表現力を育てる授業を支えるものについて講演をする

夏休みに行った小学校の現職教育で講演です。

この学校では子どもたちの表現力を育てることを目標にしています。一学期に授業を見せていただいて、子どもたちの表現力を育てるための基本となるものも意識することが必要だと感じました。そこで、「表現力を育てる授業を支えるもの」という演題でお話をさせていただきました。

子どもたちの表現力の基本となるのは、「語彙力」だと思います。しかし、ただ辞書を調べて言葉を覚えるだけでは、表現力には結びつきません。生きた言葉に触れる必要があります。その言葉が使われるべき状況をつくり、時には前後関係から言葉の意味を類推するといった場面も必要になります。また、各教科で使われる「用語」と日常的な「言葉」を往き来できることも大切です。「大きい」という表現をきちんと「面積が大きい」「数が大きい」といった算数の用語で言い換えるといったことも必要になるのです。

表現力をつけるということは、子どもたちが出力することが大切になります。しゃべりなさい、書きなさいではなかなか出力することができません。まずは、子どもたちが安心して話せる環境をつくることが必要です。「安心・安全」な学級が基本です。
そのためには、まず先生が子どもの言葉をしっかりと聞いて受容することが大切です。子どもの発言をポジティブに評価し、何よりも発言してくれたことをうれしく思っていることを伝えることから始める必要があります。また、子どもが安心して話せるためには、正解を求めないことが大切です。正解を求められれば、自信がなければ発言できません。「間違い」と指摘されることは傷つくのです。子どもの考えを聞き、それがずれたものでも「なるほど」と受容し、間違いであれば子ども自身で気づいて修正できる場面をつくることが大切になります。
授業規律も「安心・安全」な学級の基本となるものです。学級のルールを明確にし、全員ができるまで待ち、できたことを認めてほめることで、子どもたちによい行動を広げていくようにしてほしいと思います。

子どもが発言するためには、授業に積極的に参加させることが大切です。子どもが「あれっ」「えっ」「どうして」と疑問を持つような課題を準備すると同時に、子どもが答えやすい、意見を言いやすい問いかけを用意することが重要です。
机間指導で都合のいい意見を見つけて発表させたり、挙手で指名したりでは、全員が参加することはなかなかできません。挙手を否定はしませんが、だれもが間違えることを気にせずに、安心して意見を言える状態であることが前提です。
子どもの様子を見て、「うなずいたね」「しっかり書いていたね」とポジティブに評価して、意見を言いやすくしましょう。子どもの反応、外化を見落とさない姿勢が大切です。
また、子どもたちが自分の考えを持てれば、意見言いたくなります。とはいえ、一度に発表できる子どもは一人です。できるだけ発言の機会を与えるためには、ペアやグループを活用することも必要になります。

また、子どもが表現する必然性のある課題であることや、表現する場面があることが重要になります。「根拠を問う」「説得する」「友だちの代わりに説明する」といったことを求めることを意識してほしいと思います。
最初から自分の言葉で立派に表現できるわけではありません。何事も模倣から始まります。子どもを指名したときに、「同じです」と答えることがよくありますが、「同じでいいから、あなたの口から聞かせて」と自分の言葉で発言させることが大切です。まったく同じ考えや表現はありません。違った表現や、言葉を足すことがあるはずです。その違いを評価することが必要です。また、友だちの考えを説明するといった活動も意味があります。他者の発言を理解し説明することで、考えが深まりますし、最初の発言者は、自分の考えを別の口から違った表現で聞くことで、新たな表現に出会うことができます。

発言に対して価値付けすることも重要になります。これは表現力に止まらず、子どもたちに育てたい力をつけるためにはとても大切なことです。表現力を育てるのであれば、発表の仕方や表現を「わかりやすい説明だったね」「 ○○という言い方がよかったね」と評価したり、「○○に注目したんだ」と着眼点のよさを取り上げたり、「比べてみたんだ」「○○を使ったんだ」といったメタな視点で価値付けしたりすることが必要です。
こういった価値付けは、子どもではできないので、最初は先生がすることになります。しかし、子どもたちが育ってくれば、「先生は今の発表をすごいと思ったんだけど、どこかわかる?」と想像させたり、「○○さんの考えをなるほど思った人?」「どこでそう思ったか教えて?」と子どもたちだけで評価し合う場面をつくったりすることができるようになります。

どの力でも同じですが、表現力をつけることを考えると特に全員参加が重要になります。積極的に参加して表現する場面がないと力はつかないからです。発表できる子どもを挙手で指名していては、一部の子どもしか参加することはできません。なかなか発言できない子どもを中心にして授業を組み立てることが必要です。
例えば、全員に発表させたいので、自分の考えを書き終るまで待っていても、時間切れになってしまう子どもが出てきます。そうなるとその子どもは発表する機会がなくなってしまいます。そういった子どもにも、発表や発言の機会をつくることが大切になります。なかなか作業が進まない子どもがいれば、早めにいったん作業をやめ、どこで困っているかを聞いて全体で共有、確認します。困っていることに対して、具体的にどうやったかという方法や手段をできている子どもたちから聞いたり、どうすればよいのかを全体で考えたりします。困っている子どもたちが見通しを持てたようであれば、再び作業をさせるのです。また、発表できない子どもでも、友だちの考えで「なるほど」と納得したことを発言させるようにすれば、表現力はついてきます。友だちの発言を言い直すことも立派な表現活動なのです。

この日うれしかったのが、通常よりも長い、3時間近くにも及んだ、私からの一方通行の話を、皆さんが最期まで集中して聞いてくださったことです。先生方の反応のよさに、ついついしゃべりすぎたのにもかかわらず、ありがたいことでした。
次回訪問時に授業者がどのような工夫をしてくれるのか、今からとても楽しみです。
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