見方・考え方の大切さを感じた模擬授業(長文)

市の教員研修の1講座を担当しました。今年度の初任者は全員参加となっているものですが、その他にも若手の教員がたくさん参加してくれました。昨年と同じく初任者に模擬授業を行ってもらい、私が解説と講演をするというものです。今年度のテーマは「全員参加を目指す授業」でした。

模擬授業は5年生の三角形の面積の求め方の学習でした。
前時に学習したことになっている、直角三角形の面積の求め方を確認します。挙手した子どもの答を全体に確認しますが、「いいです」という反応を求めて進んでいます。たとえ同じでもよいので、何人も指名して子どもに出力させ、しっかりと確認したいところです。直角三角形の面積をどうやって求めたかを問いかける場面で、子ども役の手がなかなか挙がりませんでした。挙手した1名を指名して、すぐに授業者が解説を始めます。この日の授業の足場となる場面なので、全員にしっかりと思い出させたいところです。時間の都合もありますが、授業者の説明ではなく、子どもが図を使って説明する、隣同士で確認するといった活動を入れたいところでした。

子ども役が反応した時に、「ありがとう」の言葉がすぐに出ます。これに限らず、挙手した時など、子どもがよい行動した時にほめることができます。子どもをほめたり受容したりする姿勢ができていることはとてもよいと思います。ただ、そういった言葉をかけられるのは、どうしても積極的に参加する子ども、反応する子どもに限られてしまいます。手の挙がらない子どもたちをうまく参加させていくことが必要です。友だちの発言に対して、「なるほどと思った?」「納得した?」といった問いかけをし、挙手した子どもを指名するという方法もあります。なかなか反応しなければ、挙手に頼らず意図的に指名して、「どう思った?」といったことを聞くといった方法もあります。ここで大切なのは、子どもが反応したり、指名に対して発言してくれたりすれば、そのことを必ず評価することです。参加をうながし、参加することで認められるという経験を積ませることで、積極性を引き出すのです。

直角三角形の面積の求め方を確認しながら、「長方形の面積の半分だから?」といったことを子ども役に言わせようとします。ここで挙手に頼るのですが、復習ですのでどんどん指名すればいいのです。答えられなかったら、「後でまた聞くよ」と次の子どもをすぐに指名するのです。半ば強制的ですが、全員参加を求めることが大切です。答えられなかった子どもは、最後にもう一度指名して正解を言わせて終われば、ネガティブにはならないはずです。
ところどころで子どもたちに問いかけるのですが、基本的には授業者がずっと説明しています。一つひとつのステップを子どもたちの発言で進めるとよかったと思います。

授業者は一般の形の三角形を提示します。この三角形の面積を求めることが問題だと説明した後、「直角三角形の面積は、長方形の半分で求められたり、切って貼ると長方形になったりして求められたけれど、この三角形は求められそうか?」と子どもたち問いかけます。授業者は途中で確認せずに一気に話すので、前回の考え方のポイントが何かよくわかりません。丁寧に確認することが必要です。また、既存の知識に帰着させるという、算数の見方・考え方を意識しておくことも大切です。直角三角形の面積であれば、正方形、長方形の面積は求められることから、何とかして正方形や長方形をつくることができないかと考えるということです。

授業者は「どうやってやろうか?」と子ども役に問いかけ、まわりと相談させます。子ども役はしっかりと相談してくれましたが、全体で問いかけると挙手は1名です。授業者はすぐに指名します。ここは、どこで困っているか、どんなことを話したかを聞くことが大切です。わかっている子を指名すると、そのものずばりを答えられてしまうことがあります。そうなるとそこで子どもたちの思考は止まってしまうからです。
指名した子ども役は「分ける」と言ってくれました。授業者の意図を理解してくれています。実際の子どもではそうはいかないかもしれません。授業者は「ああ、分ける。分ける方法、いいね」と受け止め、他の方法を聞きます。なかなかよい受け方なのですが、何がよいのかはよくわかりません。「○○さんの言ったことどういうことかわかる?」と他につないでもよかったでしょう。
他の子ども役の「切って回す」という発言を「切って」「回す」と区切って復唱します。これもなかなかよい対応ですが、やはり発言者と授業者だけで完結してしまいます。子どもの考えをつなぎながら全体で共有させたいところでした。

