主張

平成19年6月5日

教育相談等に関する調査研究協力者会議
  座 長 様

全国連合小学校長会長
池  田  芳  和

教育相談に関する調査研究について(意見)

教育相談等に関する調査研究協力者会議が精力的に調査研究を進めておられることに敬意を表します。子供たちの学校不適応が大きな社会問題になり、学校に臨床心理士などのスクールカウンセラーが導入されたのは平成になってからです。主に中学校に配置された経緯があり、小学校は未だ必ずしも充実したものになっていない状況があります。

学校の教員は五者(学者、医者、易者、役者、行者)でなければならないと昔からいわれてきました。また、平成17年10月の「新しい時代の義務教育を創造する」(答申)の「第二章 教師に対する揺るぎない信頼を確立する」においても、「あるべき教師像の明示」に優れた教師の条件として(1)教職に対する強い情熱(2)教育の専門家としての確かな力量(3)総合的な人間力の三つの重要な要素が指摘され、全人格的な資質・能力が求められています。

しかし、不登校、いじめ、学級の荒れ、問題行動、小一プロブレム、虐待等の問題は専門的な立場からの支援を必要としています。小学校における教育相談体制の充実のためには、校内における組織的な対応努力が重要であることはいうまでもありません。教師に自信を持たせたり、人間の成長・発達についての深い理解をもたせたりするためにも専門家としてのカウンセラーの充実は必要であり、十分ご検討いただくようお願いします。

また、教員の勤務実態を考えたとき、相談を実施したり、打合せをしたりする時間の確保や精神的なゆとりの確保が重要になってくると考えられます。その点も検討していただけると幸いです。

下記のとおり論点に沿って、全連小の意見を述べますので、よろしくお取り計らいください。



1 教育相談(体制)の充実について

(1)教育相談の今日的な意義とはどのようなものか。

 

近年、学校現場で際だって増加している児童の発達上の課題や保護者の養育上の課題に対応するため、教師が教育相談的な姿勢(カウンセリングマインド)をもつとともに、カウンセラーの専門的な診断(アセスメント)と具体的な支援が強く求められる。起きた問題行動に対する治療的な教育相談のみならず、予防的・開発的な教育相談が重要な時代と考える。特に次のような対応が考えられる。

  1. いじめや友人関係の悩みなど、対人関係能力の低下傾向への対応
    近年、二者関係が不十分な児童が増加していると感じる。どのように相手を感じ、どのように友だち関係を気づいていくかという、いわば発達課題を遡ってクリアする支援をする「育て直し」に、教育相談が重要な役割を果たす。特に、ネガティブな感情を受け入れることが非常に苦手な児童の増加を目の当たりにするとき、従来のソーシャルスキルトレーニングだけでなく、感情を重視した教育相談的視点を取り入れた学びが必要。
  2. 軽度発達障害児童への対応
    集団の中の児童の行動を見て、教師が「あれ?」「どうして?」と感じる最初の気づき。そうしたエピソードをつづっていくと、軽度発達障害の心配される事例が少なくない。こうした事例研究に対するコーディネーターとしての見立てや助言が強く求められている。また、医療や福祉、就学前教育への豊富な知識・情報をもっていることも重要な要件になる。
  3. 児童の身体的な未発達傾向への対応
    体の動きや起立のバランスが悪くぎこちないなどの身体機能低下が目立ち、単に運動で鍛えればすむ問題ではないと思われることがある。動作に関わる見立てや支援を含めて、教育相談の意義を感じている。
  4. 児童虐待児童への対応
    学校は、児童虐待にいち早く気づく場合が多い。児童の安定を図り、生きる気力を取り戻すために、カウンセラーによる教育相談が欠かせない。
  5. 災害や事件後の不安への対応
    阪神淡路大震災などの天災や、希有な殺人事件のみならず、現代では日常的に起こりうる不審者による被害などに遭遇した直後の教育相談が、その後の児童の安定に重要な役割を果たしている。
  6. 学級集団に関する見えにくい状況の把握
    揺れ動く子供の心理など学級集団の診断として、教育相談的な実態把握と分析の手法が求められている。

(2)学校段階に応じた教育相談とはどのようなものか。

 

学校段階における教育相談とは、伸びゆく子供の成長・発達への信頼を確信し、それを阻害する要因を見極め、本来の成長・発達へと導くものである。

そのために、一つは、具体的な方法論を伴うものである必要がある。相談はしたが、なすすべがないのでは役立たない。必ず、「こうしたら」「この方法を」という支援の手だてが生み出せる必要がある。

