主張

平成19年12月5日

中央教育審議会
教育振興基本計画特別部会長
三 村 明 男 様

全国連合小学校長会長
池  田  芳  和

教育振興基本計画(案)についての意見

中央教育審議会教育振興基本計画特別部会が、改正教育基本法の定めに従って、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための「検討に当たっての基本的な考え方について(案)」と「重点的に取り組むべき事項について(案)」を示されたことに敬意を表します。全国連合小学校長会(以下、全連小) は、「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」(中央教育審議会答申 平成15年3月20日)が提出されて以来、教育基本法改正案に対する見解や教育振興基本計画の在り方についての検討委員会を設置して意見表明を行ってきました。今回示された両(案)の内容には、全連小として提案した内容がかなり取り入れられており、この案に基づいて教育振興基本計画が策定されることを期待していますが、追加提言したい内容について下記のとおりとりまとめましたので、今後の検討に加えていただきたく意見を提出します。



1 検討にあたっての基本的な考え方(案)について

(1) 計画策定にあたっての基本的考え方

 

1.我が国教育の成果と現状の課題について

「我が国教育の成果と現状の課題」で述べられている高い評価を得ている教育の実現の背景には、日本国民の教育に寄せる思いや学校教育に「日本の教師が築いた世界に誇る指導技術があること」を認識し、人材育成にとって教師の存在が大きいことを明記すべきである。

また、様々な部面で教育力の低下が見られる中にあって、一部教師の非行及び指導力不足を取り上げ、多くの教師の評価とするような「教師バッシング」により、有能な教師が自信と誇りを失いかけている。この状況に鑑み、学校教育の振興に当たっては教師が子供に与える感化は大きく、人材確保の重要性を正当に評価し、明記すべきであると考える。

2.教育の使命

「考え方」では、教育の使命の普遍性は認められており、「教育は、国、地方公共団体、保護者、地域住民、企業など様々な関係者の相互の取組により成り立つものである。」と述べていることから、「教育は教育作用によって成り立つ」と認識していると考えられる。しかし、学校教育の作用は、教育体制や関係者の協力、学習指導要領に示された内容のあるべき姿として示され、重要な役割をしている「教師の教育作用の重要性」という認識が示されていない。教育の使命の実現に当たって、教師の役割の重要性をもっと採り入れるべきと考える。

3.「教育立国」の必要性

「教育に大きな投資を行ってきた。」とあるが、「集団教育を効率的に行う投資を行ってきた」のであって、「個々に対応した教育投資」を必ずしもしてきたとは言い切れないと考える。

「多くの先進諸国が教育への投資を増大させるようになっている。」ならば、我が国においても「教育立国の実現に向け社会全体で改革に取り組む」考えを推進しつつ、教育投資をすべきであると考える。

4. 教育振興基本計画のねらい

「今後10年先を見通した施策の基本的方向と、政府が5年間に取り組むべき具体的方策」は、妥当であると考える。

(2)今後求められる教育施策の基本的方向

  ○今後の教育施策の目指すべき基本的方向としての四つの基本的方向は望ましいと考えるが、1社会全体で教育の向上に取り組む2個性を尊重しつつ能力を伸ばし、個人として社会の一員として生きる基盤を育てる等において、「教師の地位向上を図り、社会全体で教師を支え尊敬することに取り組む」方策が子供の教育にとって必要である。4安全・安心で質の高い教育環境を整備する中にも「教育の最大の環境は教師である。全力を挙げて教師の資質の向上を図るとともに、授業準備や評価活動を含めた『子供と向き合う時間の確保』に努める」等の記述が欲しい。

2重点的に取り組むべき事項について(案)について

(1) 「社会全体で教育の向上に取り組む」への追加項目

 

