用語や言葉をていねいに扱うことが大切

昨日の日記の続きです。

3年生の数学の授業は、平方根の導入の場面でした。
36の平方根を問います。子どもたちに「言葉の意味はわかっていますか?」と言葉を足します。ちょっと気になる言い方でした。数学の授業なのできちんと「定義」を使いたいと思います。私などは、「言葉の意味」というと、「平方」(2乗)した時の、「根」(解、元の数)のことなのかと思いますが、もちろん、授業者はこのようなことを説明していませんし、意識もしていませんでした。1/3ほどしか挙手がありません。もし、子どもたちがわかっていなくて挙手しないのであれば、大問題です。平方根がどういうものか、全くわかっていないということです。ここで指名している場合ではありません。そうでなければ、挙手して答えることに価値を見いだしていないということです。いずれにしても、あまりよい状況ではありません。

一問一答ですぐに板書して説明をします。指名された子どもは「6と−6」と答えただけですが、授業者はその何倍も説明します。その間、多くの子どもは授業者の説明より写すことを優先しました。「2乗して36になる数字は、……」と、「数」と「数字」が混乱しています。そのような場面が何度もあります。私は、数学の教師は国語の教師と並んで言葉を大切にしなければいけないと思っています。曖昧さを排除するために、用語の定義がしっかりなされています。そのことを意識してほしいと思います。

続いて9/25の平方根を問います。今度は子どもたちのほとんどが挙手します。ここでも、授業者はすぐに指名します。「3/5と−3/5」という答に、「いいですね」と板書して次に移ります。ほぼ全員ということは、手が挙がっていない子どももいるということです。ここで手の挙がらない子どもに目を向ける必要があります。その子どもたちがもし平方根を理解できていないのであれば、ここで結果だけを聞いてもわかるようにはなりません。その課程をきちんと押さえることが必要です。結果を聞けばできるようになるのであれば、問題をやらせて答合わせをすればよいということになります。子どもたちがわかる、できるようになるために何が必要かを考えてほしいと思います。

板書した答に○をつけて、「必ず2つあります」と説明します。しかし、根拠なく結論を言うのであれば、数学になりません。「本当?」「絶対?」と問い返し、「1つあれば、絶対値が同じで符号を変えたものも2乗すれば同じ値になる」という言葉を引き出すことが必要です。根拠を引き出す過程で、0だけは違うことが出てくるとよいでしょう。出てこなくても、一言押さえておく必要があります。中学校ではあまり重視されませんが、高等学校ではこのことが非常に重要になってきます。こういったことも意識することが大切です。

「2つ書くのがめんどうくさくない?」「いい方法ない?」と問いかけます。知識を聞いても知っている子どもしか答えられません。数人の子どもが挙手しますが、塾等で習ったりしている子どもです。これは授業者が教えるべきことです。
指名された子どもが「±」と答えます。授業者は何でそれでいいのかを問いますが、あまり意味のあることではありません。子どもも何を答えたらよいのかちょっと戸惑っていました。どうやら絶対値が同じことを言わせたかったようです。絶対値が同じ2つの数が平方根としてでてくるので(0以外)、±を使えば表記が簡略できるというだけです。そもそも「書くのが面倒くさい」と授業者自身が言っているのです。話の展開が恣意的なのが気になります。

2乗して2になる数が約1.4であることを確認して、「2乗して2になる数をはっきりさせたい」と言って√という記号を導入します。「はっきりさせたい」という言葉もちょっと問題です。これは表記法の問題です。分数を「/」で表わすのと何ら変わりません。言葉の使い方がとても雑なことが気になります。
√は見たことがあるはずだとどこで見たかを問いかけます。またしても知っている子どもしか答えられない問いです。電卓に√のキーがついていることを言いたいのでしょうが、この記号を知っていなければ、気づくことは難しいでしょう。特定の子どもばかりが挙手して指名されるという構図です。知らいない子ども、よくわからない子どもが活躍する授業を目指してほしいと思います。

「5cm2の1辺の長さがばちっと言えるはずです」と問いかけます。これも雑です。「面積5cm2の正方形の1辺の長さは」と省略せずにきちんと言うべきでしょう。「ばちっと言える」もおかしな表現です。「(√を使って)どう表わせるか」と正しく聞いてほしいと思います。挙手は1/4ほどです。この問に答えられる子どもがこれほど少ないというのは問題です。まわりと確認させたり、ノートに素早く書かせたりして理解できているか判断すべきだと思います。
指名した子どもが「√5と-√5」と答えます。授業者は「今の質問だったらその答え方でよかったですか?」と返します。次にその前の子どもを指名すると「√5cmと-√5cm」と答えました。授業者は「面積が」と言葉を返します。子どもに気づきを促すよい返しですが、すぐに他の子どもが挙手します。間違えた子どもも「あっ」と気づいてすぐに挙手しますが、授業者は他の子どもを指名しました。せっかく本人に気づかせたのですから、その子どもを指名したいところでした。授業者が説明をしている時に、間違えた2人は互いに笑いあっていました。ほほえましい光景です。仲のよい2人なのでしょう。

授業者は、√記号の名前を根号というと教えながら、「なんで根号というんだろう?」とつぶやきます。「数の根っこ、もと」と説明しますが、中途半端です。
もともと、n次式を(x−αi)の形の1次式の積に因数分解した時のαiを英語で”root”と言ったのを直訳したのが「根」です。そのため、以前、中学校や高等学校では1元n次方程式を満たすもの(解)を根と呼んでいました。その他の連立方程式などは解を使っていたので混乱しやすいことから、中学校は1972年、高等学校は1973年入学生から実施された学習指導要領から解に統一されました。
平方は2乗を表わしますが、英語では”square”です。平面の四角(つまり正方形)の面積は1辺の2乗ということですね。平方根は” ”square root”の訳になっています。ちなみに立方根は、同様に英語の”cube root”と対応します。平方根の意味は、x2=aの根(解)とう定義そのものを表わしているのです。
どう教えるかは別として、数学の教師であれば、平方根といった用語が定義とは別にどういう意味があるのかは知ろうとしてほしいと思います。

問題を解くことと教えることは別次元です。直接子どもたちその知識を教えるかどうかは別にして、その教科の本質的な知識や考え方を身につけることが教師には求められます。
授業者は、子どもたちにわかりやすい言葉で教えようとしているのだと思います。そのこと自体はとてもよいことです。しかし、数学としての本質から外れてしまっては問題です。今回のことに限らず、教科書の内容を馬鹿にせず、謙虚に教材研究してよりよい授業を目指してほしいと思います。

この続きは次回の日記で。
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