二つめに、小学校段階では、保護者相談を視野に入れる必要がある。保護者の見立て、保護者との連携の糸口、次へのつなぎ方、相談への誘い方などを具体的に示す必要がある。

(3)教育相談がうまく機能するためには、どのような体制、組織が必要か。

 

学校は、病院などの機関に比べて、教員集団における一職種職場であることから、様々な事例や事態への対応に自ずと限界が出る。ここに異種のメンバー構成ができれば、対応範囲等に広がりが出てくる。チームによる対応や援助を考えていく体制が必要である。

次のようなことが必要と考える。

一つは、定期的にケース会議を開くための定例会議の場が必要。

二つは、管理職に、校内のすべてのケースが集約されていることが必要。

三つめに、解決の見通しを立てる手順や進行表、具体的手だてが言葉で表現されることが重要。

四つめに、記録に関する考え方とその取り方、管理方法が明確になっていることが重要。

五つめに、教師が体験的に身に付けた教育相談的なかかわりを肯定すること。

特に、五点目のことは羅生門的評価としても知られており、この観点を教師に与えることによって、意欲と自信を持たせていきたいと考える。

(4)子供の様々な状況に対応するためには、関係機関等とのネットワークをどのように築いていったらよいか。

 

連携を築いて行くための中心的な役割を担うのが、特別支援コーディネーターであろう。全連小の調査によると平成18年度調査校の94.4%で特別支援コーディネーターが指名されている。しかし、コーディネーターが外的なリソースに対してのつなぎが必ずしもとれていないことから、つなぎの付け方などの実際的な研修が望まれる。

まず、関係機関のフェイスtoフェイスのかかわりが重要である。年度初めの顔合わせなどをおろそかにしないことが重要であるが、次のような実務的な研修も必要である。

  1. 各機関がどんなことができるかという業務内容とその限界の説明。
  2. 連携と守秘義務との関係について明らかにし確認し合うこと。
  3. 事例の主訴と相談の開始、終結をはっきりさせること。


2 スクールカウンセラーについて

(1)スクールカウンセラーの役割や機能とはどのようなものか。

 

教師、児童、保護者に対する次のような相談活動

  • 初期の問題行動、軽度の問題行動への相談対応
  • 問題の深さを判断して固定の相談室や関係機関につなぐための助言
  • 学校の指導方針へのスクールカウンセラーとしてのコンサルテーション

(2)スクールカウンセラーを有効に活用していくためには、どのようにしたらよいか。

 

有効な活用のためには、一つは、相談の母体となる校内組織、二つは、校内のオープンな雰囲気が欠かせない。

町田市立鶴川第二小学校では、教育相談委員会と校内委員会との二つの委員会を設置し、毎週交互に継続的なケース会議を開いている。学校規模にもよるため、委員会のもち方は多様でよいが、少なくとも校内にケース会議を継続的に開く基盤が必要。また、毎週、曜日を決めて生活指導朝会を開き、校内の共通理解とオープンな雰囲気作りを心がけている。

(3)スクールカウンセラーの資質向上には、どのようなことが考えられるか。

 

以下の点を中心にしながら、連携力を高める必要がある。そのためには、スクールカウンセラーの心理、感情と言葉とが一致していることも重要。平易な言い方をすれば、教師が余計な気を使わずに率直に話せること。現場に入りインターン制度による養成が有効ではないかと考える。

  1. 管理職への連絡・報告・相談、学校経営方針の理解
  2. 教師の指導性(指導方針やねらい)を理解する能力(厳しさと優しさ)
  3. 学校の役割(勉強するところ、集団生活を学ぶところ)の理解力
  4. 教師と子供、保護者の関係性を理解し生かそうとする姿勢
  5. 子供集団の関係性への理解
  6. その他、礼儀、言葉遣いなどの社会性

(4)スクールカウンセラーを安定的に配置していくためには、どうしたらよいか。

 

すべての小学校に配置するためには、予算面を勘案し、最小限で最大限の効果を上げることのできる配置を検討する必要がある。週1回でよいから、朝から夕方まで、まる一日の配置が重要である。半日の配置では、例え日数が増えても、効果は半減以下、大きく縮小してしまう。多いとは言えないスクールカウンセラーを、安定的に配置するためには、どの学校にも週1回、終日勤務として確保することが有効である。