子どもたちに疑問を持たせることで考えさせたい

昨日の日記の続きです。

9年生の理科の授業は若手による中和の実験でした。
復習で酸とアルカリの確認を行います。「酸とは何か?」と問いかけ、挙手させますが、数人しか手が挙がりません。しかし、授業者はすぐに指名して進めます。他の子どもたちは動こうとしません。教科書やノートを見て確認しないということは、わかっているけれど発表したくないのでしょうか。それとも、じっとしていれば先生が答を教えてくれると思っているのでしょうか。とても気になります。ノートを確認させたり、まわりと確認させたりすることが必要です。
指名した子どもは「水素イオンを含む」と答えますが、授業者は「電離した時に水の中に水素イオンを含む」と言葉を足します。結局先生が説明をしています。子どもたちに思い出させたければ、他の子どもに確認したり、付け足させたりすることが必要です。
続いてアルカリについても質問します。今度は少し挙手が増えました。何を答えればいいのかわかったのでしょう。指名された子どもは、「電離した時に水酸化物“ナトリウム”ができる」と答えます。授業者は「水酸化物ナトリウム?」と軽く聞き返しました。よい対応ですが、本人には何を言われたかわかりませんでした。まわりの子どもが間違えて言ったことを教えてくれて、「今私なんて言った?」と気づきました。最後に自分で「水酸化物イオン」と修正することができました。しかし、この時一部の子どもだけが参加していて、多くの子どもは下を向いたり、よそ見をしたりしていて他人事でした。こういう場面で全員参加をどう促すかが、この授業というよりこの学校の課題です。

この日の課題が「酸とアルカリを混ぜるとどういう変化が起こるか」であることを告げますが、授業者が提示しただけです。子どもたちはそのことを知りたいと思っていません。疑問を持たせることをするような導入をしたいものです。「酸には水素イオンが“たくさん”あるね。アルカリには水酸化物イオンが“たくさん”あるね。混ぜるとどちらも“たくさん”あるけど、酸なの?アルカリなの?」と揺さぶるような発問をしたいところでした。

塩酸と水酸化ナトリウムの電離式を確認しますが、ここでも一問一答です。挙手はそれほど多くはありません。発言を受けて授業者がする板書を写すことが中心です。酸とかアルカリでは電離をきちんと押さえておくことが中和を理解するのにつながります。ポイントは電離しやすいかどうかです。水は水素イオンと水酸化物イオンにわずかしか電離しないことが中和を理解する鍵となりますが、ここは押さえていないのです。
ワークシートを配って、この日のめあてを書かせますが、かなり時間がかかります。中学生ですから、もっと早く書くように指導したいところです。集中があまり感じられないことが気になります。

塩酸に水酸化ナトリウムを混ぜるとどうなるかを予想させます。どんなことを書けばいいのかよくわかりません。予想のための根拠はイオンのモデルを使うしかないのですが、ここでは使いません。個人で考えた後にグループで相談させますが、根拠がはっきりしません。理由も言えればと授業者は途中で指示をしますが、「水素イオンと水酸イオンが出会うと水となり、水はほとんど電離しない」ということを子どもたちは意識できていませんでした。

グループで話していたので、挙手に頼らずに指名します。最初に指名した子どもは「酸性」と答えました。「もともと塩酸が入っているけど」「そこに水酸化ナトリウムを入れても」と授業者が揺さぶりますが、その子どもは「酸性」と力強く答えます。これは、とても面白い意見です。この意見を活かしたいところです。ここで、一部の子どもがざわめきます。この子どもたちは、中性になると単純に知識として知っている子どもだと思います。この子どもたちを指名して、考えを言わせたいところです。水酸化ナトリウムの量によって、酸性、中性、アルカリ性と、どうとでもなります。量の意識を持たせることが大切です。きちんと押さえないと中和と中性が混乱してしまいます。意識させるよい機会でしたが、活かすことはできませんでした。
中性という意見の後に、混ぜると「消える」という意見が出ました。これもよい意見です。「何が消える?」と問い返すことで、水素イオンと水酸化物イオンが消えるということを引き出すことができそうです。しかし、授業者は受容しますが、問い返すことはしませんでした。ちょっともったいない場面でした。
理由を問いかけると、イオンの電離式で水素イオンと水酸化物イオンの数が同じで、プラスマイナスで消えると説明します。ここも、「ナトリウムイオンと水酸化物イオンもプラスマイナスで消えてもいいじゃない」とつっこむと電離度の違いがクローズアップされるところでしたが、授業者はそのまま流しました。
塩酸と水酸化ナトリウムの電離式を一つずつ書いているので、うまく相殺されて中性になるイメージなってしまいます。量の意識ができません。水溶液中にイオンがたくさんあるモデル図で考えさせるべきだったように思います。

