何を根拠として考えさせるか意識することが大切

中学校で授業アドバイスを行ってきました。市内の全小中学校での授業アドバイスの一環です。この日は3人の若手の授業アドバイスをさせていただきました。

3年生の理科の授業は、力と運動の関係を考える場面でした。
授業者は笑顔も多く、子どもたちとの関係が良好でした。子ども同士の関係もよく、失敗を笑って済ませられる雰囲気のある学級でした。
前時までの復習で力を加えると何が変わるのかの確認から入ります。子どもたちの挙手は半分くらいです。「速さ」「向き」が出てきます。大切なことなので、具体的な例をもとに隣同士で確認させるといったことが必要だと思います。
続いてこの日のめあて「運動と力の関係について理解する」がすぐに示され、教科書に載っている写真の運動を分類するという課題に取り組ませます。子どもたちは、授業者が指示をすればすぐに従って活動します。そのため、意欲づけや動機づけをあまり意識していないように思いました。子どもたちに、疑問を持たせたり、知りたいと思わせたりする場面から授業を始めることを意識するとよいでしょう。
運動は、「静止している」「加速度運動している(加速と減速)」「等速直線運動」ものがありますが、これらをどう分類するかはいろいろな考え方ができます。しかし、教科書の下には運動のようすの視点からまとめると、「静止している物体」「動いていて、速さが変わらない物体」「動いていて、速さがおそくなる物体」「動いていて、速さが速くなる物体」と分類できると書いてあります。教科書を見て取り組ませても、どうしてもその記述に影響されます。教科書を使わず、運動の様子が書かれたカードのようなものを準備して考えさせるとよかったでしょう。グループで相談させますが、どれが正しいと根拠を持って言えないものなので、深まるようには見えませんでした。
いくつに分類したかを聞きますが、数を聞くことは意味がありません。可能性は何通りもあるのです。授業者は、どのように分類したかを指名した子どもとやり取りしますが、他の子どもにつなぐことはしません。発表者とだけでやり取りが進みます。早く4つに分類したいのです。子どもたちに相談させるように問いかけもできます。そうすれば子どもたちはよく話し合います。しかし、全体では一問一答で進めてしまいます。もったいないと思います。子どもたちの活躍の場面をもっと増やすことを意識するとよいでしょう。

子どもから出てきた「速さが一定」という言葉に対しては、切り返す必要があります。「速さが一定?どうやったらわかる?速さはどのくらい?」と速さの絶対値を意識させておいて、止まっているもの指して「速さはどのくらい?」と問いかけるのです。「速さが0」が出てきた時に、「なるほど、速さは0なんだ。速さは0から変わっている?」と切り返して、静止も速さが一定に気づかせることが大切です。止まっているのは別に分類するという意見も出るでしょう。子どもたちがそのことにこだわるなら、それを採用すればいいだけです。「止まっているものと動いているものに分類するんだ」と2種類に分類できると押さえ、その上で、「まだ分類したい?」と動いているものをどう分類するかを考えさせるのです。教科書はそういう視点で分類しています。この視点をきちんと子どもたちに意識させることが大切です。速さの変化に注目すると、「速さが変わらないもの(静止を含む)」「速さが変わるもの(加速・減速)」の2つに分類できることも押さえておくと、力と運動の関係を理解しやすくなると思います。この視点を活かして授業をつくるのであれば、最初に力を加えないとどうなるかという「慣性の法則」を復習しておきたいところでした。
一つの予定した答に向かうとする活動になっていました。それよりも運動をいろいろな視点で見ることを通じて、どこに注目するかで分類も変わることなどを子どもたちに気づかせたいところでした。理科を通じて身につけさせたいものの見方です。

