アクティブ・ラーニングについての研修(長文)

昨年度末に私立の中学校高等学校で、教科指導部主催の研修会を行いました。事前に教科指導部からは、「アクティブ・ラーニングを総合的学習の時間や学級活動で実践する時のポイント」「授業でのアクティブ・ラーニングの基本(特にやってはいけないこと)」について研修して欲しいというリクエストをいただきました。先生方の中から具体的なリクエストが出てくるということは、授業改善に前向きな方が増えてきていることだと思います。このことをとてもうれしく思います。

先生方が日ごろ学級活動で行っていることを話し合うという形でアクティブ・ラーニングを体験していただこうとも思ったのですが、この2年の間、まとまった形で授業の基本についてお話ししたことがなかったので、講演の形を取らせていただくことにしました。先生方の反応によって話す内容を変えられるように、スライドはかなり多めに用意しておきました。
最初に中教審のワーキンググループ関連の話から、アクティブ・ラーニングの定義が揺れていることやアクティブ・ラーニングの学校における位置づけについて簡単にお話をさせていただきました。時間がないので、中教審の今後の見通しや大学入試がどのように変わるのかといったことについてはお話ししませんでしたが、先生方はこういった情報を欲しているように感じました。文部科学省のサイトにいろいろな資料もアップされているので、こういった情報を丹念に調べることでかなりのことが読み取れるのですが、先生方は忙しいのでなかなかその時間が取れないようです。機会があれば、こういったことについてもお伝えしたいと思います。

学級経営(活動)も授業もその基本は同じです。「安心して暮らせる学級づくり」「全員参加を目指す」ことが重要です。「学級や授業の規律が保たれている」「間違えたり失敗したりしても笑われない、バカにされない」といったことが保障されていなければ、子どもたちその学級や授業に参加したいとは思わないでしょう。学級の活動や授業に参加できなければ、学級に居場所がなくなります。
ただ、授業と学級活動では大きな違いがあります。それは授業では個人の考えを持てればよいのに対して、学級活動では全体での合意が必要になるということです。また、授業では教師がコントロールすることが必要ですが、学級活動では子どもたち主体で進めることが大切になります。しかし、子どもたち主体と言っても、リーダー役の子どもに任せきりの放任ではいけません。子どもたちを見守り、リーダーを支えることが求められます。加えて、学級の大きな方針や行事での方向性そのものは先生がしっかりと示すことが大切です。ここがはっきりしないと具体的な活動を決定するためのよりどころがないため、空中分解してしまいます。
行事などの学級活動を進めるにあたって、「目的や目標を明確にし、それを達成するためにどうすればいいのかを考え、根拠を持って学級の意思決定をしていく」というプロセスを明確にしておかないと、単なる多数決では子どもたちの好き嫌いで決まってしまいます。全員が納得するための方法論を明確にしたうえで行事等に臨むことが大切です。このプロセスを子どもたち任せるというのは、特に司会を務めることになるリーダーにとってはとても重たいことです。会の前後にリーダーと話をする時間を取ることが大切です。どのように進めようとしているのかを聞かせてもらい、悩んでいるようであれば、指示をするのではなく一緒に考える。終わったあとも、リーダーとしてはその結果をどう思っているのか、この先の見通しはどうなのかを聞く必要があります。時には、リーダーの愚痴を聞いてやってガス抜きをしてあげることも必要です。もちろんリーダー以外にも、学級活動についていろいろな不満やストレスを抱えている子どもがいます。そういった子どもの話を聞くことも大切な仕事です。時にはリーダーと他の子どもを裏でつなぐような動きも必要です。先生は裏方・サポーターとして支えるのです。最悪なのは、任せると言っておきながら子どもたちの活動や決定に対して、異議を唱えることです。子どもたちは、「先生は任せるといっているだけで、自分の思っている通りに動かそうとしている。自分が楽をしたいから私たち任せたふりをしているだけだ」と思ってしまいます。
また、学級活動を通じて子どもたちに達成感を与えることはとても重要な課題です。「○○大会で優勝する」といったことを目標として活動するのは悪いことでないのですが、これだと常に達成できるのは1学級だけになってしまいます。「勝てなかったけど、みんな頑張った」という言葉が子どもたち全員から出てくればいいのですが、なかなかそうはいきません。担任が「みんな頑張ったね」といった言葉で子どもたちを評価しても「フォローしているんだな」と感じる子どもが多いものです。大切なのは結果だけでなくその課程を大切にして評価することです。結果が出た後からでは、本人たちもよく覚えていないこともあり、実感できません。都度評価する必要があります。その際、できるだけ、「○○さんが……」「○○のパートが……」というように具体的にどの子どもたちのことを言っているのかわかるような形で評価することが大切です。「みんな」という言葉は、自我が発達してくると自分のことのように思わないのです。