ここで、実験で確かめるとのですが、「中性という意見が多かったですが、うまく中性に“できる”でしょうか?」と議論がすり替わっていました。“なる”と“できる”は違います。話がおかしくなってきました。
実験の手順は、最初から中性にできることが前提のものです。
一定量入れた後、
・BTB溶液の色が黄色だったら一滴ずつ水酸化ナトリウム水溶液を加えて、緑色にする。
・青色の場合塩酸を一滴ずつ加えて緑色にする。
・緑色の場合、おめでとう
となっています。
やる前から結論がわかっています。
しかも、中性だったらスライドガラスに一滴とって、後で塩化ナトリウムを観察するようになっています。中性でなくても塩化ナトリウムはできています。子どもに疑問を持たせるべきところがすべて、決定事項として指示されています。
授業者が、あらかじめ簡単な実験をしてみるとよいでしょう。まず少しだけ水酸化ナトリウム溶液を入れて、「酸性のままだよ。酸性になったね」と子どもに問いかけ「少なすぎる」という言葉を引き出します。じゃあと言って大量に入れて「アルカリ性になった。アルカリ性にもなるんだ」と揺さぶり、子どもから「ピッタリ」「ちょうどよい」といった言葉を引き出します。そこで、「ピッタリってどういうこと」と問いかけ、「中性になる」とつないで、「ピッタリを見つけてみよう」として実験に取り組ませても面白かったと思います。

実験の手順はワークシートに書かれていますが、具体的な指示はすべて口頭です。駒込ピペットの使い方も実物を見せながら説明したのですが、ピペットの下を触っている子どもがいました。塩酸や水酸化ナトリウムが手に着く危険性があります。ポイントの押さえが甘かったようです。
実験の手順は先生がビデオに撮っておくとわかりやすくなります。実際に使う器具で、大きく映し出せ、ポイントは止めて何度も繰り返すことができます。こういった提示の仕方も考えるとよいでしょう。
手順がBTB溶液の色で書かれているので、子どもは「緑色になっている」と話しています。それが中性を意味していることが意識されていませんでした。

中性になる説明をモデル図で考えさせますが、途中の様子は考えさせません。ワークシートの塩酸と水酸化ナトリウム溶液のモデルには、水の分子がありません。また、塩酸と水酸化ナトリウムは2分子分ずつで同数です。同数であれば中性になるところが子どもたちに考えさせなければいけないところなのですが、そこが飛ばされていました。理科として子どもたちに考えさせるべきところが、抜け落ちています。
また、グループで考えをまとめるように言いますが、無理にまとめる必要はありません。面白い意見が潰されないようにしたいものです。

子どもたちの説明の図には水の分子が書かれているものと書かれていないものがあります。この違いも押さえたいところでした。
子どもたちの説明は、水素イオンと水酸化物イオンがくっついて水になるというのは共通ですが、ナトリウムイオンと水酸化物イオンがくっついて塩化ナトリウムになったというものと食塩水になったというものがあります。同じようで微妙に違います。ここも押さえるべきでしょう。大切なことは、ナトリウムイオンと塩素イオンは電離したままだということです。その違いを意識させることができるよい機会だったのです。ナトリウムイオンと塩素イオン、水素イオンと水酸化物イオンはそれぞれ同じように存在しているのですが、水素イオンと水酸化物イオンがぶつかると水になって電離しにくくなるので、結果として水とナトリウムイオン、塩素イオンが残るのです。
結局子どもたちが疑問を持つべきところ、理解すべきところを焦点化せずに表面的な知識の確認で終わってしまいました。
最後のまとめで、「酸とアルカリが互いの性質を打ち消し合うことを中和」とまとめて終わりました。ここで言っている「性質」とは何かがよくわかりません。酸の性質、アルカリの性質とはどういうことか、それが何に起因するものかが押さえられていないので、単に言葉の知識で終わってしまいました。
水素イオンや水酸化物イオンがあることで酸やアルカリの性質が現れていること、それが減ってしまう(無くなる)ことで性質が打ち消し合うことで説明したいところでした。

授業者は私の伝えたいことをよく理解してくれたように思いました。この学校は小規模のための同じ授業をもう一度できないのが残念ですが、子どもたちに疑問を持たせ、そこから子どもたちに考えさせることを意識した授業を目指してくれることと思います。次回の訪問が楽しみです。

この続きは明日の日記で。
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