授業者はこの問題の解き方の見通しを持たせようとしていますが、既存の知識を活かすという見方・考え方を意識していませんでした。「○○の時にやったね」と子どもから出た考えを過去に使った問題と結びつけるとよかったと思います。
やり方は一つかと子どもたちに問いかけます。「何個かありそうと思う人?」と挙手を求めるとほぼ全員の手が挙がります。子ども側からすると、何個あるという答を求めているようにも見えます。ここは、「どの考えならうまくいきそうかな?」と問いかけ、「いろいろなやり方を試してみるといいね?」というように、いろいろな考えに挑戦する姿勢を求めてもよかったかもしれません。

授業者は、その日の課題を子どもたちから出させるようにしているそうです。そこで、子ども役に「今日の課題は何?」と問いかけます。子ども役のつぶやきを拾って「いろんな方法で三角形の面積をみつけよう」を引き出します。ここで、すぐに授業者はあらかじめ用意した課題を書いた紙を黒板に貼り、全員に読ませます。子どもから出させると言っても、これでは授業者の用意した課題があるということですから、子どもの自身の課題とは言えません。子どもは一問一答で授業者の考える課題の答探しをしているだけになります。
子ども自身に課題を考えさせるのであれば、他の子どもにもこれでいいか答えさせ、子どもの言葉をそのまま板書して課題とするべきでしょう。

三角形の図がかかれた3枚のワークシートを配り、どうやったら三角形の面積を求められるか自分の考えを図に書き込むように指示します。「自分の考え」という言葉はあまり明確でないものです。子どもが育っていれば何を書けばよいのかわかりますが、「面積を求めて、どうやって求めたかの説明を書く」といった具体的な指示の方がわかりやすいと思います。
「自分で切ったり回したりしてかまいません」と授業者は口頭で説明します。切ったり回したりを頭の中でできるのはかなり高度です。それならば、ワークシートの他に三角形を用意して、ハサミで切るといったこともさせるとよいと思います。
子ども役が話した見通しはしゃべるだけで黒板には残っていません。手が止まってしまった子どもが手掛かりとするものがありません。課題の紙を貼ること以上に見通しや手掛かりを残すことが大切です。

授業者はすぐに机間指導をしますが、どうしても下を向いて歩いてしまいます。まず、手が動こいていない子ども、鉛筆を持てていない子どもがどのくらいいるかを把握することが大切です。鉛筆を持てていない子どもが多いようであれば、何をしていいのか指示が明確でなかった可能性があります。手が動かないということは、見通しが持てていないということです。手が動いていないこと自体は決して悪いことではありません。考えている時も手が動かないからです。ただ、事前に見通しを持たせたはずであれば、それがきちんと理解されていなかったということです。
子ども役の手はよく動いています。であれば、子ども役の考えを知るために机間指導をしてもよいのですが、手が止まった子ども役がいないか、全体の様子を見ながら回る必要があります。
途中で、立ち止まって子ども役に何か説明しています。個別に声をかけるのは悪いことではありませんが、まわりと相談するという選択肢も持ってほしいと思います。

続いて机ごと(2人ないし3人)に考えを聞き合います。授業者は机間指導しながら、何人かのワークシートに番号をつけています。そのグループはこの後全体で発表をすることになります。あらかじめ決めておくとそのグループは準備ができますが、他のグループは意欲が落ちてしまう可能性があります。時間の関係で全員発表させられない時は、同じ考えのグループがいるかどうかを確認しながら、言葉を足させるといった形で発表をつないでいくといいでしょう。

授業者は司会者と発表者の役を決めて話し合うように指示をします。数人のグループではそのような役割は必要ありません。自然に聞き合えるような関係を意識することで、個人追究の場でも気軽に聞くことができるようになっていきます。

あらかじめ発表を指示されたグループは、発表の準備が話し合いの目標になりますが、そうでないグループの目標ははっきりしません。発表にしても、どんな発表を目指すのかはっきりしません。グループ活動は一人ひとりが活動できる機会が増えるので、それなりに活発な動きがみられるものですが、ただ活動するだけになる危険性もあります。昨今言われている「深い学びの実現」にどのようにつながるかが問われます。「互いに聞き合って、自分と違うやり方で納得できるものがあれば、自分のワークシートに書き足して、できるだけたくさんのやり方を見つけて説明できるようなる」といった目標が必要でしょう。

