子どもの発言を引き出すことの難しさを感じた授業

昨日の日記の続きです。

3年生担任の初任者の国語の授業は、「ちいちゃんのかげおくり」で主人公の気持ちを考える場面でした。
参観者がいるせいでしょうか、子どもたちの集中度が低いことが気になります。授業者も黒板に向かってしゃべったりと、子どもをしっかりと見ることができていません。子どもたちの状況に関係なく授業を進めてしまいました。授業者もちょっと緊張してしまったようです。

前時に何をやったか復習しますが、子どもの発言を「そうだね」と受け止めるだけで、「どんな意見があった?」「あなたは、どんな考えだった?」といったことを聞いたりはしませんでした。この日は、前時にまとめたことをもとにグループで考えを伝え合う活動をします。一度中断しているので、考えたことを思い出させることが必要になります。

グループで「ちいちゃんに4つのかげが見えた理由」を話し合う活動をします。グループでの話し合いのルールを授業者が確認します。ルールを明確にするのはよいことですが、この時期ですので子どもたちに言わせるか、確認をしなくてもできるようになっていてほしいところです。また、班に司会者がいることも気になります。自然に聞きあえるようにしたいところです。
授業者が話せなければ書いたことを読んでもいいと言ったためか、ほとんどの子どもが読んでいます。その時考えたことを思い出せないことも原因としてあると思います。そのため、発表する子どもは下を向いてしゃべるので、子ども同士の視線が合いません。友だちの発表を全く無視している子どもも目立ちます。子ども同士の関係がまだできていないように感じました。また、話し合うためには、根拠を明確にすることが必要ですが、授業を通じてあまり意識されていません。結局しゃべっただけで終わってしまいます。子ども同士がかかわるためにどのようなことが必要かを考える必要があります。

発表をさせる前に「いっぱいいい意見があったよ」と、子どもたちの発言意欲を高めようとしますが、子どもには響きません。3年生ぐらいになると自我が発達してきますから、こういう言い方をされても、自分の書いたものがいい意見と言われたのだとは思いません。また授業者の「いい意見」というはどういうものか子どもたちにはよくわかりません。リアリティがないのです。具体的に伝える必要があります。個別に作業しているのであれば、机間指導の時に線を引いたり○をつけたりしながら、「○○がいいね」とどこがどのようによいのかわかるようにほめておくといったことが必要です。グループの時は、聞くことを大切にするためにも、「なるほどと思った意見を教えてくれる?」と友だちの考えを言わせたり、「どんな意見があった?」グループの話し合いの内容を発表させたりするとよいでしょう。

挙手指名で進め、子どもの発言を共有することなくすぐに板書するので、子どもたちは友だちの話を聞きません。また、子どもが理由を含めて話していても、授業者は結論だけを板書します。根拠を共有するという発想がないのが残念です。一問一答で進み、子ども同士をかかわらせるような場面がありませんでした。

子どもたちは授業者の指示にしたがって教科書を見たりはするのですが、それが発言にはつながりません。発言をすることに価値を感じていないのです。子どもたちの発言をポジティブに評価していないことがその一番の理由のように思います。「教科書の本文から考えてくれたんだ」といった評価もするのですが、子どもにとってはほめられたようには感じません。「本文に書いてあることをもとに考えることはとても大切だね。素晴らしい」とはっきりとほめ、「そこの文をみんな読んでみて。そこからどんなことが言えるかな?」というようにつないでいくことが大切です。
また、それまで考えさせていなかったことを子どもたち問いかけますが、突然問いかけられても、すぐには反応できません。考えたり、相談したりする時間が必要です。授業者は子どもの発言を引き出せないので、一部の子どものつぶやきと発言をもとにどんどん説明します。ほとんどの子どもは置いてきぼりです。子どもたちにとって全体追求の場面は他人事になってしまいます。

最後に「家族に会えて、ちいちゃんはほんとうにうれしかったのか」を考えさせました。授業者は単に「家族と会えてうれしい」という読みにならないようにしたいと考えていましたが、ちいちゃんの気持ちが読み取れる本文の記述は、「きらきら笑っている」という記述しかありません。ここは、ちいちゃんの気持ちではなく、「夏のはじめのある朝、こうして、小さな女の子の命が空に消えました」という記述をもとに、作者が伝えたい思いを考えさせたいところでした。

授業者は子どもの発言を引き出して授業をしたいと考えています。とてもよい姿勢だと思います。そのためには、子どもの発言を受容し、ポジティブに評価することで、たとえ間違えても恥ずかしくないという雰囲気を学級につくる必要があります。ちょっと「首をかしげた」「うなずいた」、そういった反応を見逃さずポジティブに評価して、発言につなげていくことも大切になります。まずは、ここから始めてほしいと思います。もちろん教科の内容についての勉強も欠かせませんが、基本となるのは安心安全な学級づくりです。あせらず、一つずつ課題をクリアしていってほしいと思います。

全体に対しては、子どもたちと先生方の関係が良好なこと、基本的な授業規律は問題ないことを伝えて、次の課題として「子ども同士をつなぐこと」「教科としてどのような力をつけるのかを意識して授業を組み立てること」をお願いしました。
また、課題を子どものものとするためには、天下り的に授業者が課題を提示するのではなく、子どもを揺さぶったり疑問を持たせたりすることが大切なことを、具体的な例をもとに話させていただきました。

この学校だけでなく、この市の小学校全体で先生方の基礎的な力が上がってきているように感じます。素直で前向きな先生が多いのだと思います。ここからは、これまでのように急激に進歩が見えるとはいかないでしょう。地道な努力を続けて少しずつ変化を実感できるレベルだと思います。あせらずに、学校全体で授業改善を続けてほしいと思います。
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