資料を活かす授業展開の大切さを感じる

昨日の日記の続きです。

2つ目の授業研究は4年生の社会科の交通事故をなくすために何ができるかを考える授業でした。
前時の復習で、交通事故を減らすのにどんな取り組みがあったかを聞きます。ノートを見てもいいと指示をしたのですが、全員の手が挙がりません。授業者の指名の声がちょっと強いのも気になりました。何となく圧力を感じてしまいます。こんなことも子どもの挙手が思ったより少ない原因があるのかもしれません。とはいえ、教室全体は授業規律もしっかりして、学級経営は上手くいっているように見えました。
講習会という答に対して、その内容を聞いたのですが発言者は答えることができません。他の子どもからもなかなか出てきませんでした。子どもたちは、まとめとして板書されたものしか意識していないように思います。注意が必要です。
子どもの発言をしっかり受容することはできるのですが、発言する子どもとだけで授業が進んでいきます。また、板書をする時に勝手に言葉を足す場面もありました。先生の求める答探しの授業になる危険性があります。言葉が足りなければ子どもたちから出させるようにする必要があります。一問一答を止めて、同じ質問に何人にも答えさせることが大切です。

子どもたちに交通事故件数のグラフを見せて、読み取れることは何かを聞きます。「気づいたこと」ではなく、「読み取れる」という言葉を使ったのは社会科の視点を意識しています。子どもからは、「○○年が一番多い」「……ちょこっとずつ減っている」「……より増えている」といったことが出てきます。よい読み取りができています。残念なのが、こういった子どもたちのよい読み取りを価値付けしていないことでした。授業者が、「一番多いところに目をつけたんだ」「『ちょこっとずつ』と変化の仕方まで読み取ってくれたね」(これはグラフの見せ方でも変わって見えるので、別の機会にそのことに触れることが必要でしょう)「……年と比較したんだね。他の年と比べるとどうかな?」といった言葉を返すことが必要です。子どもたちが育ってくれば、「今の意見は、何に注目して読み取ったのかな?」と子どもに視点を言わせるとよいでしょう。子どもたちに資料の読み取り方を身につけさせてほしいと思います。また、「同じことに気づいた人いるかな?」と挙手させたり、「同じでいいから読み取ったことを聞かせて?」と発言させたり、「どう、今の意見に納得した?」と気づかなかった子どもに納得するかどうかを問いかけたりすることも必要です。一部の子どもとだけで授業が進まないように意識してほしいと思います。

どんな時に交通事故が起きやすいかを子どもに問いかけます。「急いでいる時」「赤信号で渡る」といった意見が出てきます。授業者は子どもの意見を受け止めますが、深めることはしません。ここは、「急いでいるとどうして交通事故が起きやすいの?」「赤信号で渡るのはどんな時?どうして?」と交通ルールを守ること心情との関係を押さえておくとよいでしょう。前の時間にやった取り組みと結びつけて、講習会といったものがどうして事故対策としてあるのかに気づかせてもよかったでしょう。
ここで授業者は、子どもの原因別事故件数の資料を見せました。まずは、歩行中です。この資料から読み取ったことを発表させます。原因を子どもの側から見た資料で、「違反がない」ことが一番多いのがわかります。授業者としては、自分は違反していなくても事故にあうことに着目させたかったのですが、当然子どもからはそれ以外にも色々なことが挙がってきます。中に、表の一番数が少ない項目を「○○が一番少ない」と答える子どもがいました。表には「その他」の項目もあります。授業者は子どもの間違いを否定しなかったのですが、「その他」の意味をきちんと教えておく必要がありました。
続いて、自転車での同様の資料を見せて、今度はグループで情報交換させました。それぞれが自分の意見を言った後、動きは止まります。情報交換してという指示ではそれ以上動かないのです。あまり意味のないグループ活動でした。次第に子どものテンションが上がっていきます。ここでは、歩行中より自転車の事故が圧倒的に多いことに気づかせたいところですが、ほとんどのグループではそのことは出ていませんでした。2つの資料を比較する意見が発表される場面があったのですが、授業者は価値付けしませんでした。もったいないと思いました。

ここまでに多くの時間を使ってしまいました。事故を減らす、事故にあわないためにどうすればいいのかを資料から「考える」ことがこの授業のねらいです。読み取りよりも考えることに時間を使いたいところです。早く問題を焦点化することが必要でした。
この授業であれば、どんな時に交通事故が起きやすいかを聞いた時に、交通ルールを守ることが事故防止に大切だということを意識づけておいて、「じゃあ、君たち子どもの事故原因で多いのは何だと思う。信号無視?……」と資料にある原因のいくつかを例示して、子どもに言わせることや、「君たちは普段歩くことが多い?自転車に乗っていることが多い?事故が多いのはどちらかな?」と予想させることをしておくとよかったでしょう。その上で資料を見せれば細かい読み取りは必要なく、ルールを守っても事故にあうことをすぐに焦点化できます。「じゃあどうすれば事故を減らせるのだろうか?」とせまれば、この日の課題に子どもたちは深く入ることができたと思います。ここでグループ活動にすれば、かなり動きは違っていたでしょう。

授業者はこの後、校区の写真を子どもたち見せて、気をつけることはあるかと問いかけます。子どもたちは意見を出すのですが、資料と関連づけた意見ではありません。資料を見ながら、この場所ではどんな事故が起きやすいかといったことをまず出させて、それからどんな対策をするとよいかを考えさせてもよかったでしょう。これまでの学習と関連づけて、「ミラーをつける」「○○注意の看板を立てる」といったことが出てくると思います。
この後、グーグルマップを使って学校からの道をストリートビューで見せながら、どこで注意が必要かを子どもたちに言わせました。活動としては面白いのですが、ねらいとつながる活動なのかは疑問です。最後は子ども目線でのまとめでした。子どもたちだけの問題ではなく、社会としてどう対応するかが問題です。前時にやった社会の取り組みと関連づけて、もう一度見直すことが必要だったと思います。

この学級の雰囲気のよさを感じる場面がありました。事故につながりそうな経験を子どもたちたずねた時に、信号無視したことを話してくれる子どもがいました。その発言に対して、子どもたちは批判的な反応を示しません。何を話しても安心な学級づくりができているように思いました。

資料や活動はなかなか面白かったのですが、この時間を通じて柱になることは何か、ゴールはどこかということが明確でなかったために、子どもたちはただ指示に従って活動するだけでした。社会科としての力がついたのかはちょっと疑問です。資料を活かす授業展開を考える必要がありました。授業者にはこういったことを指摘しながら、ここで示したような流れを参考として提示しました。授業者はスッキリしたと言ってくれました。学級の基盤がしっかりしてこその授業ですが、その点、この先生は問題ないと思います。だからこそ、深い教材研究、授業研究が求められます。このことを意識して、これからも努力を続けてくれることと思います。これからが楽しみな先生でした。

全体にお話しする時間をいただきました。
全体として授業規律や、子どもたちとの関係は良好です。個々の子どもたちの発言を受容することもできています。課題は、子どもの発言をつないで、広げ、深めることです。また、授業の課題が子どもたちのものになっていないように感じる場面も多くありました。そこで、「アクティブ・ラーニング」についての解説と合わせて、子どもたちが自分で課題を持つためにどのようなことを意識すればよいかといったことをお話しさせていただきました。
2年間で4回訪問させていただきましたが、学校全体の力が上がっているように思います。先生方が、努力されていることがよくわかります。次の課題もきっとクリアされることと期待しています。
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