作者の意図を理解するとはどういうことかを考える

昨日の日記の続きです。

授業研究は6年生の国語の説明文の授業でした。授業者は、ベテランの先生です。ベテランの先生が進んでこういう舞台に立っていただけるのがこの学校のよいところだと思います。ベテランが謙虚に学ぼうとする姿勢、向上心を見せてくださることが、若手の学ぶ意欲に大きく影響していると思います。

授業は、説明文の構成を意識して、作者の意図を読み取ることを「笑うから楽しい」という短い文章を使って経験させようというものです。「作者の意図をとらえ、自分の考えをまとめよう」というのがめあてになります。
前時の復習で「はじめ」「中」「終わり」の段落構成を確認しますが、子どもたちの反応は今一つです。授業者はちょっとあせったようでした。自分の学級ではないので、なおさらだったのでしょう。ちょっと早口になります。よく聞き取れない子どももいたようでした。
作者は自分の考えを伝えるために何をしているのかを問いかけます。子どもたちは本文を見たりして考えていますが、すぐに挙手する子が指名されて発表します。子どもたちは考えていたので、もう少し待ってあげたいところでした。指名に頼らず、まわりの子どもと少し相談させてもよかったかもしれません。

作者が事例として取り上げた実験の内容を理解させようとします。「脳が体の動きを読み取って心の動きを呼び起こします」という記述で子どもたちがつまずきました。授業者はこのことを理解させようとしますが、なかなか反応できません。子どもたち自身もどこがわからないのかよくわからないのです。脳が「読み取る」という言葉の意味がわからないのかもしれませんし、「体の動きを読み取る」とはどういうことかわからないのかもしれません。作者が言っていることに納得していないのかもしれません。授業者はここで時間を取られ過ぎると、予定していた自分の考えをまとめるところまでいかないので、ペースを上げようとして、次第にしゃべる言葉が増えていきます。ここは、授業者がしゃべるのをやめて、子ども同士で相談させる時間をつくるとよかったと思います。言葉にすることで、自分のわからないことが何かに気づくこともできます。

子どもたちに笑い顔をつくらせて、気持ちの変化があったかどうかを話し合わせます。これは作者の言っていることを理解することではなく、本当かどうか確かめる活動です。気持ちが変化しなければ、作者の考えに納得しないということになりますが、それはこの文章を読んでどう思うかということです。大切なことは、作者の論理の流れ、根拠を明確にして理解することが大切です。理解することと納得することはまた別なのです。いつの間にか作者が言っていることを理解することではなく、納得する活動になってしまいました。

ここで、作者の「意図」とは何かが問題になってきます。「伝えたいこと」なのか、伝えるために「事例を挙げたことなのか」わからなくなってきます。伝えたいことを理解するのであれば、体験することよりも、「この事例から作者は何を説明している」「どうしてこの事例からそのことが言えるのか」といったことを考える必要があります。具体的な事例を挙げて説得力を増すという意図を理解するのであれば、事例を使って自分の考えをまとめることを意識させる必要があります。「事例があると納得できる」という言葉を子どもから引き出したいところです。授業者はこのことを意識はして、作者の事例と似たような経験を考えさせたのですが、結局、この言葉ははっきりとは出てきませんでした。

作者は、「脳の血液温度の変化に合わせて心の動きを決める」と言っています。このことの事例として紹介された「空気をたくさん吸い込むと気持ちがいい」ことを、深呼吸をして体験させます。こういった活動自体は悪いことではないのですが、国語としては本文から作者が言っていることを理解することを第一にすべきです。体験が中心になると理科の授業になってしまいます。

作者が一番伝えたかったことは何かを子どもたちに問いかけます。ここではそれを意図と言い変えました。それならば、最初にきちんと定義する必要があります。子どもたちが、作者が一番言いたいことは何かと考えながら活動することを求めればよかったのです。
子どもたちは、今までの活動から何となく思ったことを発表します。子どもたちは体験活動に引っ張られて、本文から読み取るという意識が無くなっていました。短い文章を選ぶことで、1枚の紙で全文を一度に見られるように工夫してあったのですが、子どもたちはほとんど見ていません。構成を意識しやすいようにしていたのですが、残念でした。授業者は、文章の書き方から読み取れないかと問いかけます。しかし、今までの活動では文章の構成を意識させていないので、ちょっと無理があります。結局、授業者が最後の文章に何が書いてあったかを子どもに問いかけて、作者の伝えたいことを引き出しました。

最後は、自分の考えを50字程度にまとめるのですが、子どもが書きやすいように、「〜がよくわかりました」「〜について、もっと知りたいです」「今まで〜けれど」といった話型を提示します。感想と考えが混乱しているように感じます。考えは「根拠」を持って自分が「判断」したことです。このことを意識させることが必要です。

残念ながら、途中で思ったように子どもから意見を引き出せなかったために時間が足りなくなりました。子どもたちの文章を発表させることはできませんでした。
授業者は、明るく一生懸命に子どもたちから考えを引き出そうとしていました。今回は復習場面で子どもたちの反応が予想以上に悪かったためペースが苦しくなってしまい、普段以上にしゃべる量が増えてしまいました。その結果、子どももじっくり考えることができないという悪循環になってしまったようです。例えベテランでも、こういうことはあるものです。
この授業であれば、作者が言いたいことを言うために、どのような文の構成にしたのか、その構成要素間の関係をまとめながら読むとよかったと思います。体験活動を、子どもが考えを書く時の立場を意識させるために使っても面白かったと思います。「作者の言うとおりになった。ほんとう?」と揺さぶったり、「作者の言うとおりにならなかった人?」と問いかけたりして、作者の意見に反対の立場の子どもをつくるのです。賛成にしろ反対にしろ、子どもなりの根拠を作者と同じように事例を挙げてまとめるというように書き方を限定することで、活動のねらいがはっきりしたと思います。

検討会では、皆さんが授業者のよいところや工夫をしっかりと意識できていました。グループでの検討はとても充実していたと思います。
授業者は、学校訪問の際にもこの授業を公開するようです。次回は自分の学級なので、今回の授業研究をより活かしやすいと思います。私は参観できませんが、どのような授業になったか、報告を聞かせていただくことが楽しみです。
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