答を引き出そうとするのではなく、考えをどう深めるかを意識する

前回の日記の続きです。

もう一つの模擬授業は、5年生の「大造じいさんとガン」の大造じいさんの気持ちの変化を読み取る場面です。
色を表わす言葉に注意をして、情景描写の文を抜き出させます。授業者はとてもよい表情で、子ども役の答を復唱しながら「いい表現だよね」と体全体を使って受容します。安心して発表できる雰囲気です。子ども役の答に対して、あらかじめ用意したその文の短冊を黒板に貼ります。時間の短縮になるのですが、どうしても答探しになってしまいます。また、授業者が「あと1個あるよ」と子どもたちに問い返す場面がありましたが、これも答探しにつながります。この後続いて「他に見つけたという人いない?」と問いかけますが、あと1個と言われて答が出た後で手を挙げる子どもはなかなかいないものです。ここでは子ども役が手を挙げてくれました。「自分は他にも見つけたけれど、隣の人と話したら違っていたことと、色が入っているといいよと先生が言っていたけど入っていなかったので違うと思った」という発言です。こういった発言を子どもがするかどうかは別にして、「色が入っていないから」という理由が気になります。授業者のヒントで正誤を判断しているのです。ここで色にこだわるのは、筆者が色にこだわった表現をしているからですが、授業者からヒントとして出すのは疑問です。「情景描写を抜き出したら、色が入っているので、筆者が色を使った表現を意識している」「この文章の特徴として色がよく出てくるので、色を使った表現を抜き出してみると情景描写になっている」といったアプローチの中で色をクローズアップすべきだと思います。
上手に子どもたちとやりとりしているのですが、授業者の求める答を子どもから引き出そうとしています。子どもが文章を読みながら、作者の表現技法やそこに込めたものを見つけていく、見つけるための視点を身に付けるといったことを意識できるとよいと思います。

先ほどの情景描写の部分以外の本文を抜き出した文のカードを提示します。それぞれ、「使って」⇒「食べて」、「ハヤブサだ」⇒「スズメだ」というように、一部分を間違えてあります。この間違い探しをするのが次の活動です。どの部分をどう直せばよいのかを考えるのですが、クイズに近いものです。子どもたちの興味を引くことはできますが、本文の内容を知っていればわかるものがほとんどで、根拠を持って論理的に考えるようなものではありません。「にらみつけました」⇒「見つめました」といった、表現の違いにこだわって説明しやすいものもありますが、間違い探しをするよりはストレートに2つの表現を比較すればよいようにも思います。この間違い探しは本文の内容確認で、情景描写の表現の理解にどうつながるのかよくわかりませんでした。

本文のカードの間に、先ほどの4つの情景描写の文を正しくはさむのが次の課題です。面白いものなのですが、子どもたちは本文を既に読んで知っています。論理的に考えると言ってもその必要性がないため、ちょっと無理があります。こういった課題は、見たことのない文章でやると効果的だと思います。結局、根拠を聞くことはなく進んで行きました。そうであれば、時間をかけてやる意味はあまりないように思います。また、表現にこだわるのであれば、どこにはさむのが正解と考えるよりは、いろいろな場所にはさんでみてどう違ってくるのか考えた方が面白いのではないでしょうか。

続いて、この情景描写が何を表わしているのかを考えます。「何を表わしているのか?」というのは、情景描写だけにその情景を答えたくなります。情景描写が登場人物の気持ちを表しているということにはすぐに結びつきません。そこで授業者は「おじいさんの気持ちなのか?それとも、何かの様子なのか?」と言葉を足します。子どもが表現から見つけていくというよりは、授業者の誘導する問いに答えているだけになってしまいます。もしそうなら、ストレートに、「情景描写は、単に何かの様子を表わすだけでなく登場人物の気持ちも表現している」と教えた方が考えやすいと思います。読み取り方を教えるのです。もし、子ども自身に気づかせたいのであれば、さきほどこだわった色を使って考えても面白いかもしれません。表現に使われている色を変えてみるとどのような違いがあるかを考えるのです。そして、なぜ作者がその色を選んだのかを考えることで、何を表現したかったのかに気づかせます。情景描写が登場人物の気持ちを表現していることを子どもたちの言葉から整理して、読み方の視点としてまとめるのです。

情景描写から大造じいさんの気持ちの変化を心情曲線で表わしました。最後に「はじめ残雪のことを……と思っていた大造じいさんが……によって、……になる話」という形で大造じいさんの気持ちの変化をペアで一文に表わし、発表して終わりました。

授業者は、子ども役の言葉をよく受容し、できるだけ発言を引き出そうとしていました。とてもよい姿勢ですが、どうしても自分の求める答を引き出そうとしているように見えました。答を出しやすくなるようなヒントや誘導の言葉が目につきます。そうではなく、子どもの言葉をつないで考えを深めていくことが大切です。答探しではなく、子ども自身の考えがでやすい発問や問い返しを工夫することが必要です。授業者は安心して話せる柔らかい素敵な雰囲気を持った方です。力のある方なので、子どもからずれた答が出てもいい、いやそういう答の方が面白いと視点を変えて組み立てれば、子どもの言葉を活かして考えを深めるような授業になると思います。

検討会では、子ども役の先生方が、子どもの視点から授業者のよいところをたくさん見つけてくれました。また、子ども役になることで、子どもたちの気持ちにも気づけたようです。先生方にとって、とても学びの多い研修であったように思いました。この市では、こういった研修の機会が近年増えています。研修を通じて学び合うことのおもしろさを感じることで、学校全体の授業改善が進んでいくと思います。
皆さんも気づかれていましたが、私からも子どもを受容する姿勢の大切さを少し話させていただきました。とても、充実した研修だったと思います。
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