私は先生方に、学級経営も授業もまず笑顔が大切だとお伝えしています。子どもたちは先生の表情に敏感です。指名されて発言している時に先生が難しい顔をしていれば、不安になります。こういったことが続けば発言意欲が落ちてしまいます。先生がいつも笑顔で自分たちを受容している、認めてくれていると子どもたちが感じるからこそ、たとえ厳しい生活指導でも子どもたちは従ってくれるのです。
「安心して暮らせる学級づくり」の基本となる学級規律・授業規律を確立するための考え方は「よい行動をほめて増やしていく」ことです。「子どもたちに何を求めているかを明確にして、できるまで待つ」「ほんの少しでもできたことを認めてほめる」「一人でもできれば、他の子どもに広げるチャンスである」「絶対的な評価をするのではなく、進歩をほめる」といった視点を大切にしてほしいと思います。

授業において子どもたちを積極的に活動させるには「受けと返し」が大切になります。まずは、笑顔で子どもを受容することが大切ですが、カウンセリングの手法も役に立ちます。発言をそのまま復唱することで、相手は自分が認められたと思うのです。このとき、余分な言葉を足したり、授業者の言葉に言い換えたりしてはいけません。そうすると、「ああ、先生はこう言ってほしかったんだ」と思ってしまいます。認められたとは思ってくれません。発言は自分の考えではなく、先生の求める正解を言おうとするようになってしまいます。
子どもたちの考えを深めていくためには「返し」が大切になります。先生方は理由や根拠を問い返すのに、つい「なぜ」という言葉を使ってしまうのですが、明確になっている子ども以外にはとても答えにくいものです。きちんとした答ではなく、曖昧でもいいので発言を重ねつなげていくことで考えが深まり明確になっていくものです。そのためには、「なぜ」と”Why”で聞くのではなく、「それってどういうこと」「どうやったの」「どこにある」「どっち」と”What”、”How”、”Where”、”Which”で聞くようにするとよいでしょう。
また、子どもの発言をつなぐことも大切です。次のようなことを、意識するとよいでしょう。

・「どう思う?」「納得した?」「もう一度言ってくれる?」「なるほどと思った人?」「どこがいいと思った?」というように、子どもの発言の価値を共有する。
・「同じようになった人いる?」というように、同じ結果や結論になった子どもをつなぎ、その理由を問うことで、いろいろな考え方を共有する。
・「同じところに注目した人いる?」というように、同じ根拠や過程で考えた子どもつなぎ、その結果や結論を問うことで、多様な結論を共有する。
・「どう変わったのか教えて?」と学習の前後での自分たちの考えを比較することで、進歩を実感させる。

