて答え合わせをさせればよいと思います。間違えたら、自分でやり直させればよいのです。それでもわからなければ友だち聞くようにすれば、教師が説明しなくても修正することができると思います。自分で間違いを直せるようにすることを意識してほしいと思います。

別の数学の先生からは、文系の数学について相談されました。微積分の授業は、文系では学習範囲が狭いので、公式を使った簡単な計算をして終わりになってしまうので、なかなかその意味や面白さんを伝えることができないというのです。今回の授業は積分の導入の場面でしたが、その前の単元の微分では時間と速さの関係を導入に使ったそうです。ならば、それを活かして、時間、速さ、進んだ距離の関係のグラフを通じて、微分と積分の関係に気づけるような展開を考えてはどうかとお話ししました。どのような導入になるのか楽しみです。

英語のベテランからは、来年度から実施される高校の新課程について相談を受けました。新課程で求められるスキルを授業に組み込んでいくと、従来からの内容を学習する時間が無くなってしまうというのです。
子どもたちのトータルの学習時間をどう増やすかが解決策のように思います。学校だけでなく、家庭でも学習するのは当たり前のはずですが、いつの間にか、学校外ではせいぜい塾での受け身の学習だけで、自ら考え工夫して主体的に学習する姿は見られなくなってしまいました。最初は宿題でもよいので、ほんの少しでも家庭学習を習慣にすることが必要だと思います。教書を音読してタブレットで録音して提出する。タブレットを使って聞き取りの練習を行うといったそれほど時間のかからないものから始めればよいと思います。ポイントは、読むのであれば、手本を聞きながら練習させる、聞き取りであれば、スピードを変えたりしながら繰り返して聞き取る、それでも聞き取れないところがあれば、どこが聞き取れないかを明確にするといった、学び方が身につくようなものにすることです。タブレットを使うことで今までできなかった学び方ができるようになります。学び方が身についてくれば、家庭でも学習するようになっていくはずです。英語だけでなく、各教科でこうした家庭での学び方を意識した課題に取り組ませることで、学習習慣はついていくと思います。

この日は社会科の先生のいろいろな実践について話を聞く機会が多くありました。
中堅の先生からは世界史の授業についての相談を受けました。
子どもたちがタブレットを答探しに使って、なかなか考えようとしないことに悩んでおられました。事実(史実)を出発点にして考え、見方によっていろいろな答が出るような課題を設定することが必要だと思います。
歴史を学習することが今の社会について考えることにつながってほしいとも考えられています。このことは歴史を学ぶ上で大切な視点です。中世の商業の発展が絶対王政への移行を促したことを現在の経済と政治の関係に置き換えて考えたり、ペストの流行のビフォア・アフターから新型コロナウィルスの流行が今後もたらすことは何かを考えたりといった授業も考えられます。歴史から学ぶとはどういうことかを子どもたちが実感できるような授業を目指してほしいと思います。

別の社会科の先生からは、高校での実験的な授業についていろいろとお話をうかがいました。
基礎力をつけるために、あらかじめ準備しておいた解説動画を見ながら、課題のワークシートに取り組むといった個人活動を取り入れています。単に資料を読むのではなく、資料を活用するスキルをつけることも意識されています。基礎データをもとに新たな指標をつくるといった活動などを取り入れてみると面白そうです。例えば幸せ度を測る指標を所得や物価、労働時間、余暇といったデータをもとに自分たちでつくって、色々な国と比較して見るといったものです。
個の活動を集団の活動へと広げていくことも考えています。例えばシンクタンクのような取り組みです。中・韓・日の将来の関係を予測し、日本のとるべき戦略を考えるといったものです。
現代史では、イスラエルの建国から中東戦争、現在のパレスチナ問題までを、米・露・アラブといった国も含めて、それぞれの視点で年表をつくり、それをもとに中東問題の構造化を図ることをさせようとしています。冷戦の年表をもとに構造化した経験を活かすことで自分たちについたスキル実感させたいという思いもあります。
東欧の紛争を要因ごとに整理し地図上で色分けすることで、多極化を実感させることにも取り組んでみようとされています。
子どもたちは社会科が知識を覚える教科でないことを実感していることでしょう。

新型コロナウィルス対策の関連で、グループでの活動がしづらくなったため個別にまとめる活動が増えているという報告が他の社会科の先生からありました。
その結果、まとめる力がつくと同時に、友だちの評価や質問を通じて修正することで、結果ではなく、結果に至る過程を意識するようになってきたそうです。
その一方、グループでの活動に挑戦しても、なかなか話し合えない学級があって、どうしようかと悩んでいるようです。新型コロナウィルスが子ども同士の関係づくりに影を落としているように思います。発表の場面で、答ではなく、グループ活動の過程を聞いたり、発表に対しての意見を他の子どもにつなぐなどしたりして、教師がかかわり方を具体的に示すことも必要だと思います。焦らず、色々な場面でかかわり方を教えていくことを意識してほしいと思います。

今の社会と歴史を結びつけるために、毎日のニュースに関して過去の歴史とどのようなかかわりがあるのかを発表させている先生もいらっしゃいます。現代の視点から史実や知識の整理、再構成することが意識されています。今後、歴史が現在にどのように影響しているという視点もつけくわえていきたいとのことでした。

