授業者の思いと工夫がたくさん見られた家庭科の授業

昨日の日記の続きです。

8年生の家庭科の授業は、ベテランの講師の先生の纏(まつ)り縫いの実習でした。
最初の挨拶では、子どもたちの顔がしっかり上がるまで待っています。着席後、子どもたちの机の上が少し雑然としているので、「整理しましょう」と優しく、はっきりと指示をしました。子どもたちはすぐに従います。よく指示が通ります。授業者と子どもたちの関係がよいことがわかります。
子どもたちが整理し終わるのを確認してから、この日の活動を説明します。準備した纏り縫いのサンプルを子どもたちに配り、自分たちの服に同じ縫い方をしているところがないかを探させます。この日学習する縫い方が、何の役に立つのか子ども自身で気づくことができます。
班で相談するのですが、子どもたちはあまり話し合いません。とりあえず自分で見つけることができているので、その必要性を感じていないのかもしれません。
子どもたちがあまり話せてはいませんが、班ごとに発表させました。前の班と同じが2回続きました。2回目に言った子どもは考えていないために苦し紛れに言った可能性があります。「同じでも、もう一度言って」と確認したいところでした。たとえ同じであっても自分の言葉で言わせることが大切です。
「スカートの下の部分」という意見が出ました。授業者はそれを「スカートの裾」と言い換えました。男子は直接触って確認はできませんが、「どう?使ってた?」と問いかけて子どもたちに確めさせたいところです。その上で、「ここは何て言ったっけ?」と本人から「裾」という言葉を引き出したいところでした。

子どもたちに、裾が落ちた時にどうするか問いかけます。「縫います」という答を「なるほど」とうなずいて受容します。続いて、みんなが着ている服の原料を確認しますが、授業者の期待した「石油」は出てきません。子どもたちには、多くの化学繊維の原料が「石油」であるという知識がなかったのです。ちょっと強引でしたが、石油であることを説明してから、修繕して着るということがエコにもつながるということを押さえました。今から実習することの意味を持たせようとしている場面でした。

ここで縫い方を教えるのかと思ったところ、配ったサンプルを見て縫い方の特徴を見つけさせます。縫い方のポイントを子ども自身で意識させるためです。よい活動だと思います。子どもたちはじっくり見ようとしますが、班に一つしかないので、一人が見ている間、他の子どもはすることがありません。本来は一つのサンプルを真ん中に置いて子どもが考えを聞き合うのが理想なのですが、この子どもたちはまだそこまでの関係ができていないようです。4人の班なのですが、男子同士、女子同士が2人ずつ並んでいることもかかわりが弱い原因かもしれません。男女市松模様に座らせる、時間で切ってサンプルを回すといったことが必要なようです。

子どもたちに考えを発表させますが、一人発表するとすぐに板書をします。そのせいでしょうか、子どもたちは友だちの話を聞きません。こういった場面で集中しないことが気になります。多くの子どもにとっては活動のない受け身の時間になっています。すぐに板書をせずに、「同じことを考えた人?」とつないだり、サンプルを見てそうなっているか確認させたりといったことが必要です。
「かがり縫い」と似ているという意見に対して、「どうして似ているの?」と問いかけますが、だれも反応しません。どうもこの学校の子どもたちは、発言することに消極的です。子どもたちに外化を求め、それをポジティブに評価することが必要です。子どもの発言をすぐに引き取って、説明したり板書したりするのではなく、他の子どもとつなぐことを考えてほしいと思います。

黒板に貼った、紙で作った大きな布の模型を使って縫い方を見せていきます。授業者が実演するためには、あまり高いところに貼れないので、子どもたちを黒板の前に集めます。なかなか前に出てこない子どもたちに、「もっと前へいらっしゃい」と声をかけます。
実演はとてもわかりやすいもので、工夫されていると思いました。子どもたちはよく集中していましたが、それでも全員にしっかりと見えていたかどうかはわかりません。実物投影機の利用を考えてもよいかもしれません。
利用者がていねいに説明しますが、「できますか?」という確認だけで席に戻します。要所要所のポイントを、具体物があるその場でもう一度子どもに言わせて確認したいところでした。
席に戻って、「纏り縫い、裾上げ最適、縫い目は1mm」とポイントを黒板に貼って読ませます。子どもたちの声が小さいので、大きな声で読むように指示します。今度はしっかりと読めました。求めればできる子どもたちです。授業者が子どもたちにどうあってほしいかを意識して求めることが大切です。