アクティブ・ラーニングを意識するとペアやグループでの活動を取り入れることが多いと思います。ペア活動では、一方が話して一方が聞くといった、攻め手と受け手に分かれることがよくあります。この時、特に受け手側の役割をはっきりしておかなければ、まさに受け身になってしまいます。相手のよいところを評価したり、アドバイスをしたりするといった役割を持たせることが大切です。自分が活動して満足するにではなく、相手の役に立つったという役立ち感を持たせるような活動を意識することが大切です。
ペア活動で注意しなければいけないのは、ペアは絶対逃れられない関係だということです。人間関係が上手くいっていないと、かかわり合わない危険性があります。特に思春期の子どもにはその傾向が強いように思います。隣同士のペアではなく、「まわりと相談してごらん」といった形にすると、ペアとなる相手が固定されないので上手くかかわる可能性が増えます。この時、誰とも話さない子どもがいないかを観察しておくことが大切です。そのような子どもに対して、友だちとかかわるように声をかけてほしいと思います。
グループ活動では、話し合う時の形も大切になります。男女混合の市松模様で机をしっかりとつけさせるようにします。結論を一つにまとめるような課題にすると、力関係の強い子どもの意見がどうしても通りやすくなります。友だちの考えを聞いて、自分の考えを持ったり深めたりすることが大切なので注意が必要です。よくあるのが、わかった子どもが一方的に教えて、わからない子どもがその勢いに押されて、嫌になっている図です。あくまでもわからない子どもが主であることを意識しなければいけません。「教え合い」ではなく「聞き合い」なのです。「わからないから教えて」と言われたら、責任を持って教えるというルールにすることが必要です。できる子どもは、往々にして自分が説明してもわからないと「わからないのは相手が悪いんだ」と途中で説明を投げ出してしまいます。その点にも注意が必要なのです。
先生は、常に全体の様子を把握する必要があります。参加できない子どもや活動が止まっているグループがあれば、必要な支援を行います。わからないことを質問する子どもに対して、その場で先生が答えたり、解説したりしてはいけません。わからなければ先生が助けてくれるのであれば、グループで活動する必要はありません。「友だちに聞いてごらん」と聞くことを促します。「教えて」と言えれば、まわりの子どもに「助けてあげてね」声をかけ、関係ができたことを確認して、全体が見える位置に戻ります。先生がグループの中に入りすぎて全体が見えなくなることは避けなければいけません。
いくつかのグループの動きが止まっていれば、早めに活動を止めます。全体の場で、どこで困っているかを聞いて共有し、活動できているグループに、「どんなことをした?」「どんなことを話した?」「どこを見た?」と結論ではなく、その課程や手段を聞いて共有します。見通しが立てば、子どもたちは活動したくなりますから、そうなればまたグループに戻せばいいのです。
発表の場面では、子どもたちの考えを整理しながら焦点化することが大切です。異なった意見を明確にしたあと、必要があれば再度そのことを考えさせるのです。グループの発表後にもう一度考えるための時間をとることで考えが深まります。

最後に質問の時間を設けたのですが、挙手はありませんでした。そこで司会の主任が質問をしてくれました。「授業中でこのような反応してくれない場面があるのですが、どうすればいいのでしょうか?」という質問に、思わず「うまい!」と声に出しそうになりました。そこで、講演中に真剣な表情で首を傾けたりしていた方に声をかけました。「難しい表情をしていましたが、どういうことですか?」とたずねると、いろいろと考えていたということです。その内容を詳しく聞くと、「教科ごとの特性もあるので、それぞれが実際に取り組む時はどのようなやり方が効果的なのか疑問に思った。どのように考えたり、どんな本を読んで勉強したりすればいいのか?」という素晴らしい質問でした。よく勉強されている方だと思います。「正解と言うものはなく、先生が子どもたちのどのような姿を求めるかによって答は違ってきます。本も手に取って見て、自分に合いそうだなと思うものを読むことから始めるとよい」とお答えしました。問いかければちゃんと質問は引き出せます。大切なのは、だれに声をかけるかです。授業では、そのために子どもたちをよく見ておくことが必要です。「ちょっと首をかしげた」「あまり集中していなかったのに、ある場面で急に顔が上がってこちらを見るようになった」といった反応をしっかり見ていれば、声をかけるべき相手は見つかるのです。このことを司会者の質問への答としました。

研修終了後、何人かの先生と個別にお話させていただきました。とてもうれしいことです。これからも、たくさんの方に相談いただけることを楽しみにしています。また、「スライドをすべて見せてもらっていなかったので、他の部分も見て勉強したい」とスライドのデータをほしいと言ってくださる先生もいらっしゃいました。こういった前向きな姿勢はとてもうれしいものです。皆さんで共有できるようにしたいと思います。

研修開始前に、今年度の担当の主任と次年度の担当予定の方とで、引継ぎを兼ねて簡単に打ち合わせをしました。今年度の担当の先生は担任に復帰することを望んでおられましたが、それがかなったようです(ただし、学年主任のおまけつきですが……)。今年度、先生方との間を上手につないで、私のいたらないところを本当によくフォローしていただきました。自らも積極的に新しい授業スタイルに取り組んでいただき、いろいろな面からこの学校の授業改善を後押していていただけた方です。本当に感謝しています。次年度の主任の方も授業をとても大切にする、授業改善に前向きな方です。先生方に対しても積極的なかかわりが期待できます。学校全体でも授業改善に前向きな先生も増えてきています。これからのどのように学校が変化していくかとても楽しみです。
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