実力を発揮できなかったが、よい学びにつながった授業

市主催の授業力向上研修会で講師を務めました。今回は夏休みに行った模擬授業の本番です(本番が楽しみになる模擬授業参照)。子どもたちの反応が楽しみです。

授業は小学校5年生の算数、平行四辺形の面積の求め方でした。
授業者はちょっと緊張気味でした。子どもたちもそれに影響されていたかもしれません。それでも、一生懸命に授業に参加しています。授業規律はしっかりとしています。作業が終わったかどうか「姿勢で教えて」と声をかければ、すぐに反応してくれます。これまでの復習で、どんな図形の面積を求めることができるか問いかけます。「長方形」「正方形」「三角形」と発表されるたびに「賛成」と子どもたちが大きな声で反応します。こういった声やハンドサインは授業者にとっては安心材料なのですが、全員が本当にわかっているのかははっきりしません。この場面に限らず、授業者は子どもの発言をしっかりと聞くのですが、子どもたちが賛成の意志を示すとそれでよしとして、進めてしまいます。声やハンドサインだけに頼らず、個別に何人も指名するといったことをして、しっかりと共有することが必要です。

三角形の面積はどんな形の三角形でも求められるかを確認しますが、口頭の確認で終わっています。いくつかの三角形を図示して、個別に確認をする必要があります。これをするのかしないのかが後で効いてきます。
「長方形」「正方形」の他にどんな四角形があるのかを子どもたちから言わせて、どの四角形の面積を求めるかを考えます。当然「平行四辺形」以外にも「台形」や「一般の四角形」も挙がります。子どもたちに考えさせた以上、「平行四辺形」にする理由が必要ですが、明確にできません。たとえ授業者が決定するにしても、その理由はある程度明確にしたいところです。「今まで学習したことを上手く使うのが算数では大切だよね。今まで学習して四角形に近いのは何かな?」と問いかけ、この日は「平行四辺形」を扱うことにするといった流れを考えておく必要があったと思います。
子どもたちにこの日のめあてを考えさせます。「平行四辺形の求め方を考えて友だちに説明しよう」が出てきます。「何の」求め方かが抜けていましたが、そこは確認しません。「説明しよう」が子どもからすぐに出てくるということは、こういった課題の時は必ず説明することがめあてとなっているのでしょう。ただ、「説明する」ことだけではなく、友だちに「わかる」「伝わる」を意識させることも必要でしょう。「みんなが考えてくれた……」とこれをこの日のめあてとしましたが、一人しか発表していないのに少々強引な進め方です。

平行四辺形について知っている性質、続いて三角形の面積の公式を確認します。ここで大切なのは、公式の「底辺×高さ÷2」ではなく、どうやって公式を考えたのかと「底辺」「高さ」はどこの長さのことかです。前者は、「切る」「(面積の求め方を)知っている形をつくる」といった面積を求めるための方法の確認、後者は三角形に分割した時「どこを底辺として考える?」ということを意識させるために重要です。
授業者は「底辺」と「高さ」を一般的な鋭角三角形で確認しただけで、続いて「線を引いたり、切ったりしていいよ」と、子どもたちに平行四辺形が方眼の上にかかれているプリントを何枚か配ります。ここは、鈍角三角形や直角三角形などで「どこが底辺?」と聞いて、どこでも「底辺」となり得ることを押さえておきたいところです。「線を引いたり、切ったり」も子どもから出させたいところでした。大切なことを無意識に授業者が言ってしまいます。算数・数学の授業では特に見方・考え方が重要なのですが、どうしても答を出すことを優先してしまう傾向があります。学校現場を回っていて、ここを変えるのは思った以上に難しいことを痛感しています。

