反転授業の実際から考える

授業と学び研究所で、市で反転学習をとりいれている小学校の発表会に参加しました。実際に反転学習の授業を見ることは初めてだったので、とても楽しみでした。

公開されている授業を研究所のメンバーで分散して見学しました。私は4年生の理科の腕の曲げ伸ばしの仕組の授業を見せていただきました。
授業の開始前のウォーミングアップの時点では、子どもたちはとてもよく集中していました。授業者と子どもたちの関係もとても良好に見えます。この後の展開が楽しみです。
子どもたちが事前に見た学習ビデオで考えたことを電子黒板に全員分を映しだしますが、一つひとつは読みづらい状況です。授業者はその中からこの日の授業のめあてにつながるものをピックアップして拡大提示します。こういった場面での子どもたちの集中力が気になります。先生への指示に従いますが、自ら積極的に考えようとはしないのです。「筋肉が縮んだり、緩むと動く」という子どもの予習から「縮む」「緩む」を説明できる人と問いかけても挙手は一人です。この言葉が予習のビデオに出ているのであれば、それがわからないというのは問題です。実際には、ビデオでは「伸びる」という表現でした。予習ビデオに出ていないのならこれはその子どもが自分で勉強したことです。であれば、その子どもが説明すべきです。「縮む」に対しては通常「伸びる」が対応した言葉になりますが、あえて「緩む」を使っているのですから、ここはそのことを意識した展開にしたいところです。授業者の説明は「緩む」の意味をきちんと押さえているとは言えないものでした。「伸びる」のか「緩む」のかを課題にして展開しても面白いところでした。以前見たある教育用の動画では、ロボットアームがゴムの筋肉に圧縮空気を入れて腕を動かしていることで説明していました。こういった説明であれば「伸びる」ではなく「緩む」であることが理解しやすいでしょう。
いずれにしても、せっかく子どもたちが予習して考えたことがあるのですから、それをもとに全体で考えながら課題を設定したいところでした。
「どのような仕組みで腕を曲げ伸ばししているのか調べよう」がこの日のめあてでした。「調べる」がどのよう活動を意味しているのか興味の湧くところでした。子どもたちはめあてを素早く写します。こういう活動は集中して行います。子どもたちは、教師が求めることをよく知っているように感じました。
授業者はグループに1個筋肉マシーンを用意していました。真ん中で動く紙で作った腕の両側に、筋肉に見立てたビニール紐がくっついたものです。水が入ったペットボトルも用意しています。これを持って腕を曲げたり伸ばしたりして観察するためです。この他に一人1台のタブレットも使います。これらを与えて、グループでの活動が始まります。
子どもたちは、グループの隊形になる前に体を伸ばしたりごそごそしたりしています。ここまでは、受け身の時間だったようです。動きが遅いことが気になります。グループになった後、子どもたちは筋肉マシーンをパタパタさせたり、ペットボトルを持って手を動かしたりはしていますが、じっくり観察したり、友だちと意見を交換している姿は見られません。子どもたちのテンションが高いことが気になります。残り時間がわずかになって、まとめる指示が出ると、今度はビデオの音があちこちか聞こえてきます。多くの子どもがビデオを止めながらその説明や図をもとにワークシートを埋めていました。「調べる」が答そのものを探すことと理解しているのかもしれません。自分でどうなっているのか体の動きを「調べる」ことにはなっていないようでした。「調べる」という言葉の理科的な意味を活動の前にきちんと押さえておくべきだったでしょう。

