理科の単元の導入について考えさせられた授業

中学校で授業アドバイスをしてきました。市内の全小中学校での授業アドバイスの一環です。この日は、若手の理科と数学の授業研究でした。

理科は2年生の「音の正体を考える」という、音の単元の導入の授業でした。
授業者の表情はよく、子どもたちも安心して授業に参加していました。子どもたちは指示に素早く従えます。授業者が、大太鼓や音叉、モノコードで音を出してみせます。ワイングラスに水を入れてふちをこすることで音を出してみせると(グラスハープ)、子どもたちの目は、やりたいという意欲を見せます。子どもたちを意欲的にする仕掛けとしてはよかったと思います。
この日の課題「音の正体を探ろう」を提示して、教師が準備した物を使って、音が鳴っている時の共通点を見つけることを指示しました。なかなか考えた導入なのですが、課題が天下りなのが残念です。また、音の正体を探るという課題と、音が鳴っている時の共通点を見つけるという目標の関係も明確でありません。課題の解決の方法を教師が指示をしたのも気になります。どんなことに着目すればよいかは、子どもたちから出させたいところでした。この道具を使って、どんなことをすれば音の正体を探ることができるのか、いろいろと意見を言わせたいところです。

子どもたちは、音を出すことに意識が集中していました。共通ということはあまり意識できていません。モノコードの絃を指で押さえて鳴らす子どもや、ワイングラスの水面の様子を見ている子どももいますが、そういった行動やそこで気づいたことが共有される場面がありませんでした。
ここでいったん活動を止めさせました、子どもたちに実験を止めて授業者に集中するように優しく促します。柔らかでよい指示です。子どもたちに発表をさせますが、挙手は3人です。指名した子どもが「音が大きい方が、振動が長い」ということを言いました。なかなか面白い意見ですが、授業者はすぐにこの「振動」を拾って、「震えている」という言葉で説明しました。「どうも振動している」と子どもたちに確認してから、「どこが振動している?」と新たな課題を与えて再び実験をさせました。「2段階で実験するとよい」という私のアドバイスを受け入れてくれたのはとてもうれしいのですが、あまりに急ぎすぎでした。まず、発言した子どもは、音が大きいと音が長く持続することを伝えたかったのですが、その伝えたかった部分は無視されてしまいました。発言した子どもは釈然としなかったと思います。また、他の2人の子どもや挙手しなかったけれど何かを見つけた子どもたちの意見は取り上げられません。先生は振動のことを言ってほしかっただけなんだと、子どもたちは思ったに違いありません。
ここは、「同じようなことに気づいた人はいない?」と持続時間のことを確認し、他の2人の子どもの意見を聞き、それから「振動という言葉が出てきたけれど、それってどういうこと?」「どれも振動していた?」と最初の「共通」という視点で整理、焦点化するとよかったでしょう。「音と振動は関係あるのかな?」「振動していないと音はでないの?」と子どもたちに問いかけてから、「振動に注目してみようか。何を、どこを見ればいい?」と実験観察の視点を子どもたちに考えさせてから、再度実験をすればすっきりしたと思います。

子どもたちは、それぞれの音源のどこが振動しているのか観察をします。グループでまとめますが、今度はかかわり合いが出てきます。太鼓にこだわり、叩いた反対側が振動していることを確認して、太鼓の中も振動しているはずだと考える子ども、ワイングラスの水が波打っていることに気づき、振動しているのはガラスか水かと考えている子ども、面白い発言がたくさん聞かれます。子どもたちが発表用のまとめを書きますが、どこが振動しているのかはグループによって微妙に違います。この違いを発表でどのように扱うかが授業のポイントになります。各グループが黒板に貼ったまとめに、授業者は余計なコメント加えずになるほどと認めていきます。授業者は他のグループが書かなったことを「やってみよう」と子どもたちに再度やらせて確認させました。これはとてもよい姿勢です。子どもたちもとても真剣に取り組みます。ワイングラスについては、水が振動していることに対して、水なしでも音が出るかどうかをやらせます。とてもよいことなのですが、こういった指示が常に授業者から出てくることが気になります。「水とガラス」「水」「ガラス」どこが振動しているのか、「どうやって調べる?」と子どもたちに問いかけることが必要です。常に先生が判断して指示するのではなく、自分たちで考えて実験をするという姿勢をつくりたいところです。
「振動が上から下へ伝わっている」ということを書いているグループもあります。上も下も振動しているのではなく、「伝わっている」という言葉を使っているところに、理科としてはこだわりたいところです。「どういうこと?」と聞くことで、「叩いたところではないところ」が振動したこと、そこから「伝わった」と考えられるという推論を明確にできたと思います。

最後は、教師が「振動で音が生じている」とまとめましたが、これも残念なところです。ここでは、導入なので無理にまとめる必要はありません。振動で音が「生じている」というところまではこの日の実験からは言えません。逆に「地震って音がする?」「地面が振動しても音が出る?」などと揺さぶっておきたいところでした。子どもたちにとって、「実験」と実験から「考えること」が分離しています。教師がその時間の内容をまとめてくれるのであれば、子どもたちは考えなくても困りません。せいぜい教師の求める答探しをするだけです。「音と振動は関係がありそうだね」くらいにしておくか、子どもたちが気づいたことをまとめさせて、たくさん発表して終わるだけで十分だと思いました。

授業者だけでなく、理科の担当の先生方が一緒になってつくった指導案のようです。とても意欲的な授業だったと思います。この活動を活かす流れについて考えたくなるものでした。次のような流れを考えてみました。
「音って何?」「音って見える?」といったことを子どもたちに気軽に答えさせます。知識のある子どもが「振動」などと言った時には、腰を振って「振動しているけれど音がする?」と揺さぶります。「よくわからないことがあるね」と疑問を持たせておき、「これから音について学習して、こういったことに答えられるようになろう」と単元の目標を設定します。その上で、どんな実験をすればよいかを子どもたちに考えさせて、「すべてができるかどうかはわからないけれど、音を出せるものをいくつか用意したからこれらを使って音の正体に迫って」とすると、より子どもたちの課題となったと思います。
実験で使う音源についても、グラスハープの鳴らし方の説明程度に抑えてできるだけ早く実験に移ります。全員が実験をしたと思われるところで、一度どんなことをしたかと、その結果を中間発表させます。ここが難しいところですが、子どもから出てきたことを、いくつかの視点で整理していきます。「振動」「伝わる」「大きい・小さい」「高い・低い」といったことから、もう一度視点を定めて実験をさせ、最後に子どもたちの実験結果をできるだけ多く発表させます。その上で、みんなが見つけたことをきちんと説明できるように、これから音の学習をしていこうとして、導入の時間は終わるのです。
子どもたちから出てきたことはまとめておいて、いつでも取り出せるようにしておきます。この後の学習に合わせて、この実験で見つけたことを説明するという課題を与えることで導入が活きてくると思います。

意欲的な授業のおかげで、私が今まで考えていなかった理科の導入の形を見つけることができたように思います。私にとっても学びの多い授業でした。

数学の授業研究については、次回の日記で。
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