聞くことの価値付けを意識してほしい

昨日の日記の続きです。

授業研究は2年生の国語で、物語の好きなところとその理由を紹介するものでした。
机の上に何もない状態で授業を始めます。最初に、今学習している物語の題名、作者、翻訳者を全体で答えさせます。授業者は板書の準備をしながら答えさせるので、子どもたちの様子をしっかりと見ていません。子どもたちはとても大きな声を出しますが、声で状況を判断するのはちょっと危険です。大きな声を出す子どもの陰で、口を開かない子どももいるからです。発言を求める時は、子どもたちと目を合わせることを意識してほしいと思います。

授業者が「めあてを書きます」と言って板書の準備をすると、子どもたちは教科書とノートを机から出します。特に指示をしなくても動くのはよいのですが、すぐに準備をする子どもとまわりの様子に気づいてから動き始める子ども、その反応の速さはかなり違います。中には机の上に何もないままの子どももいます。素早くできている子どもをほめて、学級全体の動きを速める必要があります。

この日のめあて、「物語の大好きなところとそのわけを友だちに紹介しよう」を全体で読み上げ、続いて、物語の挿絵を黒板に貼って、どのような場面かを問いかけます。すぐに手が挙がるのですが、手の挙がらない子どもも目立ちます。特に机の上に何も出ていない子どもたちの手が上がっていないことが気になります。そういった子どもたちも、「いいです」のハンドサインは上げます。ハンドサインを使わずに、手の挙がらない子どもをもう一度指名して、答えさせたいところでした。
次の挿絵では、指名した子どもの発表に対して「いいです」とハンドサインが上がりますが、授業者は「だれと?」と返します。先ほどの子どもが答えると「いいです」とまた同じことの繰り返しです。次の挿絵では、指名した子どもの発言は少しずれていましたが、やはり「いいです」のハンドサインです。授業者が問い返すと、発言した子どもは戸惑っています。他の子どもが挙手をして答えると、先ほど発言した子どもも含めて「いいです」のハンドサインです。授業者は、「そうだね」と説明をして次に進みますが、これらの場面に違和感を持ってほしいと思います。「言葉が足りない、足そう」、「ちょっと違う、修正しよう」と子どもたちが考えず、無批判でハンドサインを出しつづけているのです。ハンドサインが形式化することで、子どもは友だちの発言に対して思考停止してしまっています。
また、挿絵を正しく読み取ることと読解は直接関係ありません。授業者は挿絵で物語の流れと場面を確認しようとしたのでしょうが、そうであれば記憶に頼るのではなく、教科書を開いて確認させることが必要です。挿絵の説明が正しいかどうかを授業者が判断するのではなく、子どもたち自身で根拠を持って判断させたいところです。

「大好きなところとそのわけを書きましょう」と机の上を筆箱だけにしてワークシートを配ります。どうしても本文を参照させずに考えさせたいようです。名前を書き終わった後、子どもたちの顔が上がるのを待ちます。きちんと全員の顔が上がるのを待って、実物投影機を使ってワークシートの使い方の指示をします。指示棒を使っているので、子どもたちの方をよく見ることができていました。
ワークシートには、「わたしの大すきなところは、……ところです。」「どうしてかというと、……からです。」と話型が示され、気持ちを表す言葉「やさしい、しんせつ、きれい、……」がたくさん例として挙げられています。授業者は空欄に何を書くのかを説明します。こうすることで、穴を埋めで文をつくることはできますが、なぜそのような形がよいのか、根拠はどのように示すとよいのかといった工夫を意識することはありません。
この活動の目標も示されませんでした。ただ与えられた形式に従って自分の感想を書くだけでは、本文の読み取りも、相手に伝えるための工夫も必要ありません。また、めあての「友だちに紹介しよう」だけでは、具体的にどのようなことをするのか見通しが持てません。隣同士で聞き合うという次の活動の見通しを与えることで、友だちに「なるほど」と思ってもらえるために、どのようなことを工夫するのかといったことを意識させることができます。
過去に経験した伝え合う活動で、どのようなことを工夫したか思い出させ、そのことを根拠にして、ワークシートの形式を説明するとよかったと思います。

早くできたら、最後に主人公に言いたいことを書くように指示をしました。活動する前にこういう指示をしておくのはとてもよいことです。指示の仕方や子どもの活動をコントロールすることが意識されていました。