子どもたちはすぐに対角線を引くのですが、鈍角三角形をつくってしまった子どもは、対角線を「底辺」にして考えてしまい「底辺」と「高さ」の長さがわからずに困っていました。この授業のねらいからすると、ここは困らせたいところではありません。先ほどの三角形の面積の公式を復習する場面で、この三角形と同じ形の三角形で「底辺」と「高さ」を確認しておきたいところでした。
すぐに平行四辺形の面積がわかった子どもは、なかなか次の方法を考えません。「できるだけたくさん見つける」「友だちが考えないようなやり方はない?」「どんな形の平行四辺形でも大丈夫なやり方?」といった目標を子どもたちに応じて与えることが必要でしょう。

ペアで自分のやり方を伝え合います。伝え合いのルールを授業者が説明しますが、何度もやっているはずのことなので、子どもの口から確認したいところです。また、説明する側の視点でのルールでしたが、「うなずきながら聞く」といった聞く側の役割をはっきりとさせたいところです。ただ説明するのではなく、相手に伝えたいという気持ちになるような工夫が必要でしょう。例えば、この後の発表では、説明をペアの相方がするといった方法も考えられます。
子ども同士が上手くかかわれていないペアもあります。授業者は全体を見ながら、そういったペアへ必要な支援をできるようにしてほしいと思います。

指名した子どもに、黒板に自分の考え方の図と式を示させます。ここは答を共有するのではなく、考え方を共有したい場面です。式を書かせずに、「○○さんは、この図からどんな式をつくったと思う?」と、自分とは違うやり方も考えさせるようにするというやり方もあります。同じ図でも違う式ができる場合もあります。子どもたちからこういったことが出てくるような工夫が必要です。
本人の代わりに式の説明をさせる場面をつくります。「伝え合う」という視点ではとてもよいことですが、挙手が2人だけなのにすぐに指名してしまいました。考えをしっかり共有したいのであれば、ここで指名してはいけません。まわりと相談させるといった活動が必要です。
指名された子どもの説明に、「賛成」のハンドサインが出ます。これは、聞いていた子どもが判断すべきことではありません。まず、式を書いた本人にこれでいいのかどうかを確認する必要があります。聞くのなら、「今の説明で○○さんのやり方が納得できた?」と後から聞くべきだったと思います。
子どもの説明に不備が多いことが気になります。式に出てくる数が「底辺」「高さ」とは説明しますが、それが図のどこになるかを示しません。そもそもどの三角形かも確認しません。復習のところの押さえが甘かったことがその原因の一つですが、説明して伝えるために何が大切かも意識できていないことも大きいように思います。「どの三角形?」「底辺ってどこ?」とその場で聞き返すことが必要です。授業者が聞き流すので、子どもたちもペアの活動で聞き流してしまうのです。
子どもたちは一生懸命に説明するのですが、その価値付けはありません。ハンドサインの「賛成」で終わってしまうのです。ここで「式の数が図のどこのことかを言ってくれたからわかりやすかったね」というような価値付けをきちんとしないと、説明する力がつきません。説明のどこがよいのかを意識して聞くことが説明する力をつけるためには必要です。

対角線の引き方で上手くいかなかった子どもは、答はわかりましたが困った感は解消されません。この授業全体が、わかった子ども目線で進んでしまいました。わからない子どもがわかる場面がなかったことが残念です。

実は、ここで私が指摘したことのほとんどは、指導案ではしっかりと意識されていたのです。例えば、発表の場面では図だけをかかせて、式は他の子どもに考えさえることになっていたのです。緊張していたのでしょう。せっかく考えたことが活かせなかったのは少し残念でしたが、参加した先生方にとってはよい学びの材料となりました。
検討会では、相変わらず質の高い意見が交換されます。「どのような活動をさせればねらいが達成できたのか?」「困っていた子どもたちをどのようにすればよかったのか?」とよい視点での検討ができていました。

授業者は、普段できていたことができなかったことを悔しく思っていました。研修終了後に話をした時に、「子どもたちは頑張ってくれていたのに、申し訳ない」という言葉も出てきました。子どもたちに対する思いが根底にあるからこそ、こういう言葉が出てくるのです。この姿勢であれば必ず授業はうまくなります。この授業が失敗ということではありません。授業者が今後進歩するきっかけとなれば、大成功なのです。今後が楽しみな先生とまた出会えました。
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