ICT機器を使うことが授業者のよさを損なうこともある

昨日の日記の続きです。

5年生の若手の授業は国語の「大造じいさんとガン」の大造じいさんの残雪に対する気持ちの変化をとらえる場面でした。
授業者はよく素材研究を行っていたようです。おそらく同じ5年生の担任の先輩からいろいろと教えてもらっているのだと思います。素材研究をしっかりするとどうしても伝えたいことが増えてきます。それがこの授業には表れてしまいました。
子どもとの関係もよく、子どもたちの授業に対する参加意欲も高い学級です。子どもからの発言も出やすい雰囲気です。しかし、今回授業者は子どもから自分の望む発言が出てくると、「そうだね」と受容した後、自分で解説してしまいました。子どもが一言つぶやくだけでも、すぐにそれを拾って解説し始めます。子どもの発言をきっかけに、授業者の講談が始まってしまうのです。「今言ったこと、どういうこと?みんなに説明してくれる」と子どもの考えをまず全体で共有して、気づかなかった子どもにも考える時間を与える必要があります。
説明が終ると次の質問をしますが、子どもたちは一方的に入ってくる情報についていくのがやっとです。次第にやり取りに参加できない子どもが増えてきます。積極的に参加できる子どもと授業者だけでどんどん授業が進んでいきました。
教材研究の段階で、「子どもに絶対言わせたいこと、考えさせたいこと」をまず絞ることが大切です。その上で「子どもから出てくれば取り上げること」を考えます。それ以外は基本的に受容するだけで軽く扱うという姿勢で臨みます。こういったことを考え、判断するためには、この作品を通じてどのような国語力をつけるのかという単元を通じたねらいが明確になっている必要があります。例えば、「登場人物の心情の変化をとらえるのに、『発言』『行動』『情景』といった表現に注目して『対比』する視点を身につけさせる」といったことです。
今回の授業では、以前の場面での大造じいさんの心情とそれを表わす表現を事前に整理しておくとよかったでしょう。例えば残雪に対する呼び方が視点として整理されていれば、「ガンの英雄よ」という言葉に着目することができます。こういった視点がないまま、授業者の質問に答える形で授業が進んでいったのが残念でした。
指名して答えられなかった子どもに挽回の機会を与えるといったこともきちんとできます。失敗を笑いとばせる明るい学級をつくっています。昨年と比べても授業力は確実に進歩しています。こうして次の課題が明確になったので、次の機会には一段と進歩した姿を見せてくれると思います。

もう一人の5年生の担任は中堅の先生です。社会でこれまで学習したことをもとに、カルタをつくる場面でした。
カルタのサンプルを、タブレットを使ってディスプレイに映しながら説明をしますが、教卓の上に置いて使っています。授業がしっかりとできる方でも、新しいICT機器の活かし方は、すぐにはわからないようです。このことはICT機器の導入に関連して頭に入れておかなくてはいけないことでしょう。
今まで学習したことをもとに、読み札のキーワードを子どもたちに見つけさせます。キーワードを入れることがこのカルタつくりのポイントです。ディスプレイ上でキーワードの色を変えて見やすくします。視覚に訴えるのはよいことです。ただ、今押さえるべきことが何かを意識していないとポイントがずれてしまいます。この場面ではキーワードを見つけることが大切なのですが、カルタづくりでは自分でキーワードを考えてそれを入れ込んだ読み札をつくることがポイントです。この押さえが甘くなっていたように思います。日ごろの授業者の実力からいって、おそらく、タブレットを使わなければ、こういったことにはならなかったと思います。
カルタをつくる作業の説明に入ります。絵札はどのようにすればいいのかの説明で、ICT機器が威力を発揮します。ディスプレイに映すことで一目瞭然です。視覚的にすぐにわかることですが、どうしても口頭で説明したくなります。言葉での説明に時間を使ってしまいました。しかし、この授業は社会です。絵札にエネルギーを使ってほしくはありません。簡単に説明をして、子どもたちから質問がなければすぐに作業に入ればいいのです。
作業がはじまってからも、ディスプレイには絵札が映し出されていました。これも注意が必要です。ディスプレイに何か映っているとどうしてもそこに目がいってしまいます。絵札が映っていれば、絵札をつくることに意識が向いてしまいます。必要が無くなればディスプレイは消しておくべきです。逆に、作業中に意識させておきたいことをずっと映しておくという使い方もあります。この場面であれば、読み札をつくるポイントをディスプレイに整理して残しておくのです。実験などでは、手順などを映しておけば、黒板を広く使うことができます。
社会の授業としてみると、カルタをつくることそのものが目標の活動になってしまいました。カルタをつくる目的はこれまで学習したことを整理することです。「読み札を読むと、学習したことのポイントが思い浮かぶものをつくる」といったことを目標にするとよいでしょう。ちなみに、図画工作の授業であれば、「絵札を見れば読み札の内容が想像できるものをつくる」といったものになるでしょう。
タブレットを使ったために授業者の持っているよさが損なわれてように感じました。タブレットの使い方についてアドバイスをしましたが、もともとの力はある方です。次の機会には素晴らしい活用をした授業を見せてくれることを期待しています。

ICT機器の活用については、学校全体に対してアドバイスする機会を持てればと思っています。

道徳の授業研究については次回の日記で。
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