授業者はここでも机間指導を行いますが、全体を見て参加できていない子どもがいないかに注意を払う必要があります。子どもたちの中に入ると全体が見えなくなることを意識してほしいと思います。

あらかじめワークシートに振られた番号順にその内容を発表しますが、ここには授業者の意図が表れます。しかし、それは授業者の都合です。子どもによっては他の方法を発表したいと思うかもしれません。子どもなりに考えを評価することも大切です。教師の意図が強く出すぎないようにすることも意識してほしいと思います。

よくあることですが、発表の時に授業者は発表者の方ばかりを向いています。発表をしっかりと見守ることも大切ですが、それを聞いている子どもたちの様子を見ることも同様に大切です。「だれが、しっかりと反応できているか」「どこを子どもたちが理解できていないか」といったことを見ておかないと、次の展開が見えてこないからです。

最初のグループは「直角三角形があるかどうか探すと……」と説明を始めます。ここでは、「直角三角形を探す」がキーワードです。しかし、授業者はそのまま説明が終わると、同じように考えた人とたずね、ほぼ全員が手を挙げたのを確認して自分で説明を始めます。ここで切ったら正方形と長方形になったと説明しますが、これは結果の説明です。なぜここで切るのかという発表者の発言を捨ててしまいました。子どもに発表させていますが、その結果だけを利用して自分のしたい説明をしているのです。こういったことが続くと子どもたちは「結局。最後は先生が説明するからいいや」と、発表したり、友だちの発表を聞いたりする意欲を失くしてしまいます。子どもの考えを全体で共有することが大切です。
ここは、「直角三角形を探すと言ってくれたけれど、それってどういうこと?」と問いかけることが大切です。「直角三角形の面積なら求めることができる」といった既存の知識を利用しようとしていることを価値付けしなければいけません。
説明の途中で、4×4の式が何を表わしているか問いかけます。数人が手を挙げると、すぐに指名します。「四角形」と答えますが、授業者はすぐに「この正方形の面積」と「正方形」と言い換え、「面積」という言葉を足して説明します。「四角形」では、何を求めているかわかりませんし、面積は求められません。「四角形の何?」「四角形なら面積はわかるの?」と返すことが必要です。物わかりのよい先生になってはいけないのです。
次は残りの長方形の面積の部分です。4×2の式に対して、指名した子どもは「長方形」と答えます、今度は「長方形の?」と聞き返し、「面積」という言葉を引き出しました。ここでは切り返すことはできましたが、きちんと意識してできているのではなくたまたまのようです。
この問題で大切なのは、基礎の知識や考え方を使って三角形の面積の求め方を考えることです。計算の部分は復習です。なのに、その部分ばかりが繰り返されます。答の式に意識が行っているのです。そうではなく、見方・考え方を大切にしてほしいと思います。
ほぼ全員がこの考え方でできていたのに、子ども役の発表の何倍もの時間を使って授業者が説明を繰り返しました。ポイント押さえて時間を使う必要があります。

次のグループは、「前回学習したことをもとに……」と三角形を半分に切りました。これも、すばらしい言葉です。子どもからいつもこういう言葉が出るかどうかはわかりませんが、出てくれば価値付けすることが大切です。子ども役の先生方からこの言葉が出たということは、既存の知識を使うという考え方を意識しているということです。これはとてもよいことです。
このやり方もほぼすべてのグループで出てきたようです。
授業者はこのやり方は、前のやり方と「似ている」「同じ」と説明します。そうではありません。前のグループは前回学習したことの結果を使おうとしています。このグループは半分に切るという考え方を使っています。アプローチが違うのです。授業者は結果しか見ていません。数学的な見方・考え方を意識できていないのが残念です。結局授業者は答の出し方の説明に終始します。また、先ほどのやり方は、2つの直角三角形になっているので、底辺を分割した長さがわからないと計算ができませんが、一般的にはその長さはわかりません。それに対して、この三角形を囲む大きな長方形をつくってその半分の面積になるという考え方は、底辺と高さだけから求められます。大きな違いがあります。このことをどう子どもに気づかせるかが大切です。
授業者は説明の中で三角形の面積が、「高さ」が半分の長方形の面積なると説明します。無意識で使っていますが、子どもたちは長方形では「縦」と「横」という言葉で考えています。「高さ」で何となくわかるからいいように思うのですが、ここで一般用語の「高さ」を使うと算数の用語の三角形の「高さ」と混乱していきます。一般用語の「高さ」と混乱して、三角形の「高さ」を見つけられない子どもがよくいます。こういったちょっとした言葉も意識して使うことが必要です。