ワークシートの空欄に何を書くのかの説明はしたのですが、それが形として残っていません。ワークシートにポイントや具体例を書き込んで、わからなくなった子どもがディスプレイを見て確認できるようにしておくとよかったかもしれません。
子どもたちは鉛筆を持つのですが、すぐには手が動きません。大好きなところを書けても、その理由を書けない子どもが目立ちます。本文を見ることがないので、手がかりがないのでしょう。授業者は机間指導しながら個別に指導していますが、子どもたちの集中力が落ちていきます。書いては消している子ども、書き終ったのか、それとも行き詰まっているのかごそごそしている子どもが目立ってきます。全体に何が起こっているのかを把握することが大切です。
10分が経って、「まだ時間がほしい人?」と確認します。3/4ほどの子どもが手を挙げますが、そのうちかなりの数は手が動いていない子どもです。まわりに流されて手を挙げたのか、行き詰まっていたのかわかりませんが、ここで時間を与えてもあまり状況は改善されないように思います。もっと早い段階で、手が止まっている子どもがどこで困っているのかを全体で共有し、どうすればばよいのかを確認すべきだったと思います。

「いきなり発表は難しいので、お隣さんと対話をします」とペアで聞き合わせます。聞いたら、「こんなところがよかったよ」と感想を言うように指示しますが、何がよいのか「よかったところ」の視点がはっきりしません。この文をつくる時に、目標や評価の基準が与えられているわけでもありませんので、この状況で、感想を言うことはそれほど簡単なことではないように思います。
子どもたちに向かい合うように指示しますが、動きが鈍いことからも、この活動に対する意欲が低いことがわかります。聞く側の子どもが自分のワークシートを持って見ていることが気になります。自分が話すことに意識が行って、友だちの話を聞こうとしていないのです。中には、ちゃんと聞かずに手遊びをしている子どももいます。感想をちゃんと言えているペアはあまり見当たりませんでした。交代すると、聞く側の子どもはもう自分が話し終わったので、ワークシートは手に持っていません。しかし、先ほど以上に手遊びをしている子どもが目立ちました。
全体での発表やハンドサインも含めて、聞くことに対する価値づけがなされていないことが、この状態の原因でしょう。いろいろな場面で友だちの話を聞き、理解することを求め、価値付けしていくことが大切です。

「隣に話せて自信が持てたと思うので、全体で話をしてもらいます」と伝え、手元にあるハートマークを好きな場面の挿絵のところに貼ってから、前で発表させます。
1/3ほどが挙手し、授業者が指名した子どもが発表します。せっかくペアで聞き合ったのですから、ペアの子どもにどこがよかったからと推薦してもらうといったことをしたいところです。聞くこと、聞いてもらうことに価値を与えるのです。
発表者は、発表の後、質問や感想はありませんかとたずねますが、子どもたちは「うーん」とうなるだけで、発言はありません。感想といっても、どのようなことを言えばいいのか視点が育っていないのです。授業者が「上手なところ教えて?」と聞きます。しばらくすると「話し方が上手」といったつぶやきと共に、数人挙手します。発表者が指名した子どもは、「意味がよくわかった」と答えます。授業者が「何の意味?」と問い返して子どもが答えると、それで終わりました。同じように思った子どもをつないだり、どのような表現があったからよかったという価値付けしたりすることはありませんでした。よいところを言ってくれた子どもを評価することや、発表者が評価されたことを価値付けすることが必要です。子どもの中に評価の視点が育っていませんから、授業者自身がほめることで、視点を与えることも必要です。
続いて挙手する子どもは一人に減ってしまいました。問い返されるだけで評価されなかったことが原因かもしれません。指名されて意見を言っても、声が小さいこともあり、他の子どもたちは聞いていません。そのまま何のコメントもなく最初の発表は終わりました。
この後も挙手で進んで行きますが、発表する子どもは自信のある子ども、得意な子どもが多いように見えます。どうやってそうでない子どもを参加させるかを考えることが必要です。
子どもたちに質問や感想を求めても、なかなか意見が出ません。声をほめる意見が出てからは、「声が大きい」「声がきれい」といったことばかりになりました。

最後にまだ発表していな子ども全員にハートマークを貼らせます。授業者は、「同じ場面で書いた人の発表を聞いて、自分と同じだったり、違ったりということがあったと思うけれど、感想を聞かせて?」と問いかけます。しかし、その感想を聞いても、その子どもの考えを聞いたわけではないし、前での発表もしっかりと覚えていな可能性が高いので、理解することは難しいと思います。
発表があった後、すぐに同じ場面を取り上げた子どもに感想を聞くとよかったと思います。より多くの子どもに参加をうながせますし、比較することで、授業者がねらう、同じ場面でも感じ方がいろいろであることに気づいて、考えを深めることができたと思います。

授業検討では、学年ごとのグループで話し合って、発表してもらいました。それぞれが異なった視点で意見が出てきたことが印象的でした。それでも、多くのグループから共通して出てきたのが、この活動の目標は何だったかということでした。このことが明確になっていないため、評価もはっきりせずに、活動中心の授業になっていたのだと思います。

この日も若手を中心とした懇談会が開かれました。
一人ひとりの授業について簡単にコメントをしましたが、誰もが他人事と考えずに、我が事としてしっかりと聞いてくれました。互いの授業から学び合うことのよさをわかっていただければ、仲間が多いだけに大きく進歩することが期待できると思います。
次回の訪問が楽しみです。
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