これまで知識主体の授業をしているように見えていた先生からは、その底にある思いを聞くことができました。「歴史から今の社会を考えることにつなげたいが、その前に最低限の知識がないと考えられない。知識を与えるだけで時間が足りなくなってしまう」ということでした。
基礎的な知識を一方的に教えるのではなく、作業を通じて身に付けさせるという方法もあります。例えば、あらかじめ用意した用語や史実などを白紙の年表に埋め、それをもとに歴史の流れを説明することで知識の整理をするといったものです。グループ内で分担して作業をし、互いに解説をすることで時間を短縮することもできるでしょう。
また、子どもたちに疑問を持たせたいとも思っていらっしゃいました。「戦国時代は人口が増えている。戦争は人が死ぬはずなのにどういうことか?」といったことを考えさせ、戦争は文明が進化する要因にもなるといった多面的な見方を持たせたいというのです。こういう発想はとても大切だと思います。私からは、教師が「戦国時代に人口は増えているのはなぜか?」と問いかけるのではなく、子ども自身が疑問を持つような授業展開を工夫してほしいと伝えました。例えば、年代が入っていない日本の人口の変化のグラフを見せて、どこが戦国時代かを予想させるといったものです。戦さで人が死ぬので人口が減っているところだと思った子どもは、戦国時代に人口が増えていることを知って嫌でも疑問を持つと思います。この人口のグラフ一つとっても、いろいろな疑問を生みだしてくれると思います。例えば、日本の人口はある時期から増加が止まります。徳川吉宗の時代です。この事実に気づくだけでも、なぜ名君と言われた吉宗の時代なのか、人口が増えるか増えないかは何が原因となるのかといった疑問が生まれてくるはずです。子どもが疑問を持つきっかけをどうつくるかがポイントだと思います。
この先生の思いがどのような形で授業に反映されていくか、今後が楽しみです。

国語の先生からは、子どもたちに問題をつくらせ互いに解き合う授業について相談を受けました。
子どもたちは作問に関しては熱心なのですが、できあがった問題が多すぎて問題を解くエネルギーが上がらないようです。そこで、○○アウォードといった、部門別の賞をつくってみんなで投票して決めるといった取り組みを提案しました。家からでもタブレットで投票できるようにすれば、その気があれば問題数が多くても取り組むことができます。事前にどんな部門をつくるか、よい問題は何かを考えさせ、投票の視点や理由も発表させると多様な考えを引き出すことができると思います。
文学作品と違って、評論は問題がつくりにくいことにも悩まれていました。子どもたちはどのような問題をつくればよいか、見通しを持てないようです。私からは、問題の形式を指定することを提案しました。例えば、こちらで用意した問いに対して、選択肢の文章を考えさせる。自分で文章の内容をまとめて、それをもとに穴埋めの形の問題をつくるといったものです。文章全体から問題をつくろうとする大変なので、段落ごとに問題をつくってもよいでしょう。各段落の内容が整理されていくので、最後に全体を通した問題をつくりやすくなると思います。
古典はこういった作問の授業はやりにくいので、作品の内容を絵に描かせたりしているようです。そうであれば、絵を構成するものは何を根拠にして描いたのか、その要素と本文の記述の関連を示すようにするとよいと思います。本文に線を引き、それを絵のこの要素で表現したと結びつけるのです。最初の内は、直接記述されていることしか絵にできないかもしれませんが、その内、本文の内容から推論して描くことができるようになると思います。読みを深めることにつながっていくと思います。
また、ICTが授業で上手く使えていなことにも悩まれていました。無理やり使おうとする必要はないと思います。まずは、子どもたちが考えたり、問題解決したりする時に使えるような材料や資料をクラウド上に用意しておくことから始めればよいと思います。古典では助動詞の識別方法のカードや当時の生活に関する資料、現代文であれば用語や言葉の解説といったものを用意して、必要に応じて自分の意志で見られるようにするのです。
いろいろなことに挑戦しているからこその悩みでした。

来年度から始まる高校の新しいコースの特色入試をどのようにしたらよいかのヒントを求められました。時間は1時間程度で、グループで課題を解決することを通じて適性を見ようというのですが、その具体的なものを描けないということでした。
子どもたちの課題解決に向かう姿を見ることをねらいとするのであれば、目的を明確にした活動にするとよいと思いました。
例として私があげたのが、「自分たちと同じ年代の日本に来た留学生を感動させるようなパフォーマンスをしてください」という課題です。映像を見せてもよいし、何かをやって見せてもいでしょう。使用可能なもののリスト与え、それらは自由に使ってよいという条件です。「感動させる」というゴールから、それぞれの価値観が問われますが、共同作業なので価値観のすり合わせも必要になります。限られた時間でパフォーマンスに至るためにはそれぞれが自分の役割を果たすことが必要です。最終的にどのようなものになるにしても、ゴールに向かう姿で、受験者のいろいろな特性を見ることができると思います。参考になれば幸いです。

中堅・ベテランの先生が変化しようと動き出しているのを感じます。ベースとなる経験があるので、挑戦し始めれば早いサイクルで進化していくと思います。このエネルギーが個ではなく、教科や学年、学校全体の物としてベクトルが揃って行くことを期待します。この学校が大きく進化するかどうかの分岐点にさしかかっているように感じました。
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