【第11回】鉄は熱いうちに打て! 1年生の生徒指導が3年間を決める!<苦しいことをどんどんやらせよ!―駅伝編>その4
続編がしばらく止まり、「なんと中途半端な〜!」「早く続きを書けー!」と思ってみえる読者の方はほとんどいないと思いますが、駅伝指導、進路指導にも一区切りついたので、再開したいと思います。しばらく間があいたので、前編の内容をお忘れの方は、コラムのバックナンバーを読み直してからお読みください。続編が遅れ本当に申し訳ありませんでした。
3000mや2000mの計測結果をもとにいよいよ試走に出かけることになる。土曜日の朝7時…少し薄暗い中続々と生徒が集まってくる。まずは学校で1次アップ。きちんと整列し、集団意識を高めるジョギングから入る。さすがに毎日走り続けているため、ジョギングでおいて行かれるものは一人もいない。(1年生にとっては初めて練習したときよりかなり早いペース)。そして、試走のときのスタート直後の飛び出しのペースをつかむための練習をしていると、試走引率のための先生たちの車が続々と集まってくる。まるで暴走族の集会が始まるかの如く…。その数約30台。休日の早朝、平日の勤務時間よりはるかに早い時間に多くの先生方が集まってくれるのである。これも、駅伝部を支える教師側の伝統なのである。そして、暴走族の集会のように集まる車の多さを見て、生徒たちもやる気を出すのである。
「練習中期第2段階」 計測と試走会の連続
<持ちタイムで区間が変わるサバイバルマッチ>
〜「3年がやれば、1年も苦しいけれどだまってやっちゃう伝統作戦」
いよいよ試走に出発である。3年生は過去2年間で、9区間のうちのかなりのコースを熟知しているので、細かいコース説明をしなくてもきちんと1・2年生を引っ張ってくれるので、引率の先生も非常に楽である。試走はまず各区間のスタートからゴールまでのコースを車で確認し、ゴール地点で生徒をおろし、コースをアップがてら逆走させ、試走タイムを計測するという手順で行う。
<各区間に向かう車の中ではこのような会話がされている…多分…>
教 師 | 「だれかこれから走るコース知っているやつはいるか?」 | |
3年生 | 「ぼく、知っています。毎年3区ばかり走らされていますから」 | |
教 師 | 「すごいな! ずっとこのエース区間を走っているのか。お前は力があるんだな」 | |
3年生 | 「先生それは違うと思います。これはいじめだと思います。今まで、お前はバスケ部で活躍するために、修行のつもりで走れ、3年生になったら好きなところを走らせてやるから、と言われてきましたが、今年もまた3区ですから。だまされました…」 | |
教 師 | 「それは先生たちがお前に期待しているということだ! まあ今年も諦めて走れ!」 | |
3年生 | 「今年は3区だけはやめてください…と頼んだのに…。文句ばかり言っていたからかなー…」 | |
教 師 | 「それもきっとあると思うぞ。まあ諦めて必死になって走れ! そうしないと今年も本番3区かもしれんぞ…」 | |
3年生 | 「おい! 1・2年お前たちも修行のつもりで走れよ! いい加減に走るとこの3区から俺みたいにずっと抜け出せんぞ! 3区はきついからペースを考えて走れよ! 前半とばしすぎると、ゴール前の坂道が登れなくなるから、真ん中くらいの下りでブレーキをかけず、リラックスして力をためておけよ! まあ、何だかんだといっても俺はこのコースはよく知っているから俺のペースについてこいよ…」 |
このように、3年生が自分がなぜその区間を走るにいたったかのわけのわからない身の上話や、1・2年生へコース説明をしながら現地に向かうのである。そして逆走のアップを終え、スタート前の休憩時間に、あらかじめ配布しておいた「心得プリント」に目を通し、試走に備えるのである。この「心得プリント」も雰囲気を盛り上げ、楽しく走るためのだましのテクニックの一つである。
駅伝大会 スタート前の心得
その1 | 身体を絶対に冷やすべからず。 暖かい格好でアップをするべし。現場でぼーっとしているなど言語同断! |
その2 | コールを忘れるべからず。 決まった時間になったら、コール(選手受付)を必ず行うこと!忘れると出場できないことに。通過予定時刻の40分前と20分前にあります。必ず受けてください。 |
その3 | 緊張しすぎるべからず。適度な緊張感を持つべし! 勝負より自分のベストが出せればよい。(リラックスして、楽しみながら走ろう! ) |
その4 | 時間になったら、自分のスタート地点の近くでうろつくべし! 最終コール後は、スタート地点付近で熊のように身体が冷えないようにうろついていよう! |
その5 | 上着をぬぐタイミングを誤るべからず。 (早すぎても遅すぎてもいけない! ユニフォームにコートをはおってうろつきながら待とう!) |
その6 | 入念なウオーミングアップに心がけるべし! アップ不足では、いい記録が出ません。現場についたら引率の先生の指示で以下のメニューを行うこと! 少し汗ばんでいる状態でスタートできれば最高だー! |
「現場でのアップメニュー」 1 10分から15分のジョギング 2 20mから30mの距離で身体ほぐしの運動 (1) スキップ(膝をしっかりあげるよう心がけて) ×2 (2) サイドステップ(左右)各1 (3) クロスステップ(左右)各1 (4) ひざおろし大股歩き×2 (5) キックバック×2 (6) ももあげ×2 (7) ダッシュ×3 3 100mの加速走×3〜5本 4 身体が冷えないようにジョギング(その間にダッシュなどを自分の体力にあわせて入れる) |