実習での諸注意のポイントがあらかじめ黒板に準備されていました。ただし、大切なポイントは空欄になっています。なかなかの工夫だと思います。まず、空欄のまま写させてから、一つひとつ説明します。
待ち針はどの向きに打つかを子どもたちに確認しました。声が小さいので耳に手をあてて声を大きくするように伝えます。それでも、口を開かない子どもがかなりいます。そのまま進みましたが、何人か続けて指名するか、まわりと相談させると言ったことも必要でしょう。
実習に入る前に、早く終わった場合の次の指示も忘れません。ポイントがよくわかっていると思います。

「わからない人は、班の人に聞いて」「前に来て(実演に使った模型を)見てもいい」と伝えますが、机間指導で困っている子どもがいると、つい説明したりして個別に対応してしまいます。ここは、他の子どもに聞くように働きかけたいところでした。
同じ班の子どもに教えてもらえる子どもがいる反面、他の班の子どもにかかわろうとする子どもも目立ちます。子ども同士の人間関係が微妙なのかもしれません。誰とでも話せるようにしたいところです。

子どもの様子を見ていると、いちいち針を抜いて縫っている子どもが目立ちます。これでは作業効率が上がりません。また、実際にやってみると思ったようにいかないこともよくあります。一度活動を始めると最後までそのまま続ける先生が多いのですが、途中で止めて修正することも必要です。
困っていることや上手くできないことを発表させて共有し、他の子どもにコツを言わせるといったことをするとよいでしょう。できない子どもができるようになる場面を意識することが大切です。

時間が来て、片付けを指示します。子どもたちは作業に集中しているので、なかなか顔が上がりません。決して悪いことではないのですが、いったん手を止めさせてから指示したいところでした。
作業が途中の子どもは、すぐに終わらずに続けています。切りのいいところまでやりたいのでしょう。その後の行動はスムーズでしたが、全員が片づけ終わるまでにかなりの時間がかかりました。作品を前の箱にしまう時の移動が遅いように感じました。早く行動しようという意識が子どもから感じられません。この授業というより、この学校の課題のように思います。

片付けが終わった後、最後まで縫えた人がいたか確認します。数人が挙手しました。素晴らしいと拍手をさせますが、手が動かない子どもがかなりいます。できた子どもだけが評価されるのではなく、誰もが評価されることを意識したいところです。
最後に、「新しい縫い方を覚えてちょっと楽しいかなと思った人?」と問いかけました。何人かの手が挙がりかけます。授業者は「あっすごい。しっかり挙げてみて」と声をかけ、最終的に1/3ほどが挙手しました。「ありがとう」と言って手を下ろさせた後、今度は「こりゃあ細かすぎて手に負えんと思った人?」と問いかけます。何人かの手が挙がります。「そうか、正直でよろしい」と優しく返しました。しかし、「正直でよろしい」というのはちょっと上から目線にも感じます。「そうだよね。ちょっと大変だったよね」と受容し、「正直でいいね」と共感的に返すとよかったかもしれません。
授業者は、自分がよく纏り縫いを使うことや、ぐちゃぐちゃになった生地が纏り縫いでまとまることの楽しさを伝えます。よい話なのですが、どうもごそごそと落ち着かない子どもが目立ちます。早く授業を終わりたいのかもしれません。
足を大きく前に突き出している女の子がいたので、授業者は笑顔で注意しました。こういう場面でも笑顔が出せることはとても素晴らしいと思いました。

とても安定した授業だったと思います。この方ならよい学級担任になると思いました。講師であることがとてももったいないと思う方でした。ぜひ他の先生もこの先生の授業を見て学んでほしいと思いました。

この続きは、明日の日記で。
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