【第5回】ノート指導を中心としたある研究授業の紹介
前回、ノート指導のお話をしました。そのノート指導を国語の授業で取り入れ、教職2年目のK先生が研究授業をされました。職員室で私の隣にすわっているK先生は、2年間連続でいっしょの学年を担任しました。1年目は、いろいろと考えながら私のやり方を見ていたのだと思います。今年は、「がんばって研究授業をやってみたら」と私の方から声をかけました。とても素直なK先生は遠慮がちに「はい、やってみます」とおっしゃってくださいました。それから、二人三脚でのノート指導が始まりました。私にとっては新任以来ずっと続けている方法なので時間的にも短い時間でできますが、K先生はとても大変だったと思います。まず、K先生の研究授業までの歩みを紹介し、ノート指導のポイントを示したいと思います。
******
国語「サーカスのライオン」を通しての研究授業で
第一次感想を書く
新出漢字を練習し、意味調べをしたあと、第一次感想を書かせます。このときには、次のような点に注意しています。
子どもが全員出席していること
当たり前のようですが、10時間近くの読みとりのスタートで欠席すると、子どものモチベーションがとても下がります。初めて読んだときに感じた疑問、感動、それをクラス全員で共有する空間を大事にしたいと思っています。可能な限り、時間調整をして全員がそろったときに感想を書かせます。
教師が感情を込めて範読する
{…}の部分の間をあけ、笑える部分では子どもが自然と笑えるように、「ウオー」と叫ぶ部分では本当にライオンのように。読み終わったあとに、子どもの心に感動や疑問や不思議さが残るようにていねいに読みます。教師の朗読がうまければ、子どもたちは、物語の中のポイントとなる点を学習課題として、きちんと選びます。
意味がよくわからなかったところ、みんなで考えてみたいと思ったことを書く
感想よりもこの課題作りに重点を置いています。意味調べをしたあとなので、語彙としての疑問点は排除されています。ですから、主人公「じんざ」の気持ちが理解できない点を選び出してくれます。
短冊に子どもの疑問点を書く
「なぜ アフリカの夢をみたのだろう? …A子」「きらいなチョコレートを男の子からもらうときは、どんな気持ちだろう? …B男」
「金色に光るってどんな感じだろう? …C子」
「ライオンは死んでしまったのに、なぜみんなは拍手したのだろう? …D男」
こんなふうに子どもの疑問点を順番に課題として提示しながら、授業を進めます。友達が感じた疑問をみんなで考えていくというスタイルです。
授業の後半に次時の課題についてひとり調べをする
1時間の授業の流れ
前時の復習、音読 | 今日の課題に対する話し合い | 明日の課題に対するひとり調べ |
10分 | 25分 | 10分 |
ひとり調べで自分の考えをノートにきちんと書いてあるので、子どもたちははりきって挙手をします。K先生のクラスも研究授業で8割近くの児童が発言をしました。算数とちがって答えが明確にはなっていませんから、自信を持てない子が多かったのですが、このノート指導を続けていくうちに変わってきたようです。
この1時間の授業パターンを単元終了まで毎日続けるのでK先生もずいぶん大変だったとは思いますが、子どもの思考の変化、発言の変化が見えてくるので、ノートを見ることも楽しみになってきたようでした。子どもたちが「変わる」というのは、やはり教師の最大の喜びとなるようです。
【ひとり調べのノート指導のポイント】
★ポイント1…自分の考えの良いところに朱線を入れて励ます明らかに勘違いをしている点は、ノートの中で指導しておけばよいと思います。無理矢理反対意見を作り出すようなノート指導は、賛成できません。
★ポイント2…子どもの考えを把握して板書計画を立てる
だれがどのような意見を持っていたかを把握して、メモしておきます。そうすることで、授業の話し合いの中での教師の方針が決まります。
「Bさんの意見が出たときには、Cさんとつなげよう。おとなしいCさんは挙手しないかもしれないので、もし挙手していなければ、こちらから声をかけて発表のチャンスをあげよう」
上記のように次時の話し合いでの方針を決めておきます。
指導案のように清書する必要は全くありません。自分のメモとして板書計画を立てるだけですから、字が汚くてもかまいません。メモとして書いておくつもりでやるといいと思います。
K先生も初めてのときは、3回も書き直して何時間もかかったそうですが、2回、3回と回を重ねるごとに、あっという間にスピードが速くなりました。
板書計画は子どもの考えを類型化することにも役立つので、子どもの考えを全体的に把握する力をつけるのにも役立つと思います。
子どもたちには、自分の考えを整理させたり、確認させたりするためにノートを利用します。ところが、話し合いのときには、ノートに書かれたことに頼りすぎてうまく発表できなくなることがあります。
そこで、授業の初めに自分のノートに書かれた内容について一度読む時間を与え、そのあとはノートを見ないで発表させるようにしています。
ノートを見ながら発表させると…
- 無味乾燥な読み方になる。ノートを見ないで発表すると自分の言いたいことを強調したりゆっくり言ったりするので、他の子どもに意味が伝わりやすい。
- 書かれた内容しか言わない。ノートを見ないで発表すると、その授業で聞いた友達の意見と比較検討しながら考えた意見へと内容を発展できる。
実際、K先生の授業は研究授業前にも1時間参観させてもらいましたが、そのときは、ノートを見て発表していたので、どの子も下を向いて話しており、友達に聞いてもらうという雰囲気がありませんでした。ところが、研究授業では、子どもが友達の目を見ながら発表するので学級全体のテンションがとても高くなっていました。「話したい」「聞いてもらいたい」という空間がそこには存在していたように思います。
ノートを見て、板書計画を立てる、これを7日間ずっと毎日続けるのですから、その期間は大変ですが、先にも述べたように、確実に子どもの考えの変化が読みとれます。「全然発言しないY子さん。でも、ちゃんと主人公の気持ちはわかっていたんだ。」とK先生は目を輝かせて報告してくれました。
物語教材は、年々減っており、1年間にも数えるほどしかありません。何か月かに一度、こんなふうに頑張ってみる1週間があってもいいのでは? それ以上に子どもからの感動をもらえるので。
(2004年11月29日)