愛される学校づくり研究会

黙さず語らん

★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。

【 第47回 】取り組み1年目の公開授業研究会

俄然張り切ってアドレナリンが出るような経験を、久しぶりに先週しました。私が今年度関わってきた春日井市立鳥居松小学校の、公開授業研究会が間近に迫っていました。協同的な学びを導入して1年目に公開研究会を開くという、余り例のない意欲的な試みです。しかも、佐藤学先生が講師として参加するというものです。

ところが直前に佐藤先生が体調を崩されて、参加できないという連絡が入りました。先生方も参加者も、佐藤先生がどんなお話をされるかに期待が高まっていました。どうしたらよいか、学校は動揺します。連絡を受けた私は、久しぶりにその日の内に対応するという現役時代を思い出す快い緊張感に包まれました。こういう状況になれば、頼れるのは日頃の仲間しかありません。幸いにも、その日にある研究会で会う方が何人もいます。

金田裕子先生(南山大学)が、参加申し込みをしていることがわかりました。それなら、あと一人異なる立場から人がいれば、面白い組合せになりそうです。幸いなことに、宇土泰寛先生(椙山女学園大学)からも参加可能とのお返事をいただけました。そうなれば、あとは構想です。日本中を探しても、佐藤先生の代わりが務まるような人はいませんから、私も含めて3人で鼎談という形で実施することにしました。

さて当日です。遠くは高知県を始めとする県外からも参加者を迎え、4時間目の全学級での公開授業、5時間目の特設授業、授業研究協議会と続きます。試行錯誤の初年度ということもあり、教室ではアレっと思うような場面も当然見られます。例えば、「どうですか」「いいです」のような、子ども同士のやりとりです。しかし、先生と子どもたちとの信頼関係の感じられる柔らかな雰囲気の場面も見られます。

特設の社会科の授業は、以前にうかがっていた構想とは違う授業デザインになっていました。その間に授業対象である瀬戸市で、授業者はいくつかの工場などを取材していたのです。隣の市でもありますし、授業者が現地取材を含めた教材研究をすることは当然の準備です。ところが、授業ではそれが裏目に出てしまいました。先生がこういう方向で考えて欲しいと願うことと、子どもたちが考える方向にズレが生じてしまったのです。

この種のズレは、授業にはつきものです。しかし、その後使用された資料が、ますますそのズレを拡大する方向に働いてしまいました。直前の教材研究の成果を整理しきれなかった面があったようです。教材についての教師の認識が広がり深まるほど、授業の構成をシンプルにする必要があるのですが、それは容易なことでありません。先生と子どもたちの関係は良く、最後まで必死に考えていましたが、追究しきれないまま授業は終わりました。私自身はこの授業を、前向きな今後につながる「失敗」だったと受け止めました。

授業研究協議会では、先生方から一人ひとりの子どもの学びについて語られました。各学年2学級ほどの規模の学校ならではの話し合いです。一人ひとりの子どもの以前の学びの様子や、他の場面での学びの様子を知っている先生方だからこそできる指摘です。ただ、どうしても、「話し合い=学び合い」ととらえがちで、言葉にはならない表情や動作にも注目し、その意味を解釈する、学びから授業のあり方を確かめるという面は弱かったように感じました。

さて、最後の対談です。簡単な打ち合わせだけで、用意された発言ではなく講師の本音の部分が出るように意図しました。東京の公立小学校での豊かな実践を持ち、附属の椙山小学校校長でもある宇土先生からは、なぜ問題の少ないはずの私立小学校で「協同的な学び」に取り組もうとしたのかを重点的にお話ししていただきました。大きなプロジェクト型の実践を得意とする先生は、それを実現するための方法としても「協同的に」やらなければ意味がないと考えているようです。

佐藤研究室出身の金田先生は、「学びの共同体」で使われるグループやコの字を、現在の時点で考えられている最善の方法ではあるが、ビジョンや哲学を実現することが目的なのだと明確に話されました。グループにしているから「協同的な学び」を実践しているという考えとは、明らかに違う考え方です。また、大学での80〜100人の大人数での授業であっても実践している「協同的な学び」の一端を、紹介されました。

佐藤学先生のお話はぜひ聞きたかったという思いが、私も含めてあります。それに代わることは困難でも、鳥居松小の先生方や参加の先生方に伝わる何かがあったなら幸いです。公開授業研究会は、2年目から開催されるのが普通です。1年目を公開したことで、鳥居松小はこれまでにない事例を提供されました。2年目3年目と、子どもたちがどのように変化していくのか、今回の参加者は注目していくことでしょう。それは、後に続く日本中の多くの学校への大きな貢献になると考えます。

(2012年3月5日)

副島 孝

●副島 孝
(そえじま・たかし)

1969年から教員生活をスタート。小学校教諭11年、中学校教諭(社会科)10年、小牧市教育委員会指導主事、小学校の教頭校長や愛知県教育委員会勤務を経て、小牧市教育委員会の教育長を2001年から2009年まで8年9か月務めた。小牧市教育委員会のホ−ムページで「教育委員だより」、郷土文芸誌「駒来」に「乱読日録」を連載するなど、原稿に追われる毎日であった。2009年4月から2年間、名古屋大学教育学部大学院で、教育方法学を学んだ。授業実践と研究の両方の楽しさ厳しさを知る立場から、現在は愛知文教大学客員教授を務めるかたわら、小中高等学校での現職教育の支援をしている。