愛される学校づくり研究会

【第8回】鉄は熱いうちに打て! 1年生の生徒指導が3年間を決める!<苦しいことをどんどんやらせよ!―駅伝編>その1

オリンピックで毎日寝不足だった夏休み…。出校日前日も朝方までテレビに張り付きほとんど徹夜、そのおかげで「出校日の前の眠れぬ夜」がなく、少し眠気はありながらも久しぶりに出校日前日としては「気持ちいい〜!超気持ちいい!」朝を迎えることができた。

 しかし私は臆病者…。2学期始業式前日はやっぱり、眠ることができなかった。「オリンピック! 夏休み中やっててくれー!」と思いながら、大気汚染の権化と言われ、最後の車検を受けたばかりのこれで本当に乗れなくなる、オイル漏れ常習のパジェロで学校に向かった。私の心配とは裏腹に、実に静かな始業式で保健室も閑古鳥が鳴くほど暇な、平和なスタートとなった。そして、もうどの中学校も終わっている「体育大会」も無事終えることができた。

今年は3年の学年主任…。体育主任としての大きな行事も終え、3年主任としての業務に集中と言いたいところだが、私はやっぱり臆病者…。12月に行われる「小牧市民駅伝競走大会」なるものを盛り上げるために、市や校長会の無言の「しっかり参加しなさ〜い!」というプレッシャーに負け、校務分掌のどこにもない駅伝部顧問の活動に入らされる事になる…。トホホ…

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H16年度「小牧中学校の教育」より

 「俺は本当はやりたくないんだ〜!!!!!」と思いながら、体育大会終了と同時に3年生の生徒から
 「今年の駅伝練習はいつから始まるんですか?」
 「僕に今年は招待状は来るんですか?」
 「僕今年はAチーム目指します!」
という言葉をきかされ、体育大会後の休み明けから、朝早く学校に来て、ジョギングを始める生徒の姿を見てしまう…。

 そんな言葉や姿があったら、「今年も性根を入れてやらなあかんじゃねーか!」と行事でもない、ましてや自分が中心に指導することを言われたわけでもないのに、最も長期にわたる小牧中名物「駅伝部」の活動に入ることになる。

 「どうせやるならくそ意地でやってやろうじゃないの…」と子どもたちが体育の中で最もいやがる持久走をやらせるための作戦を立てる。「鉄は熱いうちに打て!」という私の生徒指導の基本に従い、「駅伝部活動活発化、1年をだまして伝統維持しちゃうぞ作戦」を今年も実行することにした。

 高橋尚子、野口みずきならいざ知らず、体育の授業で一番人気がないのが「持久走」である。今の子どもは興味関心・個性の重視のもと、苦しいことや辛いことは、子どものときからあまり強制されることはない。かってどの小学校でも行われていたマラソン大会など今はほとんど市内の学校では行われていない。

 これを体育大会後の「3年生のやる気」につなげるためには、やりたい、やりたくないに関わらず、何も知らない訳の分からないうちに、「苦しいことをどんどんやらせよ!」という信念を持って取り組むことが大切なのである。
 
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 このような訳の分からない招待状を、1年から3年までの約180名の生徒に各担任から、いかにも名誉な事のように渡してもらい、駅伝部説明会を開催し「駅伝部に参加し、がんばるといいことばかりだぞ〜!」とPRする。
 毎年話す内容は次のようなことである。
 


●3年間一生懸命頑張った先輩たちに、受験で失敗した者はいない。愛知県の有名校にも駅伝部から過去多く輩出している! 3年間エースとして頑張った者の中には、近年では愛知トップの○丘高校に見事合格したという実績もある。苦しいことに耐え抜くことによって強い精神力を身につけることができ、駅伝部員はみんな成功している! 君たちも参加すれば夢が叶う!

●全員参加で真剣に取り組むバスケットボール部やバレーボール部などは、スポーツの基本である足腰が鍛えられ、夏の大会では毎年好結果を残している。7人の侍ではないが、全てのスポーツは足腰の強化が基本だ! 熱い夏の大会は最後まで足が動いた方が勝ちだからな!

●車道のど真ん中を車を止めて走るのは気持ちいいぞー! 将来箱根駅伝とかテレビで見ているとき、<お父さんも駅伝選手として走ったぞー!>と自分の子どもに語ることができるぞ!

●粘りと根性が身に付き、自分自身を全てにわたり向上させることができる! それに、一本のタスキをつないでいく経験を通して、仲間を大切にする気持ち、仲間のために全力を出し切ることの喜びを感じることができるぞ!

●帰りが少し遅くなるので、参加者全員に自転車通学の許可もついてくるぞ! 登下校が楽だぞー!<はっきり言って練習に参加せず歩いて登下校した方が楽なのに、非日常感があるのか、子どもたちの参加意欲の大きな要因になっている。子どもはよーわからん…。>

●3年間続けたやつには牛丼を食わせてやるぞ! うそではないぞ! 本当だぞ! 先生はまじめに言っているんだぞ! だから3年まで頑張れよ!(ちなみに昨年は豚丼であったが…)
 


 などと、かなり大げさな美辞麗句を並び立て、1年生に「駅伝をやるといいことばかりなんだ」と思いこませ、活動に入っていく。すでに経験している2、3年生は「先生、また1年生をだましている…」と思いながらも、自分たちの道連れにしてやろうと否定することは一切しない。

 そして、駅伝部説明会の次の日からいよいよ活動が始まる。招待選手を含め、部活強制参加を加えると総勢220名ほどでの活動である。苦しいことを続けてやらせる作戦と、駅伝大会までの生徒の変容を1年生の様子を中心に数回に分けて伝えていきたい。

(鉄は熱いうちに打て!1年生の生徒指導が3年間を決める!<苦しいことをどんどんやらせよ! 駅伝編>その2につづく…)

(2004年10月4日)

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●杉浦 嘉一
(すぎうら・よしかず)

小牧中学校教諭。学年主任、保健体育担当、剣道部顧問、伝統の駅伝部総監督。年度末に校内で密かに出す「人事ファン」(杉浦の人事異動予想紙)はあっという間に売り切れ。お茶目な中に本質を突く学校教育論を書かせたら右?に出る者はいない。子どもの傍らにいつもいる存在であるように学校中を動き回っている。