教材研究の大切さを強く感じる

小学校で授業アドバイスをしてきました。市内の全小中学校での授業アドバイスの一環です。この日は学校全体の授業の参観と、若手2人の授業研究でした。

全体として子どもたちは落ち着いて授業に参加しています。先生方との関係のよい学級が多く、授業規律の心配もなさそうです。ただ、授業者と子どもとの個の関係で授業が進む場面が目立ちました。全体の場で子ども同士のかかわり合う場面が少ないのです。また、課題が子どものものになっていないと感じる場面が多くありました。教師から与えられた課題を指示に従って取り組んでいるのですが、解決したいという意欲があまり感じられないのです。
この学校も、次の段階に移ってきているように思います。授業規律や教師と子どもの基本的な関係は問題がないので、子どもが自ら課題をみつけ、主体的に取り組み、子ども同士がかかわり合って学ぶ授業を目指してほしいのです。これがまさに今言われているところの「アクティブ・ラーニング」だと思います。

授業研究の1つは、4年目の教師の3年生の算数の授業でした。結合法則の学習場面でした。
子どもたちの授業規律はとてもよく、授業者との関係も良好です。子どもたちは先生のためにも頑張ろうとしているのがよくわかります。「問題文を読みたい人?」という問いかけに、たくさんの子どもが挙手しました。指名された子どもが読むと、全員が読み手をしっかりと見ます。そのようなルールになっているのでしょう。徹底されていることがよくわかります。読み終ると拍手がありますが、これは形式的になっているように思われます。読み終った子どもの表情がうれしそうにならないからです。授業者が具体的によいところを評価してあげたいところでした。

2mの雲梯があって、木はその3倍の高さ、校舎はその木の2倍の高さです。この校舎の高さを求める2つの方法をもとに、結合法則を考えるのがこの日の課題です。
前時にやった、2つの計算のやり方を復習します。子どもたちの手が半分ほど挙がります。微妙な数です。授業者は指名で答えさせ復唱し、すぐに板書します。これでは、本当にわかっているか確認できません。「順番に計算する」という答そのものが大切ならば、すぐに板書せずに、挙手した、しなかったにかかわらず何人も続けて指名し、定着させることが必要です。また、その内容が大切ならば、「順番に計算する」を何人かに確認した後、「最初に何を計算する?」「次に何を計算する?」と具体的に計算を確かめていきます。「2×3」が出てくれば、「何を計算したの?」と問い返します。出てこないようであれば、「2って何?」「3って何?」ともっと細かく聞くのです。復習として最初に課題とは別の問題を1題やってもよいでしょう。
続いて、もう一つのやり方をたずねます。「先に何倍かを考える方法」と一人が答えると、やはりすぐにそれを板書します。ここで「まず何倍……」と「先に」が「まず」に置き換わっていました。もし、「まず」に直させたいのなら子どもに訂正させることが必要です。ここでは、その必要はありませんから、そのまま「先に」を使えばいいのです。「まず」に置き換えることで、子どもは「先生は、まずと言ってほしかったんだ」と思ってしまいます。先生の求める答探しを始めるようになっていきます。できるだけ、子どもの言葉をそのまま使うようにしてほしいと思います。
「順番にやる」と同じように確認をした後、結合法則の布石として、どちらのやり方でも「答は同じ」ことをしっかりと押さえておくことが大切です。

ワークシートには「ひなたさん」と「たいちさん」の考えの図が書いてあり、それぞれの下に、□×□=□と穴埋めの式が2段積み重なっています。授業者は2人のやり方がどちらかを確認します。挙手で指名した子どもの答に、他の子どもが「賛成」と声を出します。しかし、全員がきちんとわかっていっているわけではありません。不安な様子が見てとれます。個々に言わせて確認することが必要です。
この場面では、子どもはやり方を確認する意味がよくわかっていません。図から式はつくれます。「順番にやる」「まず何倍か考える」といった「やり方」をなぜ先に考えるのかよくわからないのです。授業者が「やり方」にこだわったのは、このあと2つの式を一つにするための布石となる、考え方の説明を書かせるのに、「順番にやる」「まず何倍か考える」というやり方を意識させるとよいと思ったからでしょう。式を書かせた後、これも説明のための布石として、式に単位を書き込ませます。気持ちはわかりますが、この一連の活動はあまり意味があるとは思えませんでした。また、ここで、倍を単位として書き込みました。倍は単位ではありません。「×□」が□倍です。ここが混乱していると、何倍の何倍がわかりにくくなってしまいます。

