企業の新人研修で受講者の成長を実感する

4月に、授業と学び研究所のフェローで企業の新人研修を行いました。約1週間にわたり、先生や校長の仕事、企画の立て方、学校教育の今後の方向性、コミュニケーションスキル、プレゼンテーションスキルなどを分担して担当しました。

内容もそうですが、その進め方に各フェローは工夫を凝らしていました。一方的な講義形式は一つもありません。講師が教えるのではなく、自分たちで聞き合い、教え合うことが基本です。課題を与え、グループでの話し合いや発表をもとに、講師が新人への気づきを促し、考えを深めさせます。講師が話している時間は講義形式のもと比べてはるかに短く、受講者の活動時間が長くなります。一見すると講師は楽に見えるのですが、どなたもとても疲れると話されます。講義形式の方がはるかに楽なのです。受講者の活動中に非常に集中して彼らの話を聞き、様子を観察し、グループ活動をいつ止めようか、この後の展開をどうしようかと考え続けているために疲れるのです。今後学校でもアクティブ・ラーニングが盛んになってくると思いますが、子どもの活動を中心とした授業は、講義型の授業と比べて授業者がより子どもを観察し、展開を深く考えることが必要となることがよくわかりました。
講師にとっても疲れる研修でしたが、それと同時に心地よい達成感もありました。それは受講者が目に見えて変化していったことです。研修が始まったころは、最終的に答は教えてもらえるものと思って受け身だったのが、次第に答は自分たちで見つけていくものだという姿勢に変わってきました。ただ一つの正解はないということを意識しながら互いに認め合い、考えている姿はとても素晴らしいものでした。

私が担当したのはコミュニケーションスキル、プレゼンテーションスキルでした。
コミュニケーションスキルの研修の前に、他の講師による中学校数学の授業を体験してもらっています。そこで、グループで学び合うことのよさやその意味を実感しています。また生徒が安心して発表ができる、課題に取り組めるためのコミュニケーションを授業者が意識していたことにも気づいてもらえました。この経験を活かして、これまで学んできた学校の多忙さやその解消のためのICT活用の知識をもとに、学校の課題を校長からヒアリングするというのが、コミュニケーションスキルの研修の課題です。元校長のフェローを校長役として一人ずつロールプレイに挑戦します。
1回目は自分が質問することに気を取られ過ぎて、一番大切な相手とコミュニケーションをとることがおざなりになってしまいます。しかし、仲間のロールプレイを見ることでそのことに気づいていきます。再度グループでどうすればいいのかを話し合っての2回目は、聞き出すことよりまず相手に信頼されるようなコミュニケーションを心がけていました。どの受講者も大きく進歩していましたが、その陰には一人ひとりのコミュニケーションの課題が目に見えるように、意図的な受け答えをしている校長役の素晴らしいパフォーマンスがあります。このような対応を相手に応じて臨機応変にするのは並大抵ではありません。このプログラムの流れをまねすることはできても、同じような成果のあるものにすることは簡単ではないと思います。指導案をまねても同じような授業ができないことと似ています。

プレゼンテーションスキルは、この1週間の研修で学んだことをもとに、次年度の新人に研修を受講するにあたって先輩としてメッセージを贈ることが課題です。プレゼンテーションスキルだけでなく、彼らがこの研修を通じてどんなことを学んだか、どのようなことを大切だと感じたかを知ることもねらいです。
私たちが気づいてほしいと思っていた「課題の解決は、どこかにある正解をさがすことではなく、自分たちで答を見つけていくこと」「失敗を避けようとすることより、そこから学ぶことが大切なこと」「互いに聞き合い学び合うことでより高いところにたどり着けること」といったことが彼ら自身の言葉で語られました。うれしいことです。
スキルに関しては、私たちが教えなくても、聞き手の立場で仲間のプレゼンテーションを見ることで、大切なポイントに気づいて伝え合うことができています。本番では、聞き手を意識した、個性あふれるとてもよいプレゼンテーションに進化していました。この1週間の研修で、チームで仕事をすることの意味に気づいてくれたのではないかと思います。
これから、配属された職場の先輩や仕事から多くのことを学んでいくと思います。時には壁にぶつかることもあると思いますが、この研修での経験を活かしてきっと乗り越えて大きく成長してくれると信じています。

こういった研修の講師をさせていただくことで、私たちも学び成長させていただくことができます。このような機会をいただけることを幸せに思います。
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