理科の実験で大切なことを考える

前回の日記の続きです。

理科の研究授業は2年生のだ液の働きの実験の授業でした。
子どもたちは手元のワークシート見て実験の手順の説明を聞いています。ワークシートに書いてあるより少ない量にすると数値の訂正を説明した時に、変更をワークシートに書き込む子どもは数人しかいません。ちゃんと聞いていないのかと心配になりました。ところが、脱脂綿を誤ってビーカーと書き間違えるというミスについては素早く全員が書き直します。子どもたちはちゃんと聞いているうえに、数値の訂正はこの実験ではあまり重要ではないと修正するべきかどうかも判断しています。「今回の実験ではフィルムケースを使う」と言ってフィルムケースを提示しましたが、顔が上がりません。ところが、綿棒を使っただ液の取り方を実演すると全員の視線が授業者に集中します。ここでも子どもたちは、自分で判断しています。
子どもたちの授業規律は大変よく、授業者の指示もほとんど必要ありません。次に何をすべきかよく理解しています。一部の子どもの行動が遅れた時などに一言行動をうながすだけです。その際、一言「ありがとう」は忘れません。指示に従えるようになった後、指示がなくても自分たちで考えて行動できることを子どもたちに徹底しようとしていることがよくわかります。実験の後片付けでも、指示をしなくても一つの班が動きだしたと思ったら、すぐの全部の班が素早く行動を開始しました。

説明にかなりの時間を使っていました。その間、ほとんど授業者がしゃべり続けています。それでも、子どもたちは集中していました。実験の手順は子どもたちにしっかりと理解されているように見えます。しかし、なぜこのような実験をするのかという目的は今一つ明確にはなっていません。試薬としてヨウ素液とベネジクト液を使いますが、これについて特に子どもたちとやりとりをする場面がありません。前時にベネジクト液の性質を調べる予備実験をしていますが、一部の子どもははっきりと覚えていないようで、友だちに聞いている姿が見られました。聞けているのでよいと言えばそうなのですが、このことを全体で確認しておきたいところでした。
実験では、10分ほど変化を待つ時間があります。この空白の時間を授業者はどう使うかを工夫しました。実験の結果を予想させるのです。しかし、何か根拠を持って予想させようと思うと、何を前提とするかで子どもたちの思考や実験の位置づけは変わってきます。「だ液にはデンプンを消化する力がある」ことを前提にするのか、そもそも「だ液の働きがわからない」から実験をするのか、「ご飯を噛んでいると甘くなる」ことから出発するのかといった、その前提となるものによって変わるのです。それを明確にしていないので、子どもたちは単に試薬が変化するかどうかを予想して終わっているように見えます。最初は個人で予想するように指示しましたが、その後明確に班で相談するように指示をしなかったこともあり、子どもたちのかかわりはほとんど生まれませんでした。
「だ液にデンプンを消化させる力がある」という前提であるのなら、そこから結論を予想できます。「だ液の働きがわからない」ことから出発するのであれば、どんな力がありそうかを予想して、そのための実験を考えることから始まります。そして、もし予想が正しければ結果はこうなるはずだ、そうならなければこういうことが言えるといった議論をするべきです。「ご飯を噛んでいると甘くなる」ことから始めるのであれば、「甘く感じるのはなぜか?」「水を口の中に入れていても甘くならない」「肉はどうか?」といったことを子どもとやり取りすることから始めて、実験を考える必要があります。必要な実験を考えたからといってすべての実験を行うことができませんが、その場合は重要でない実験の結果を伝えて、大切な実験に絞って行えばいいのです。
また、実験は体温に近い場合だけで行っていましたが、これは天下りです。せめて常温で実験した結果を示して、「この実験結果から、だ液にはデンプンを変化させる力がないね」といった問いかけをして温度に注目させてから、温めることを引き出したいところです。
子ども同士のかかわりがないので、10分の時間でも余っていました。全体で考えを聞いて深めることをしてもよかったと思います。

ベネジクト液を温める時に、ゴーグルを手元に置いているのに、使っている子どもがいないことが気になります。また、試験管を直立させていている子どもや試験管の口を友だちの方に向けている子どももいました。ちょっと危険です。中には、そのことを子ども同士で注意しあえている班もありましたが、実験において注意すべきことはもう少し強く念を押しておくべきだったようです。
理科の実験の授業では、直接実験していない子どもが集中していない場面によく出会いますが、この授業ではどのグループもしっかりと集中して実験の様子を観察していました。とてもよい姿です。このような素晴らしい姿を見せてくれる子どもたちが、他の授業では今一つ集中しない姿を見せることもあります。この学年の課題です。
実験後、考察を書いてこの日の授業は終わりました。

教科を中心とした検討会では、全員参加させるための工夫について意見が交わされました。通常はだ液を口から直接取るのですが、日常生活では忌避される行動ですので、女子を中心に嫌がる子どもが多いようです。そこで、授業者は綿棒を使うことで、抵抗感をなくしました。その結果どの子もきちんと自分のだ液を取ることができました。ちょっとした工夫ですが、なるほどと思わせるものです。他の先生も早速取り入れるようでした。
私からは、ただ実験をするのではなく、実験から何を明らかにしようとしているかを子どもたちに意識させたり、仮説を検証するためにどのような実験をすればいいのかを考えさせたりすることを大切にしてほしいことをお願いしました。与えられた実験で答を予想するのは、知識を問う問題演習とあまり変わりはないのです。

この日は、数学の研究授業のための指導案の検討会も行われました。
1次関数の応用の最後の時間です。指導案を見ると、子どもたちの活動は意識されているのですが、この時間のねらいがどこあるのかがはっきりしません。授業者も揺れているようです。1次関数の応用でどのような力をつけなければいけないのかについて、いろいろと意見を出し合いました。授業者はまだこれだと納得できるところまでは煮詰まらなかったようですが、次回の検討会では明確になった指導案が出てくることを期待します。
この学校の数学科はほとんどが若手なので、数少ないベテランの存在がとても大きくなります。検討会でのベテランの発言は的を射たもので、課題が焦点化されます。こういった特別な授業だけでなく、日ごろの授業についてもベテランに相談する空気が広がっていくとよいと思います。

夏休みが明けてまだ日が浅い時でしたが、子どもたちのよい姿をたくさん見ることができました。2学期は行事が多い時期です。これをうまく活かして、子どもたちがより成長した姿を見せてくれることを期待しています。
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30