授業者としては充分準備ができたので、やり方の説明を書くように指示をします。ワークシートにはそれぞれ「まず、木の高さを計算します」「まず、校しゃの高さがうんていの高さの何倍かを計算します」と書いてあるので、その続きを書くのです。子どもたちは「説明」と聞いたとたん嫌な顔をしました。何を書いていいのかわからないのです。先生の期待に応えたいのに答えられない、どうしようという思いのように見えます。いきなり説明しろと言われても、個々の作業がバラバラでどうつながっているのかわからないのです。どうしていいかわからない子どもがほとんどで、なかなか手がつきません。結局、発表では挙手が数人で、指名された子どもの答を聞いても子どもはよくわからない表情です。授業者はここで「説明は後にする」と、説明にこだわることをあきらめました。それなりによい判断なのですが、ここで式の意味をきちんと押さえていないので、次の2つの式を一つにすることが、またわからなくなってしまいました。
ここは、いきなり説明を書かせるのではなく、どのようなことを言えばいいのか、実際にやって見せることが必要です。単位ではなく、式の意味をいろいろな形で言わせるのです。「2×3=6」からは、「2×3は何を計算したの?」「2は何?」「3は何?」「6は何?」と聞いたり、「×3ってどういうこと?」と3「倍」を押さえたりするのです。数字の上に、「うんてい」「木」と書くことで、「うんてい」の高さの3倍が「木」の高さと言葉で説明できます。同様に「木」の高さの2倍が「校しゃ」の高さと言葉にすればよいのです。もし、書かせることにこだわるのであれば、「今の説明をワークシートに書いて」と指示すれば書けるはずです。3倍の2倍も、同様にして、「うんてい」の高さの6倍が「校しゃ」の高さといった言葉を引き出すのです。

ここで、図に2つのやり方を書き込むとよいでしょう。「木」のところに「うんていの3倍」「2×3」と書き込み、「校しゃ」のところに「木の2倍」「6×2」と「順番にやる」やり方を書き込みます。「まず何倍か考える」方法は、「うんてい」と「木」、「木」と「校しゃ」を結ぶ矢印を2倍、3倍に対して、「うんてい」と「校しゃ」を矢印で結んで「(3×2)倍」と書き込みます。そして、式と図、言葉を自由に行き来できるように、「式を見ながら言葉にする」「図を見ながら言葉にする」「式を見ながら図を指さす」こういったことを子どもたち何度もさせるのです。このようにして頭の中を十分に耕しておけば、式を一つにすることはそれほど難しくないはずです。
授業者は、2つの式で同じものがないかを注目させようとしますが、数字では属性が落ちているので、値が同じでも同じものとは意識できません。先ほどのように数の意味するものを意識させておけば、様子はかなり違ったでしょう。

式を一つにするのにかなりの時間を使いました。授業者は子どもの的外れな答もしっかり聞くことができます。好感が持てるのですが、なんとか正解を言わせようと「そうじゃなくて……」と発言を否定するような言葉を使ってしまいます。その場で視点を変えて新たに考えさせようとしても無理です。ここは、「なるほど」と受け止めて、次に進めばいいのです。
最後は教師主導で式を一つにして、計算の順番が違っても答えが同じことを「多くの数をかけるとき、順を変えても同じなります」とまとめました。かなり無理があります。一つの例でしか確認していないのに、常に成り立つことは納得できることではありません。せめて、値を変えて確認したり、図を使ってこのことが数値に影響されないことを確認したりすることが必要です。同様に、「多くの数」も確認が必要です。4つ以上の数でも成り立つことを子どもが納得することが必要です。残念ながら、算数・数学の本質的なところを押さえきれていない授業でした。

この授業者は学級経営や授業規律といった点ではよく頑張っています。だからこそ、教科の中身の理解、教材研究が強く求められるのです。説明で全く手がつかなった子どもも、練習問題では一生懸命に取り組みます。わかる、できるようなりたいとどの子どもも思っているのです。だからこそ、子どもたちがわかる、できるようになるための手立てを教師がしっかりと持たなければいけないのです。教師としての力がついてきたからこそ、次に求められるものは大きいのです。
授業後、とても素直に自分の授業を振り返ってくれました。自分でも、子どもたちがわかっていなかったことは痛いほど感じています。だからこそ、どうすべきだったのに気づけた時に、スッキリとしたと言ってくれました。日々の教材研究を大切にして、一歩ずつ前に進んでほしいと思います。

この続きは、明日の日記で。
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