1.学校・家庭・地域の連携協力を強化し、社会全体の教育力を向上させる

◇地域ぐるみで学校を支援し子供達を育む活動の充実

  • 授業への地域ボランティアの参加
  • 家族ぐるみでの自然体験やボランティア活動への参加

◇コミュニティースクール(学校運営協議会制度)の設置促進

  • そのためには、地域の特性の考慮、学区域の弾力化や小中一貫校の在り方について、全国的な視野に立って検討する

◇青少年を有害環境から守るための取り組みの充実

  • 「たばこ自動販売機」にカード発行により年齢制限を明確にする取り組みが始まろうとしている。この例を見習い、売りさえすればよいという企業の姿勢に教育的視点から厳しく追及し、国民世論に訴え、啓発することを盛り込みたい。

2.家庭の教育力を向上させる

◇子育てに関する学習機会の提供など家庭の教育力の向上に向けた総合的な取り組みの充実

  • 課題のある家庭への専門スタッフによる支援の方法の検討

◇幼稚園等を活用した子育て支援の充実

  • 高齢者を中心とした子育てネットワーク等の組織作り

(2)「個性を尊重しつつ能力を伸ばし、個人として社会の一員として生きる基盤を育てる」への追加項目

 

1. 知識・技能や思考力・判断力・表現力学習意欲等の「確かな学力」を確立する

◇学習指導要領の改訂と着実な実施

  • 体験的な学習を重視した総合的な学習の時間の一層の充実
  • 全国格差なく、小学校英語教育導入に向けての人的物的整備を行う

2. 規範意識を養い、豊かな心と健やかな体をつくる

◇伝統・文化に関する教育の充実

  • 地域に限らず、我が国の優れた伝統文化を鑑賞・体験できる機会づくり

◇子供の体力向上に向けた総合的な方策の充実

  • 学校以外にも公園や遊び場を確保整備する
  • 放課後子供プランは学校教職員の負担にならないよう人材と場所を確実に確保する

◇食育の推進、地域の医療機関との連携による心身の健康作り

  • 子供の心身の健康保持に関する総合プランを策定し国民運動を展開する

3. 優秀な教員を養成・確保すると共に、一人一人の子供に教員が向き合える環境をつくる

◇優れた教員を確保するための優遇措置の維持及びメリハリある給与体系に実現

  • 重要な職を担う教員への優遇措置

◇教育課題に対応するために必要な教職員定数の措置等

  • 多様な指導法の改善に取り組めるような教職員定数の改善
  • 学校の実情にあわせた柔軟な学級編制基準の見直し

◇教員養成・研修の充実

  • 教育実習期間の拡大や採用前現場実習用の充実による質の高い教員の確保
  • 優秀教員制度の整備充実

◇指導が不適切である教員に対する厳格な人事管理

  • 国としての教員評価制度のシステム化

4.教育委員会の活動の充実を促進するとともに、学校の組織運営体制を確立し、学校教育を充実させる

◇新しい職の設置等による学校の組織運営の改善

  • 学校事務職員を学校運営にかかわる力をつけるための資質向上策を検討する

5.幼児期における教育を充実する

  • 小学校低学年の教育内容・指導方法についての具体的連携策

6.特別なニーズに対応した教育を充実する

◇特別支援教育の充実

  • 特別支援コーディネーターの専任化等、予算や人材確保に向けた措置

(3)「教養の厚みを備えた知性あふれる人間を養成し、社会の発展を支える」

※高等教育に関する部分のため略

(4)「安全・安心で質の高い教育環境を整備する」への追加項目

 

1.安全・安心な教育環境を実現する

◇学校施設の耐震化や施設環境の改善・充実

  • 5年で全国の小中学校の耐震化を図る

2.質の高い教育を支える環境を整備する

◇学校図書館の整備充実

  • 学校図書館整備計画(3カ年)の策定
  • 学校図書館を教育情報センターとして整備する

◇学校の情報化の充実

  • 全ての学校の教室にインターネットに接続したパソコンを導入し授業で活用できるようにする