全体での発表では電子黒板にワークシートを映して、子どもは自分の席で発表します。子どもの発表を聞きながら、授業者は板書をしたりします。当然のことながら、子どもの視線はバラバラになります。板書を見ている子どもと電子黒板を見る子ども、どこにも注目していない子どもが多く、発表者を見ている子どもが少ないことも残念です。子どもが友だちの話を集中して聞かないことが印象的です。授業者が子どもの発言を他につなげずにすぐにまとめるので、必要性を感じないのでしょう。
「縮むと固くなる」といった気づきに対しても、本当にそれを確かめていない子どもはたくさんいるはずです。しかし、実際にそれを確かめさせることはしません。また、この気づきの科学的な視点での価値付けをすることはしません。理科として何を大切にしなければいけないのかが意識されていないように思いました。
腕を曲げると内側のテープが膨らむという意見がありました。筋肉が膨らむこととは少し違います。下手をするとテープが弛むと思うかもしれません。筋肉マシーンの位置づけがよくわかりませんでした。筋肉マシーンでは、ビニールの紐が筋肉です。ビニール紐をどうすれば腕を動かせるかという課題で使えば、子どもたちの思考は変わったと思います。できれば紐を貼り付けるところから始めたいところです。紐の関節側の端は、関節より少し先につけなければいけません。人間の体の構造と比較することで仕組みがよくわかると思います。
全体では腕を曲げると内側の筋肉が縮むといったことに収束させます。まとめに入るにあたって「授業者は内側が縮むと外側は?」と問いかけます。「縮む」という言葉も聞こえてきますが、取り上げることはしませんでした。また、「腕を伸ばすと?」という問いかけで、外側の筋肉が「少し」縮むと返す子どももいました。素晴らしい発言だと思います。よく観察していたのです。しかし、これも取り上げませんでした。時間がないのでこの時間で扱うことはできませんが、「緩む」にこだわれば、両側の筋肉が弛んでいる状態はどのような状態かを考えるきっかけになります。腕を伸ばしている状態は、外側の筋肉は少し縮んでいて、内側の筋肉は緩んで引っ張られて伸びるというような表現が出てくるかもしれません。子どものちょっとした言葉にも注意を払いたいところでした。
最後のまとめに入る前に、「みんなの体は何で支えられているか?」と全体に問いました。「骨」という答の中に「と筋肉」と答える声が聞こえました。しかし、授業者は「骨」と確認して進めています。予習ビデでは「骨と筋肉」となっていたのにです。これも気になる所です。
最後は、内側の筋肉が縮んで外側の筋肉が弛むと曲がる。外側の筋肉が縮んで内側の筋肉が弛むと伸びるというまとめで書いて終わりました。今までの、腕が曲がっている時はどうなっているかという議論と因果がいきなり逆転しています。先ほど述べたように、筋肉マシーンをうまく活用して、この橋渡しをしたいところでした。子どもたちは最後のまとめを一生懸命に写しています。答が大切であると考えているのでしょう。子どもたちが集中する場面に、子どもたちの授業に対する姿勢が見えるような気がしました。

この授業では、グループ活動中にビデオを見せる必要はなかったと思います。子どもたちが考えるためには、結論をまとめているビデオの解説はじゃまだったのです。反転授業は、教室では予習ビデオで学んだことを活用したり、考えを深めたりすることを目指すものです。そのためには、予習ビデオの内容に疑問を持たせることや、それを活用するための課題が重要になります。まず子どもたちに何を考えさせるのかを明確にして、トータルの展開をしっかりと考える必要があります。その上で予習ビデオはどのような内容にすればいいのか、教室ではどのような活動をすればいいのかを考えて組み立ててほしいと思います。もちろん、この市ではそのようなアプローチをとっていると思いますが、この日の授業からはまだまだ不完全だということです。この授業者の課題というよりは、市全体でどのようにしてブラッシュアップしていくかということだと思います。

授業後の全体での時間はあまりとられてはいません。この市や学校の取り組みの説明で終わりました。こういった取り組みの成果のデータは、まだ取り組んだ期間も短いのでなるほどと思うようなものは提示されませんでした。今回のような機会に、外部の方と一緒に授業検討をする機会を持つといったことも必要のように感じました。

実際の反転授業に触れて思ったのが、どんなやり方をしても教科や授業の本質をきちんと押さえる必要があるということです。理科の授業であれば、科学的なものの見方考え方は何か、理科で身につけたい力とは何か、その力を子どもたちにつけるにはどのような活動が必要なのか、そのことをきちんと押さえての授業展開であり、授業法であるということです。また、子どもたちを活動させるための基本的な授業技術も大切です。あたりまえの結論ですが、そのことを改めて考えることができた貴重な経験でした。よい学びの機会を得たことに感謝です。
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