速さが一定の時、合力が0か0でないかを問いかけます。ここで合力がいきなり出てくることが気になります。力が加わっているのかどうか以外に、合力という概念を理解していることも求められるからです。合力を使うのであれば、もう少し丁寧に合力を復習しておいてから、問いかける必要があったと思います。
「進む力」という言葉が出てきます。「進むということはどちらかの力が必要だから……力がいる」という意見は子どもにとって素直な感覚です。ここを焦点化していくことで、この日のねらいの「力と運動の関係」を明確にすることができるのですが、授業者は先に進むことを優先して、すぐに結論を自分で説明しました。多くの子どもは結論を知っているかもしれませんが、このことをきちんと説明できるようには見えませんでした。子どもたちともう少しやりとりをして、子どもたちの言葉で納得させたいところでした。せめて、物体に力を加えて「動き出した。速さはどうなった?」、続いて「今、力は加えている?」「動いている?」「速さはどうなっている?」と問いかけて、子ども自身に気づかせて修正させたいところでした。また、この場面で「慣性の法則」が、子どもからも授業者からも出なかったことが気になりました。やはり、復習の時点押さえておくべきだったように思います。

先ほど分類した運動に対して物体に働く合力を作図で考えることが主課題です。ここで、合力を作図する上で大切なことを確認しません。特に子どもたちがよく間違える垂直抗力については、復習しておきたいところでした。個人で考えた後グループでまとめますが、子どもたちの議論のよりどころがはっきりしません。重力や抗力、摩擦力などの力が加わっているはずだからと書き込んでいくのか、速さの変化から合力はこうなるはずだと考えるのかよくわからないのです。ねらいである「力と運動の関係」を物体に働く力を書き込んでその合力がどうなるかから考えさせるのか、物体は力を加えた方向に増えるように速さが変化するという「力と運動の関係」を前提に考えさせるのかといった、論理の方向が不明確なのです。後者であれば、先ほどの分類の時に、しっかりとこのことを整理しておく必要があります。
斜面を落ちていく物体に働く力を考える時に、合力が斜面と平行でなければならないことが意識せずに作図をしている子どももいます。また抗力が接触面と垂直に働くことが理解できていない作図も目立ちます。これまでに抗力について学習していたようですが、定着していないのです。授業者が「抗力は重力と反対に働く」という言葉を使ったことも気になります。水平面に物体が載っている時に使ったのですが、不用意にこういう言葉を使うと混乱する原因になります。抗力はどうして起こるのかという説明は中学生ではまず理解できません。そもそも上手く説明がつかないのです。現象として、物体が面に接触している時、面と平行に摩擦力が、面と垂直抗力が働くと教えるしかないと思います。であれば、そのことをきちんと教えておかなければ、こういった問題に答えることはできないのです。
また、スライディングをしている人物に加わる力で、摩擦力を進行方向に向かっていると書いているグループがありました。力の向きが加速の向きであることがよく理解できておらず、進むためには推進力がいると勘違いしていたのです。摩擦力がどう働くのかを体感させて考えさせるか、減速していることをきちんと押さえて減速させるためにはどんな力が働くのかを考えさせるアプローチがあります。正解のグループもあるのですから、子どもたちに議論させてもいいのですが、結局は後者の視点で授業者が説明をしました。力は加速に影響するといった、考えるためのよりどころが整理されていないので、子どもたちが発表する答えに対して、最後は常に授業者が正解かどうかを判断し説明することになります。教師が求める答探しになっていました。

考えの根拠となるべき法則や現象は何かを、授業者は意識していません。因果関係がはっきりしないまま、恣意的な説明になっています。子どもは指示に従って作業に取り組みますが、根拠を持って考えることはできていません。結果として子どもたちは課題の答を写して、覚えることになってしまいます。子どもが授業に集中して参加できるからこそ授業の組み立てがとても大切になるのです。
授業者は、私の指摘を前向きに受け止めてくれます。残念なことに、この学校には若手の理科教師しかいません。互いに学び合うにしても限界があります。市内の理科教師が集まって学び合うような機会をつくることが必要だと思いました。

この続きは次回の日記で。
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