3つ目のグループは、三角形の頂点から直線を引いて2つに分けると説明を始めます。どのような直線かははっきりしていません。子どもたちの意識から消えやすいので、ここですぐに「どんな直線?」と確認したほうがよいと思います。説明を一つ一つ確認しながら、もう一度説明させることができるのなら、その時に指摘するという方法もありますが、結局授業者はこのことを指摘せずに終わってしまいました。
このグループは、2つの直角三角形に分けて、それぞれが正方形、長方形の半分の面積なので、元の三角形の面積は正方形と長方形を合わせた長方形の面積の半分になるという説明です。このやり方が出てきたグループは少ないようです。
このやり方は最初のグループと同じ説明の図になっています。ここを比較しながら考えると面白いのですが、授業者はこのやり方でもできますねと、似ていることは指摘するのですが、どちらも半分になるからと簡単に説明を終わり、計算式の説明に移りました。この考え方をした子どもたちはほとんどいなかったのですから、こここそ、きちんと子どもたちと考えを共有しながら説明をしたいところでした。

最後に3つの求め方で共通点がないかを問いかけます。これも何を答えていいのかわかりにくい質問です。子ども役からも反応が出ません。ここで授業者はまわりと相談をさせました。これはよい判断です。ちょっと間をおいて子ども役から言葉が出始めます。「なんか見つけたよ、という人?」と問いかけますが、すぐに挙手するのは1人です。しばらく待っても、パラパラとしか手が挙がりません。何を求められているのかよくわからないのです。「÷2」が出てくるという答に「いいことに気づいた」と返します。「何の÷2」と改めて問い直しますが、その前に、「どこにある?」と全体で「÷2」を共有する必要があります。それをしないで先に進むと他の子どもたちはついていけなくなってしまいます。挙手した子ども役を指名すると「四角形」と答えます。ここで、どこにあるかきちんと確認しながら、長方形、正方形という言葉に修正していくことが必要です。既存の知識「長方形、正方形の面積」や直角三角形の面積の求め方で出てきた「組み合わせて既存の形、長方形をつくる」といった考え方と結びつけることが必要なのです。
授業者は、順番に四角形を指しながらこの半分になると説明して、最後はこの大きな長方形の半分になるとまとめます。しかし、大きな長方形の半分は最初の考え方では出てきていません。無理やりなのです。

子どもたちの考えで進めているように見えますが、結局は一問一答で教師が自分の考え方を説明しています。授業者は初任者とは思えないぐらい、しっかりと子どもの発言を受容しようとしています。まわりと相談するといったこともさせるのですが、まだ考えをつなぐことはできていません。そもそも、何を子どもたちに考えさせるのか、どこを深め、どんな力をつけるのかが明確ではないのです。わかった子どもの考えを授業者が説明するだけで、全員が考えることには、まだつながっていないのです。

私からは、この授業を受けて、全員参加の授業をつくるためのポイントを整理してお伝えしました。初任者が多いので、まずは、子どもが安心して暮らせる学級づくりが大切で、その基本となるのは、授業規律と子どもが受容されることであることから説明しました。
受容の基本は聞くことです。「教師が子どもの言葉を聞く」「子どもが友だちの言葉を聞く」ことを大切にしなければなりません。子どもの発言を受け止めることから始まり、その発言を切り返し、つなげていくことが重要ですが、それほど簡単なことではありません。このことを意識して毎日授業をしていくことで、初めてできるようになるものだと思います。

全員参加の授業のポイントとして、次のようなことを示しました。
・「困ったこと」から出発する
・「わかった人」と聞かない
・全員できるまで待つのではなく、できていない子どもを参加させるのであれば、途中で止めてもいい
・わからなくても、「今の意見をどう思った」というように、聞いていれば参加できるようにすることを意識する
・できる子どもの活躍の場面は、答を言うことではなく、友だちを助ける仕事にする

参加した皆さんの参考になればと思います。
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