単元で教えるべき概念を理解することが大切

前回の日記の続きです。

1年生の授業は算数の大きさ比べの場面でした。直接比べることのできない物の長さを、テープを使って比べる活動です。

授業者は緊張しているのか表情が少しかたくなっています。そのせいか、子どもたちも今一つ落ち着かず、教科書を開かせた後なかなか話を聞く態勢になりません。しかし、授業者はその状態のまま話し始めました。また、結局この時間の最後まで教科書を使う場面はありません。なんとなく指示を出していることが気になります。

前時の復習で何を使ったかをたずねます。ここで大切なのは、「何をつかった」ではなく「どのようにして」です。鉛筆やテープを使ったようですが、鉛筆のいくつ分、より大きい小さいという使い方をしたのであれば基準をもとに考える、単位につながる発想です。同じ長さのテープで比べるという使い方であれば他の物に長さを写して(対応させて)比べる半抽象化につながるものです。前時にどのようなことを押さえたかわかりませんが、復習ではこういったことを意識した言葉を引き出すことが大切です。ただ、「鉛筆」「テープ」を使ったでは復習にはならないのです。
長さを比べる時のポイントを子どもたちに確認します。「はしをそろえる」「ぴんとのばす」「テープをつかう」です。ここで大切なのは、比べるもの長さと同じ長さのものを使って比べることです。この長さが「同じ」というところを押さえずに、ただやり方のポイントを教えては意味がありません。解き方を教えるのと同じ発想です。別のものに長さを写すという算数・数学的な考え方を押さえてほしいのです。また、言葉の混乱もあります。長さを「比べる」と「測る」の両方の言葉が出てきます。ここでは、まだ「測る」という概念は明確になっていません。あくまでも、比較しやすいもの、同じものに長さを写して「比べる」という半抽象化の段階です。

この日の課題は、教室の端にある机を出入り口から運び出すことができるかどうかです。どうすればいいのかを考えますが、ここで大切なのは、何と何の「長さを比べれば」いいのかを明確にすることです。ここをきちんと押さえていないので、子どもからは授業者が期待した答えが出てきません。机を動かすことを考える子どももいます。「動かせないものの長さはどうやって比べればいいのかな」と後からこの課題のポイントを授業者が言ったり、「『これ使うといいんじゃない』というものはない」と問いかけたりして、子どもからテープを使うという答を出させようとしますが、なかなか上手くいきません。
箱を使って比べるという意見が出てきます。子どもは机を運び出すので、面でとらえたのです。とても素直でよい発想だと思います。しかし、授業者はそれを評価することができません。「そのやり方もあるねえ」と受け止めたように見せますが、やり方「も」といった時点で、他の答を求めていることが子どもに伝わります。また、子どもが友だちの発言に対して、「正解だと思います」といった反応をすることも気になります。授業のいろいろな場面から、日ごろから正解探しの授業になっていることが伝わってきます。
授業者の期待しない答であっても、「なるほど」と認め、「いいね、どんどんみんなの考えを聞こう」と他の子どもに意見を出させて、それをもとに後から修正していけばよいでしょう。
「どれがいいと思う」と子どもに問いかけますが、一人ひとりの意見を全体で共有していません。どんな考えがあったのかの整理もしていませんので、子どもたちはどの意見と答えることはできません。子どもからは「ノート何冊分」という新しい意見が出てきます。面白いのですが、それがどういうことなのかをきちんと確認しません。ノートの辺の長さで考えているのか、ノートを面として考えているのかがわからないのです。子どもたちは、とにかく自分のアイデアを言いたいばかりです。ブロックをつなげるという意見も出てきますが、どこの長さとどこの長さを比べようとしているのか明確にならないまま、何を使うのかのアイデア勝負になってきました。何が課題なのかが焦点化されないままどんどん拡散してしまいました。

「授業者は一番ちゃんと『測れる』のは?」と問いかけますが、言葉も混乱していますし、「ちゃんと」というのはどういうことか明確にしていないので、根拠を持った話し合いになりません。子どものテンションは上がるばかりです。「ちゃんと」ということを、「固いもの」にすればよいと考えた子どももいます。これは子どもにとっては自然なことです。ピアニカのケースを使うという意見が出てきます。「測る」と「固い」の2つの視点で考えたのでしょう。ピアニカのケースでは長さが足りないことを指摘すると、他のも使ってと一所懸命に説明をしますが、他の子どもは聞いていません。
授業者は、机のこの部分を「測りたい」と説明を始めます。机の「大きさ」という言葉も使ってしまいます。今まで子どもたちがやってきたこととつながらない言葉です。こうなると、子どもたちがこれまで考えてきたことと、この後がつながらなくなってしまいます。

では、どうすればよかったのでしょうか。課題の提示の場面で、まず、「机を運び出したいけれど、出入り口のところまで持っていってから運び出せないじゃ困るね」と動かさずに運び出せるかどうかを考えたいことを明確にします。その上で、机をどの向きで運び出せばよいかを簡単に確認し、どこの長さとどこの長さを比べてどうなれば運び出せるかをはっきりとさせておきます。そして、「どうやって比べればいいだろう」とするのです。
この課題のねらいは、何を使うのかではなく、直接比べられない場合は、長さを別の同じ長さのものに写せばよいことに気づくことです。「同じ長さ」をキーワードにして、話し合いは進めればよかったのです。

結局、授業者がテープを使うのがよいことを説明して、子どもたちに机の長さを写し取らせます。こうなると、子どもたちはただ自分がやりたいばかりです。しかし、机は一つなので全員がやることはできません。指名された子どもだけです。指名してもらおうと、子どもたちのテンションは上がるばかりです。こういった活動は、全員がやれるものにしたいところです。少なくとも、友だちがやっている時に、何に注目すればよいのかが明確でなければ、ほとんどの子どもは集中して様子を見ることもしません。全員参加の工夫が必要です。

最後は、グループでテープを使って測りたいものを決めます。子どもたちの活動の目的がいつの間にかテープで「測る」ことになって、ねらいがずれてきています。こうなると「測る」という概念が混乱してきます。教科書はこういったことを意識して用語の登場の順番や使い方を考えていますが、授業者は理解できていなかったようです。結局子どもたちは、算数・数学的には何も学ぶことなく終わってしまいました。

授業者は、子どもを受け止めることや、授業規律の基本的なことはできるようになっていました。ちゃんと進歩しています。しかし、いつも言うことですが、だからこそ、教材研究がとても大切になるのです。この単元ではどんな概念を身につけさせるのかがわかっていません。この授業で、何を思考させるのか、どんな言葉が出てくればねらいにつながるのかといったことが明確ではありません。そのため、自分の考える答を引き出そうと子どもを誘導することばかりになってしまいました。子どもから出てこないと、結局は自分で答を言うことになってしまいます。この壁を破ることはそれほど簡単ではありません。各教科・単元で身につけさせることは何かをきちんと理解し、子どもの視点で教材を見直すことで、子どもの言葉で授業を組み立てることができるようになります。ここまで着実に進歩していているのですから、あせらずに、このことを意識して毎日の授業に取り組んでほしいと思います。そうすることで、必ず結果は後からついてきます。これからも努力を続けてほしいと思います。

この続きは明日の日記で。
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