授業改善への意欲を感じた授業研究

私立の中高等学校で授業研究に参加してきました。午前中は先生方と一緒に授業参観をさせていただきました。

今回面白く感じたのが、高校では一般のコースと比べて、受験を意識したコースの子どもたちの方が自分たちで考えて学習することに対して消極的に見えることです。受験を意識して知識中心の授業になりがちなこともありますが、先生の与える正解を欲しているのです。そのため、自分の考えがあっても自分からなかなか発言しようとはしません。授業者が示す正解と違えば、その考えを捨ててすぐに置き換えてしまうように見えます。
センター試験が廃止されるまでは現行の制度が継続しますが、その間にも試験の内容が変化するという話も聞きます。また、彼らが社会に出た時には、マニュアル的な仕事は確実に減り、自分で考え、他者とかかわりながら新しい価値を創造するような仕事の比重が高くなっていると思われます。彼らの姿勢を変えることを意識して授業をすることが求められると思います。

また、先生方と話していて、この学校の子どもたちの力を少し低く見ていると感じることがありました。彼らに考える力や協同的に学ぶ力をつけても、創造的な仕事に就けないのではないかと心配をしているのです。確かに、今の受験制度の中で高いパフォーマンスを発揮する子どもは少ないかもしれません。しかし、彼らが学ぶことを楽しいと思うことができれば、潜在的な力が発揮されていくと思います。大学受験までにその成果は出ないかもしれません。しかし、大学受験がゴールではありません。そこから先を生きる力を中学高等学校でつけることができれば、きっと自分たちで道を切り開いていくと思います。授業が変われば、彼らは間違いなく今まで以上のパフォーマンスを発揮すると思います。
実際に授業を参観していると、彼らの学ぶ意欲を感じる場面にたくさん出会えるようになってきました。そういった彼らの姿から、その可能性を感じていただけたことと思います。

授業研究は若手を授業者として同時にいくつか行われました。残念ながら4つの授業をしか見ることができませんでした。共通して感じたのは、皆さん自分なりの提案があったことです。授業を改善しようという前向きな気持ちを感じました。

高校2年生の英語の授業は、長文読解をグループで行っていました。
授業者のこれまでのスタイルとは違ったやり方に挑戦していたことをうれしく思いました。読み取りのキーワードなどを授業者が提示しましたが、こういった場面では子どもたちから言葉をもっと引き出したいところです。また、動きが止まっているグループに対して直接説明をしている場面がありましたが、課題を共有させて子ども同士のかかわり合いを引き出させることを意識してほしいと思いました。子どもたちに考える力をつけるためには、子どもたちのかかわり方やグループの活かし方を意識する必要があります。
この授業の検討会に参加したのですが、グループ間の格差ができた場合どうすればいいのかといった、こういった授業に挑戦した時にぶつかる疑問が話題になりました。自分で挑戦してみて、初めて課題として意識できます。私からは、一部のグループの動きが止まった時は、いったん活動を止めて、子どもたちが困っていることを共有することを伝えました。これをきっかけにして、一歩ずつ課題を克服していってほしいと思います。どのようなスタイルの授業をつくっていくのかとても楽しみです。

高校1年生の物理の授業は、エネルギーの保存でした。
授業者は子どもとの関係を上手くつくることができてきていると思いました。柔らかい表情や子どもたちを受容的に見ることが意識できています。理科では実験がとても大切ですが、時間の関係や器具の問題で必要な実験をすべてやってみることはできません。しかし、今はインターネット上に利用できる動画がたくさんあります。今回はそういったものをうまく活用しようとしていました。こういった試みはとても大切です。
レールの両端を持ち上げたものの上で球を転がす実験です。球が行ったり来たりするのを見せてから、子どもたちに、レールの場所ごとで、球の運動エネルギーと位置エネルギーがどうなっているのか考えさせます。子どもたちは授業者の指示に従って作業を始めるのですが、どういう意味を持つのかはよくわかっていません。そのため、具体的に何をすればいいかわからなくなってしまいました。どうするのかと思っていると、子どもたちはまわりに確認していました。友だちに気軽に聞けるよい雰囲気です。
ここでは、子どもたちに何が課題となっているのかを意識させる必要があります。動画を途中で止めながら、「この後、球はどうなる?」と聞いたり、「球が持っているエネルギーはどこが一番多い?」と問いかけたりすることで、課題意識を持たせたいところです。また、「球がレールの上で静止した時に、力を加えるとどうなる?」といったことを聞いたりすれば、エネルギーの保存の意味がより明確になるかもしれません。
課題を子どもたちのものにするための工夫を意識してほしいと思いました。

高校1年生の現代社会の授業は、国民の権利を考える場面でした。
授業の最初に簡単な復習の小テストを行っていました。小テスト自体は悪いことではないのですが、この授業の内容に直接かかわることではありませんでした。授業の最初は子どもたちの集中が一番高い時ですから、できればこの日の課題につながることを行うようにしたいと思います。
この日はGHQが新憲法の啓蒙のためにつくったポスターを資料として考えさせます。「GHQ」「新憲法」「啓蒙」という言葉を確認しないまま授業が進んでいきました。高校生だから大丈夫かもしれませんが、ここがよくわからないままポスターを見ても理解が進みません。子どもたちとやりとりしながら、しっかりと押さえておく必要があったと思います。
ポスターから子どもたちが気づいたことを聞くのですが、最後はスクリーンにワークシートの穴埋めの答を表示して、授業者が解説しました。子どもたちはどうしても穴埋めを優先しますので、授業者の解説もしっかりとは聞いていませんでした。
まとめは、穴埋めではなく子どもたち自身の言葉で書かせたいところです。子どもからキーワードを出すためにどのような活動をするのか、子どもの考えをどう共有するのかといったことを意識してほしいと思います。

中学1年生の数学の授業は円錐の表面積を考える授業でした。
まだ幼さが残る子どもたちです。落ち着かない子どもは思ったことをすぐに口に出します。授業者はそういった子どもに少しかかわりすぎのように感じました。一部の子どもとのやり取りで授業が進んでいきますが、出てきた考えを全体で共有する場面がありませんでした。子どもが先生に向かってしゃべったことを、「今いいこと言ってくれたね。みんな○○さんの考えを聞こう」と全体に向かって言わせるようにするとよいでしょう。こうすることで、不規則な発言をきちんと授業の舞台にのせることができます。
円錐の表面積を考えるのに、側面が扇形になることを押さえる必要があります。授業者は円錐の模型も準備して、感覚的にわかりやすく説明しますが、ここは子どもたちにきちんと扇形になる理由を理解させる必要があります。もとになる円の定義と、円錐の母線の定義を確認し、直円錐の母線の長さが常に一定となること押さえて、そこを根拠に側面の展開図が扇形になることを納得させるのです。
扇形の面積を求めるには、扇形の面積、中心角、扇形の弧の長さの関係をきちんと押さえておく必要があります。前の単元で学習した「比例」の復習にもなりますし、高等学校で学ぶ弧度法の布石にもなります。解き方を教えるのではなく、考え方を身につけさせることが大切にしてほしいと思います。

検討会終了後、授業を見せていただいた先生方が個別にアドバイスを聞きに来てくれました。工夫をして授業に臨んだからこそ、話が聞きたかったのだと思います。こういう前向きな姿勢が、授業力向上に欠かせません。これからの成長が楽しみです。
授業改善や新しい授業スタイルに挑戦することに前向きな先生が増えてきたように感じます。この波が大きなうねりとなってくれることを期待します。
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