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その7 | 走る前に必ずトイレに行っておくべし! 走っている最中ちびったら大変だー!!! |
その8 | チームを間違えるべからず。 きちんと自分のチームの人からたすきを受け取ろう、間違えたら失格!そんなぁ〜… |
その9 | 何人たりとも自分の前を走らせないという気持ちを持つべし! スタートしたら前を走っている人を一人でも二人でも抜こうとする気持ちでスタートを迎えよう。ただし、スタートでオーバーペースにならないように注意! |
その10 | スタート前、自分のほっぺた、ももに気合いを入れるべし! |
駅伝大会 走っているときの心得
その1 | 自分と仲間の力を信じるべし! 2か月半も練習してきたのだ、自分のベストが必ずだせるはずだ! 自信をもとう! |
その2 | たすきは、仲間との心をつなぐ絆だと心得るべし! 駅伝は、みんなで心を一つにし、勝利への想いを一本のたすきにたくし引き継いでいくすばらしいスポーツだ。ゴールまでみんなの思いをつなげていこう! |
その3 | くそ意地を出して走るべし! 「苦しくなってからが粘りと根性の見せ所!」状況に応じて、今までやってきた練習を冷静に思い出せ!インターバル、ビルドアップ、ペースラン…いろいろやってきたではないかいな。 |
その4 | 一つでも二つでも順位を上げる走りをするべし! 自分の前に人がいたら、まずは一人抜くことを目標にしよう! 一気に抜くのは難しい。じわじわといやらしく前に出るように心がけよう。 |
その5 | 調子の悪い人をみんなでカバーするべし! ひょっとしたら、今まで一生懸命練習してきたけど、思うような結果が出せないこともあるかもしれない。他の人がその人の分まで頑張ろう! チームワークが大切だ。 |
その6 | 駅伝を楽しむべし! 走っていてメッチャ苦しいときがある。その苦しみを克服することが駅伝の楽しさと知るべし。苦しくなったら少し気持ちを落ち着けて、自分の周りを通り過ぎていく風景に目を向けてみよう! 周り木々・風や空気が力を与えてくれる。 |
その7 | すべてを出し切るべし! この一本を走り終えれば、本年度の長かった駅伝の練習も終わります。自分の全身全霊を傾けた最高の走りをしよう! 悔いの残らない走りにしよう。結果はあとからついてくる! |
その8 | たすきを手に持ったときはラストスパートの合図だと心得るべし! 次の人にたすきを渡す100m位前になったらたすきをはずして手にしっかりと握りしめて、猛烈スーパーダッシュをかけよう! 100m走のつもりで走れ! そして、自分の想いを次の走者に引き継げ! |
その9 | たすきをもらう人は、超ばかでかい声で合図を送るべし! チームの仲間の姿が見えたら超ばかでかい声で、自分の存在を知らせよう!「スパートだ! ファイトー! がんばれー!」と仲間を励ますのも忘れないように! |
その10 | 自分をほめてやるべし! 大会まで、途中でやめることなく練習を続けてきた自分をほめてあげてください。この経験は、これからの人生の中で絶対に役に立つものです。 |
このプリントを大切に保管し、本番のスタート直前までポケットに忍ばせている生徒もいる。そして、試走から帰ってくると、いろいろな声が聞こえる。
「先生! 俺あと10秒で去年の区間記録を破れるよ!」 | |
…と満足な走りができて喜んでいる生徒。 | |
「先生…今日全然走れんかった…。去年の自分の記録より40秒も遅い…これからもっと根性入れて練習しないかん…」 | |
…と落ち込んでいる生徒。 | |
「先生! 今日走った区間俺に向いているから、次も同じ区にしてね」 | |
…と勝手に思いこんでいる生徒。 | |
「先生…A君に負けた…悔しいからもう一度勝負させてね!」 | |
…と闘争心むき出しの生徒。 | |
「先生! 辛すぎる…もっと短いコースにして! 次同じコースだったら俺試走休むよ!」 | |
…と泣きのはいる生徒。 | |
「先生! お願いですから1区だけは勘弁して下さい…」 | |
…と半泣きになっている生徒。 |
1・2年生は、先輩たちの声を聴きながら、楽そうな区間の情報集めに必死である。しかし、私はこういった声には一切耳を傾けないことにしている。また、3年生はくどくどと文句を言っている生徒には、嫌な区間を永遠に走らせるという私の性格をいやというほど理解しているため、しつこく走る区間に文句を言う生徒はいない。それどころか、1・2年生に「お前たち! 自分の走る区間に文句言ったり、いい加減に走っていると、修行だ!とかいって辛い区間ばっかり走らされるぞ! 黙って試走会名簿の区間を走っておけよ! その方が幸せだぞ!」と教え諭してくれる…。これも伝統というものか。私にとってはありがたいことである。
こうして、記録会と試走会を繰り返し、3年生は意欲的に、苦しいことの中に楽しみを見い出しながら、練習後期に入っていく。1・2年生はこの期間を通して、駅伝の楽しさを3年生から引き継いでいくことになるのである。
(2005年2月21日)