何を目指して授業をつくるか考えてほしい

昨日の日記の続きです。

初任者の1年生の理科の授業は飽和水溶液と再結晶についての場面でした。
前時での実験の確認を2人の子どもに発表させます。2人の意見を「いっしょ」と授業者が判断しますが、全く同じ発言ではないので同じかどうかは少なくとも本人たちに判断させたいところです。子どもに意見を言わせた後、授業者がすぐに説明することも気になります。復習の場面なので子どもたちに活躍させたいところです。
結晶の定義を「いくつかの平面で囲まれた、規則正しい(形状の)個体」と確認しますが、子どもたちにピンときません。形状と言った言葉が抜けているので余計わかりにくくなっていますし、針状の結晶に対しても上手く説明できません。この程度の定義であれば、何種類もの結晶をディスプレイで見せて、子どもたちに特徴を言わせて、定義に使う「規則正しい」といった言葉を拾いたいところです。

実験からわかったことをもとに、子どもたちと物質が水に溶ける時の性質をきちんと整理し、それを受けてから、溶解度の定義をしたいところですが、天下りでの定義になってしまいました。水の量を変えたら溶ける量がどう変わるのかを子どもたちに問いかけて考えさせ、同じ温度であれば、溶ける量は水の量に比例することをきちんと押さえておくことが必要です。基準となる水の量に対してどれだけ溶けるのかを知っていれば、水の量が変わっても溶かせる量がどれくらいかわかることを確認して、基準となる水の量として100gを選んだということを伝えるのです。こうすることで溶解「度」という言葉になることも理解できるはずです。用語が出てくる必然性を理解した上で、自然に定義したいものです。

授業者はパソコンとディスプレイを使って、溶解度曲線などの資料を提示します。しかし、パソコンとディスプレイを離して手元で操作するので、子どもたちの視線が授業者かディスプレイか定まりません。授業者はパソコンを操作する時は下を見て、説明はディスプレイを見てしまいます。子どもたちの様子を見ることができていません。ワイヤレスマウスなどを利用してパソコンから離れ、指示棒などを上手く使うことで子どもの顔を見るようにしたいものです。

子どもたちに硝酸カリウムと塩化ナトリウムの溶解度曲線を見せて、ここからわかることを言わせようとしますが、なかなか反応が出てきません。正解を言わなければならないと思っているために、発言しにくいのかもしれません。発言しなくても、最後は先生が答を言って説明するから参加しなくても問題ないと思っているのかもしれません。理科の資料を見る力や考察力が育っていないのかもしれません。資料の読み取りでは、変化のあるなし、その特徴(増加、減少、一定か否か)、比較といった視点を整理しておくことが必要です。日ごろからこのようなことを意識しておくことが必要です。
子どもたちは受け身の時間が長くなってきて集中力が落ちてきます。授業者の問いかけに何を答えていいのかわからなくなってきたようです。授業者が子どもたちから言葉を引き出そうとして「硝酸ナトリウムと塩化ナトリウムの違い」「何がわかる?」と問いかけの言葉を変えているのも子どもたちを混乱させる原因です。この状態で無理やり指名して答えさせたり、授業者が自分で説明したりすれば、ますます反応しなくなります。隣同士やまわりと相談させるといった活動が必要になります。

「練習する前にまとめます」と授業者がまとめを板書します。子どもは結局それをワークシートに写すだけです。穴埋めの多いワークシートを使っていましたが、子どもたちは穴を埋めて完成させることで満足感を得ます。考えることより穴を埋めることを優先します。課題を解決したいという気持ちが前面にでるようにしたいものです。この時間の課題ではありませんが、溶解度について考えたいという気持ちになるような展開を考えたいものです。
「一番甘い砂糖水(シロップ)ってどのくらい甘いだろう?どうすればつくれる?」と問いかけ、「どんどん溶かそう。あれっ、もう溶けなくなっちゃった。これが一番甘い砂糖水かな?誰か舐めてみる?」と、子どもたちから「温めればもっと溶ける」という言葉を引き出し、「本当?溶ける?やってみようか?」と温度で溶け方が違うことを確かめ、「でも熱くて飲めないね。さまして飲もう」と冷して再結晶をすることを見せて興味を持たせます。じゃあ「一番辛い塩水は?」というようにして、水に物質がどのくらい溶けるのかを考えたい気持ちにさせるといった導入も考えられます。これはほんの思いつきですが、こういった工夫もほしいと思います。

溶解度曲線から、どれだけ溶けるかを読み取らせようとしますが、溶解度曲線の意味がよくわかっていません。最大どれだけ溶けるかの押さえが弱いのです。「○°Cの水に、50g溶ける?60gは?」と、このグラフから何がわかるのかをまず、きちんと練習することが大切です。
授業者は子どもたちが理解するためのステップをとばし、練習問題を解くために必要な情報をヒントとして教えます。「問題を解くためにどんな情報をグラフから読み取る必要があるのか」を考える力をつけることが一番大切なのですが、問題の解き方を教えることにまっしぐらです。これは、理科という教科を通じて子どもたちにどんな力をつけたいかという授業観の問題でもあります。一度原点に戻って、このことを考えてみてほしいと思います。

子どもたちはどんどん反応しなくなっていきます。授業者は溶けるとはどういうことかを問いかけますが、過去に学習したことなのに、だれもノートや教科書を調べませんでした。
授業の中に子どもたちがわかるという場面がありません。授業者の結論をそのまま受け入れるだけで、考えることがないのです。理科は実験や観察、事実がもとになって成り立つ教科です。実験から考えることがとても大切なのですが、子どもたちにとっては実験より先生の説明、まとめが重要になってしまっています。

まだまだ、経験の浅い初任者です。いろいろな先生の授業を見て、自分が目指す授業像、子ども像をつくっていってほしいと思います。この学校の理科は、30代以降の先生がいないようです。これはなかなか厳しい状況です。教科の先生で互いに学び合うことはもちろんですが、他教科の授業も見ることや、できれば他の学校のベテランの理科の授業を見たり、セミナーなどに参加したりして視野を広げてほしいと思います。憧れる授業が見つかればきっと大きく進歩すると思います。
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