愛される学校づくり研究会

【第2回】道徳ではこんなふうに課題を提示しては?

―道徳「なかよしだから」(3年)<平成15年10月3日の実践で>―
 

1.資料の内容

主人公「ぼく」は、実君にボールの投げ方を教えてあげるぐらい仲良しである。ところが、ボール投げを教えてあげた翌日、「ぼく」は算数の宿題を忘れてしまい、実君に見せてもらおうとする。しかし、実君は「仲良しだから教えられない」と言って教えてくれない。怒る「ぼく」だが、最後に「だんだん実君の言ったことがわかってきた」とつぶやいて終わる。

 

2.課題の提示場面

最初に教師の模範で資料を読んだあと、30秒ほど子どもの様子を観察した。ただ、だまって観察しただけである。すると、A君がその静けさの中で「だんだんわかってきた?」と不思議そうにつぶやいた。
 その言葉を全体に復唱したのである。

T : (資料を読んで黙っている)
C1: だんだんわかってきた? (不思議そうに首をかしげてつぶやく)
T : A君、なんだか不思議そうだね。もう一度今言ったことを言ってみて。
C1: 「だんだんわかってきた」ってなんのことかなあと思って。
T : 「だんだんわかってきた」ってなんのことかなあってわからなかったの?
C1: うん。だって「ぼく」はおこってたはずだもの。なんで「だんだんわかってきた」のかなあ。
T : (クラス全体を見渡すとうなずいている子が多いことに気がつく)
T : A君と同じようにふしぎだなって思った人?
C : (多数挙手)
T : 同じように不思議に思ったんだね。じゃあ今日はこのことを考えてみようね。

 

3.つぶやきを課題に広げるコツ

●資料を与えたあとは余韻を持つ

子どもがその資料に没頭していれば、必ず反応を示そうとします。表情だったり、思わずつぶやいたり。その反応を出せるように時間をおいて観察することが必要です。ただし、これは、他の授業でもいつもしなければなりません。この授業だけでそういった空間を持っても反応を示しません。
 国語で模範読みをしたあと、音楽で鑑賞曲を聴いたあと、ビデオ鑑賞をしたあと、など、いつも教師から投げかけられた資料には反応する習慣を身につけさせることが必要です。

●子どもの表情を観察して、タイミングをつかむ

子どもは声にならない発言をします。表情で発言します。首をかしげたり、うなずいたり。それを見逃さずにタイミングよく指名してあげると素直に今感じたことを発表します。
 挙手していないのに、指名されても意見が言えるのは、タイミングがよいからです。いくら、昨日のノートには自分の意見がまとまって書かれていても、今、このとき、課題について考えていないときに指名してもよい意見は出てこないことでしょう。
 「え、先生、何言えばいいの?」と子どもが言ったときは、指名のタイミングがずれているときです。

●ひとりのつぶやきを共通の課題に広げる

つぶやきは一人のものです。それを取り上げたら、全体の課題としていいのかどうかを確認するとよいと思います。「A君と同じように感じた人?」と問いかけることで全体に安心感が広がるからです。算数でも自力解決をしたあと、「迷ったところ」「解けたけど自信がないところ」を発表させるようにしています。まだ、本時における課題について学習していないので不安になっている子どもがたくさんいます。そのときに、「いいよ、今からそのわからないところをみんなで勉強していくんだからね」と声をかけます。そのことで「今はわからなくていいんだ。これから、勉強してわかるようにすればいいんだ」という目標が生まれてきます。
 「自分一人がわからないのではないから、安心して考えよう」という気持ちで課題を受け止められるようにするのです。 

●もう一度A君にもどって変化を確かめる

A君の疑問から本時の課題がスタートしました。これは、教師の考えた課題とぴったりあっていたので、授業は比較的スムーズに流れます。合っていない場合は少し大変ですが。
 授業の最後には、もう一度A君に「どうだった?『だんだんわかってきた』という意味がわかった?」と問い返します。しっかりと授業でそのことについて話し合ったので、今度は自信満々で答えることができます。疑問に思っていたことがすっきりと理解できた顔に変わります。
 この変化が授業の成果だと思います。だから、必ず最後には、疑問を出した子にもどってほしいと思います。これも、学習の習慣なので、慣れてくると「ちゃんと先生がぼくのところへもどってくる」と思っているので、すらすらと返答ができると思います。
 

子どもの感想

友だちというイメージは、ぼくにとっては、なかよくすることだけだった。たすけてくれるのがなかよしだと思っていた。でも、今日勉強して、ぼくのしょうらいのことを思ってくれて言うこともあるんだなとわかった。しょうらい自分のことが自分でできないとこまるから、「教えられない」と言ったんだとわかった。

(2003年11月3日)

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●和田 裕枝
(わだ・ひろえ)

愛知県豊田市立若林東小学校教諭。愛知教育大学の志水廣教授に800人見た中で一番授業がうまい人!と言わせた高い授業力の持ち主。特に、子ども把握力に優れ、授業では、その子のよさを活かす様々な授業技術を駆使する。和田さんの授業力を盗みたいという全国の教師は多数。